裏庭
――暗い路を抜けると。
そこは、岸壁に囲まれた小空間。緑の苔が岩場を飾り外界とは隔絶された空間が形成されていた。
地面には苔の畑、そして水が流れ、岩場の端に流れ落ちている。
辿ると、ちょうどこの空間の中央付近から水が湧き出て小さい池を作り小川のようになっている。
中央付近に人工的に造られた畑があり、周りで花や草木を育てていた。
大きい石が椅子のように転がり一種の裏庭のような造りをしていた。
そして、泉の真ん中に何かを象った石碑が置かれていた。
「わぁ~、こんな所があるんですね!」
カティアは嬉しさの余り、声をあげて駆けだした。
「綺麗だね、カティアちゃん、川があるよ」
「ちいちゃい、でもきれい! フィフィちゃん、そこに苔がびっしり!」
「でも、水が流れているのは何でだろう? 閉塞している場所なのに……」
「師匠、なんでこんな所があるんですか? あっ、湧水がある!」
「見て、あそこで何かを育てている。あれが畑かな?」
「あそこに珍しい花があるよ」
「あっちの翡翠色の花、綺麗だね」
――2人は好奇心旺盛に走り回る。
「おい、はしゃぐな!」
ジョーは注意する。
「「は~い♪」」
カティアとフィフィは返事をしながら、はしゃぐ気配を止めない。
「たく、しょうがねぇなぁ~」
ジョーは諦めて持っていた荷物を石椅子の上に置いた。
――そして、もう1度、弟子達を見ると――。
「木箱鞄をココに置け! はしゃいでいると中身が落ちちゃうだろ!?」
そう命令口調にすると――カティア達は遊ぶのを止め、急いでジョーの所に戻ってきた。
***
「これから、この場所の説明をする。ここは、この洞窟が発見した時からある場所だ。そこから湧き出る泉は魔素を含み薬草を育てるのに最適な場所である。カンキョウ苔も生息する場所としても優秀で俺達はココで薬草類を育てている」
「師匠、1ついいですか?」
「カティア、なにかな?」
「この場所って師匠達が造ったんじゃないんですか?」
「違う、洞窟もこの場所も、たぶん、昔の住人が造った物だと思う。それに岩山を削る作業なんて大変で出来ないだろ? 依頼もあるし、その間にせっせと住みやすい場所なんて造る道理がない。ココは偶然発見して、俺達が有効的に占領している場所だ」
「それって、不法侵入ですか?」
「ちがう……開いている場所を偶然にも“精霊さん”が教えてくれたんだよ。ほら、それに発見時はかなりの時間が経過していたから……、ここに住んでいる奴もいなかった。つまり、空間が空いていた。そう、ここに使って下さいと言っていたような気がする」
ジョーはフワフワした物言いで明言を避ける。
確証も証拠もない場所の占領である。
持ち主不在。だからOKという内容だった。
ちなみに“精霊さん”とはこの世界での隠語で“運命的”を現す言葉に近い。目に見えない力で引き寄せられたと解釈できる。逆の意味で『精霊が怒っている』=『運が悪い』などという使われ方をしている。
「でも、住んでいた人が帰ってきたら?」
「それは無い、相当昔だと思うし……もう、死んでいる。だから、その後を有効利用して使っているという訳だ。問題無し!」
「なるほど……、じゃあいいですね!」
カティアもそれなら大丈夫と安心した。
フィフィも、「それなら大丈夫だね、カティアちゃん」と言っていた。
「そう言う事だ。よし、説明に戻るぞ」
そうやって、いいようにカティアとフィフィを納得させたジョーはこの場所の注意事項を言い聞かせる。
***
「それじゃあ、エブラフの葉、アラウル草、タイム、メリックの薬草を摘む。畑には他の薬草も植えてあるから気をつける事」
「「はーい♪」」
まずは皆でエブラフの葉を取りにいく。
畑近くにジョー程の高さの木の緑の葉をつけ成長途中であった。
「少し濃い緑色の葉っぱを採る事。黄色くなっているヤツと虫に食われているヤツは採るなよ」
ジョーがそう言うと弟子達から返事が返ってくる。
若葉を避け、成長している葉っぱを摘んでいくカティアとフィフィ。
薬草摘みでの教訓を生かし、丁寧に上手に適度に間と量を調整して摘んでいく。
(成長しているな……)
ジョーは自然と判断している手の動きを見ていた。
瞬時に判断する事が出来ていると安心する。
その後、畑に移動し アラウル草 タイム、メリックを摘んでいく。
「師匠、薬草がココにあるなら依頼の時に摘んでくれば良かったのでは?」
カティアは作業をしながらそう言う。
「アホ、なんでGランクの依頼か考えろ。あれは移動する訓練も兼ねていると言っただろ? それに警戒行動も出来るし、魔物の生息域の勉強にもなって、色々ためになるんだよ」
ジョーは答える。
「そうでした。でも……ここで薬草を育てたら楽になると思いませんか?」
「カティア、薬草が出来る条件を教えたよな……覚えているか?」
「はい、魔素の濃い湖畔近くで生まれるという話しです。そうすることで光を帯びるというのが薬草です」
「そう、昔の話だ。ある学者が生産量を上げようと研究していた。自然発生では無く、自ら生み出そうと考えた。そこでまずは自生している場所に行きどうやって育つか調べた所水辺の近くである事を発見する。そこで数を増やそうと同じ様な植物の苗を近くに植えた。数は100株ほど。さて結果はどうなったと思う?」
ジョーは唐突に質問をした。
フィフィとカティアは考える。
作業する手を止め、バッとジョーを見て――「成功した。全部薬草の材料になった」とカティアは答えた。
「カティアは成功したというがフィフィはどう思う?」――ジョーは尋ねる。
「ジョー師匠の言い方だと『失敗した』と思います」
フィフィは言う。
「うん、なるほど、正解は15株ほど成功して85株ほどは薬草に成らなかった」
「……師匠、それって成功なんですか、失敗なんですか?」
カティアはそう訊きかえす。
「どっちもだ、この話の教訓はなぜ15株成功し、85株失敗したということなんだけど、どう思う?」
「うぅ……そう言われると、どう言う事ですか? 成功する条件と、失敗する条件があるって事ですよね?」
「そう言う事だ。カティアはいい所に目がいっている。それが植えても意味の無い理由に繋がる」
「「う~ん……」」――カティアとフィフィは2人同時に悩んだ。




