弟子育成論
「――、と、言う訳で、雨水を利用するやり方。木を切って幹から水をとるやり方。地面を掘って蒸留させるやり方。木々の葉っぱに布袋を被せて『蒸散』させるやり方を教えてきた訳だが……、ここまでで何か質問があるか?」
ジョーはそのままカティアとフィフィに目線を合わせる。
林の中でひと通りの講義実習を完了させた後で弟子達と向かい合っている。
「はい、師匠!」――カティアは元気よく手をあげた。
「なんだ?」
「はい、やっぱり、魔術で水を集めた方が効率的だし安心だと思いました」
「…………」――ジョー意識を抜かれ、そのまま無言になる。
しかし、倒れそうな膝と折れそうな腰を何とか立て直した。
「バカヤロー、わかっているよ、そんな事は! この訓練の意義は魔力の無い状態でどうやって水分の確保をするかという事が重要なんだ!」
大声で感情的に怒鳴る。
「え~、でも、そこまで魔力を使わなければいいだけですよね?」
カティアは不思議そうにしていた。
「おい、俺は最悪の想定を考えて訓練しておくようにと言っただろ? もしも、怪我や病気で魔術の行使が出来無くなったら? もしも、魔力が無くなるほどの敵と戦い逃げのびた後は? もしも、魔術の発動しない状況だったら? とか、色々な場面を想定しろ!」
「確かに……、でも、そんな状況になるんですか? その前に回避できればいいんじゃないですか?」
カティアは至極真っ当な意見を返した。
短絡的ではあるが――。
(こいつ、それが出来ないと考え無いのか……、それで幾人の冒険者が命を落としたと思っているんだ。危機は急にくるから危機な訳で、自分の意図しない状況など無数にある事が当たり前の世界なのに……)
カティアの余りに楽観的な意見にどう反論し、言う事を聞かせようかジョーは考える。
「はぁ~……、確かにそうだ……」
ジョーは溜息を吐いて肯定する――ように見える。
「――でもな、その“もしも”の時になったら。確実に死ぬ事になる。だから“もしも”の時に生き延びるコツを教えているんだ。そうならないようならそれでいい。でも、そんな“危機的状況”でも生き残る可能性を模索していく事が大事だという訓練でもある。結果として助かればいい、だが、その過程の途中で最善の選択が出来るように前もって訓練する事こそ大事じゃないのか?」
「うぅ……そうかもしれません」
「カティアは俺の言う事を覚えずに過ごし、そうなった場合に思うんだ『あの時、よく習っておいた方が良かった』って、そんな後悔をする前に俺はお前達の師匠だから教えておく。不必要に思うかもしれないが、それだったらそれでいい。不必要な事を教えたなと怨まれてもいい、それは俺が師匠からだ。愛する弟子達を救うためにあえて憎まれ役になろう」
聖人君子のように目を輝かせてジョーは告げる。
悪いのは俺だ、さぁいくらでも汚してみろと言わんばかりの“聖人ぶりっこ”を演じた。
「うぅ……そんな言い方止めて下さい」
普段と違うジョーのやり方にカティアは気持ち悪さを覚えた。
「でも、そこまで言うならこの訓練は止めよう、さぁ……洞窟に戻るぞ」
ジョーはそう言って急に向きを変えた。
その後すぐに、カティアはガッシリとジョーの身体を掴む。――というか抱きついて拘束しようという気構えの抱きつき方だった。
「待って下さい、師匠、教えて下さい!」
そう大声で直訴した。
「いや、“優秀”なカティアには必要ない事だろ?」
「いえ、必要です。“未熟な弟子”に教えを下さい!」
「……必要無いだろ」
「いえ、必要です」
「……よし、わかった、訓練を続けるぞ!」
「はい、お願いします!」
そこまで――人通りの茶番劇が終わった所でジョーの背負っている蛇腹刀は思っていた。
【(こいつ、前に本に書いてある事を実践している)】
※※※
これは――前の事である。
夜中に時間があるジョーは静かに本を読んでいた。
その脇にいる夜の友はスネークなのだった。
それは何年も同じようにジョーとサイリアの話し合い手をしている。
「おい、スネーク、この本に人の育て方が書いてある」
【ほう、なんて書いてあるんだ?】
「なんでも弟子を育てるには『やって見せ、言って聞かせ、させてみて、褒めてやらねば、弟子は動かず』と書いてある」
【なんか昔、どっかで聞いた事のある台詞だ……】
「誰だよそれ? 誰が言ったんだ?」
【昔の知り合いだ、そいつが言うには、……誰だっけ56とか19とかいう詩人だったかもしれない】
「おい、何で数字なんだ?」
【そう数字を並べる名前らしい、123だったかもしれない】
「ソレって囚人じゃないよな?」
【わからん、“せんぱん”とか呼ばれているらしいが……】
「まぁいいや、それでどうした?」
【その言葉には続きがある『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、弟子は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、弟子は実らず』だったかもしれない】
「なるほど、つまり……やらせてみろということか?」
【……やらせて、話し合いの場を持てということかもしれない】
「ほぅ、結構いい言葉だ……」
「かなり昔から伝来している弟子育成法らしい」
「なるほど……おっ」
ジョーはさらに読み進めた。
【なにか書いてあるのか?】
「あぁ、『生意気な弟子に対処する方法だって』」
【その本すごいな、なんでも書いてあるじゃないか?】
「あぁ……まったくありがたい、それで内容は……『弟子との衝突であなた自身が頑固になっていませんか……、その場合はお互い石をぶつけあうようなもの……、時に年配者が引き、包みこむような言動で弟子を諭す方が……そして、自ら教えを乞うように誘導する事が――』……なるほどッ!」
ジョーは何かを閃く。
【つまり、師匠は人格者になれ……といった所か。まぁ、カティアも意地っ張りだし、ちょうどいいかもしれない】
ジョーとスネークは秘密の書物で師匠の勉強をしていた。
※※※――閑話休題。
スネークは思う。
【(シンマイ弟子とシンマイ師匠は、一緒に成長するのかもしれない……、私はそんな事は考えた事もないけど……)】
そうして――「――よし、終わりだ。今度は中で昼飯の用意だ!」と、ジョーの声が響き渡る。
言葉の引用は山本五十六です。
元々は日米戦争の時の最高司令官だったかな? その人が残している言葉です。
結構な名言の数々を残した人で単純に言葉の選び方が上手いので後世に残ったのでしょう。
”戦犯”と書きましたが、正確には違います。
この人は戦争に負けると分かっていました。本当の戦犯は当時の政治家と暴走した陸軍将校かもしれません。後は……おっと、これ以上言うと消されそうなので止めます。




