定期的な定休
「それでは今日も準備訓練を始める」
ジョーはいつものように訓練開始前に行う柔軟体操の時間の声掛をしていた。
普段通りの事を――。
普段通りの時間に――。
普段通りの作業をこなそうとしていた。
しかし――不思議な事に3名しか洞窟前の広場にいなかった。
ジョー、カティア、フィフィのみである。
普段ならサイリアとメリーダも一緒に行動するのに、その場にいない事は15日目の訓練で始めての事だった。
カティアとフィフィも心ともない表情で柔軟体操をしていた。
「ほら、もっと真剣にやれ。身体を痛めるぞ」
ジョーは注意する。
「でも、師匠……。サイリア師匠とメリーダが心配で……」
「大丈夫かな……」
カティアとフィフィは心配そうに言い出した。
「心配するな……、女性冒険者がなる“定期的”な事で、まぁ、あれだ、身体が不調になる“病”なんだよ……」
ジョーは歯切れ悪く説明をした。
そう言うが、サイリアとメリーダが病な訳ではない。
つまり女性特有の体調不良である。
大体が24~27日周期程度で起こる事を避けられない“身体の神秘”なのだ。
その名は――『生理』という神が定めた現象が起こっていた。
ジョーはその事を知っている。
サイリアと長年一緒に組んでいたので定期的に起こる身体の不調が重々承知の上であった。しかし、1つの誤算はメリーダも同時期におこってしまったという事である。
突然なるものなので止めようがなく、どうしようもない。
その為、現在、――サイリアとメリーダは寝ているのだ。
「大丈夫かな? あれでしょ、私達もその内なるっていう“病”でしょ?」
「なんか、血が流れるって言う奴よね。つらいんだって……」
「そうなの? 血が流れるんだ、フィフィちゃん!」
「お母さんに聞いたら、そうみたい……でも『恥ずかしがる事じゃない』って言っていたの、そのうちカティアちゃんもなるかもしれないよ」
「へぇ~……そうなんだ……」
柔軟体操を継続しながらカティアはちぐはぐな動きで集中していない。
フィフィもどこかソワソワとしている様子である。
そして――この場にいて最も場違いな感じの男がいた。――2人の会話を聞きながらジョーは口を出そうか迷っている。
(どうしようか……、ハッキリ説明した方がいいのか……、それとも言葉を濁した方がいいのか迷うな……)
この場にいる大人はジョー1人のみである。
目の前には会話の内容を聞くかぎり、まだ知識の無い“大人の身体の階段”を登る前の少女達なのだ。
ここで正しい知識を教えるのも師匠の役目なのか迷う所であった。
だが――それが本当に正しい知識なのかジョー自身も正確には知らない事でもある。
なにせ男性なので――どんなに頑張っても未経験なのである。
そうこうしている内に柔軟体操が終わる。
ジョーはカティアとフィフィと向かい合っていた。
「いいか、本日の訓練はすべてこの近くで行う。このようにパーティで組んでいる時に仲間の不調で動けない時は周りの連中でフォローを仕合い、極力離れずに行動する事が原則になる」
「はい、わかりました」
「それで師匠、何をするんですか?」
「範囲が限定される為に違った趣向でいく。緊急時の野営設置、水分補給、食料確保の対応、そして筋力訓練を行う。その他に乗馬訓練もしてみよう」
「それだけですか? ずいぶん簡単です」
カティアは厳しい訓練に慣れて始めているので普段行う訓練よりも簡単そうに感じる。
「あれだ、不調の事態の時は余裕を持った行動というのが基本となる。特にサイリアとメリーダもいない時は、その2人分の仕事があるということだ。なので、ギリギリまで動くのはダメだ。2人を助ける余裕もないといけない」
「わかりました……、でも、2人って大丈夫なんですか?」
カティアにそう質問されて、ジョーは止まる。
確信的に大丈夫とは言えない、それは――自身の経験が無いからだ。
なので、ジョーは答えに悩んだ。
「あっ……うぅ~ん。そうだな、女性冒険者と組む時はこのような事態は事前に想定されている。それはどうしようも無い事で、組む側も組んでいる側も気をつけないといけない事だ。それは、生命を生み出す、尊い行為であるので、なんといっていいか……、カティアもフィフィも女性なので、その内、経験すると思うが身体が自然と不調になっていく、症状として、イライラしたり、腹痛や腰痛になったりダルさを覚えたり、頭痛や貧血になったりするらしい。でもな……それは悪い事ではないんだ、いいか、もう一度言う、悪い事でも無いし、生命を脅かすほどの事でも無い……らしい」
ジョーは知りうる知識を総動員して答える。
しかし、それほど詳しくは知らない事であった。
「でも……血が出るって……、それに身体が不調になったりしたら危ないですよね」
「そうだな……、でも、本当の緊急時にはその症状を抑える“薬”を飲む事がある。女性冒険者であれば携帯している事も多く、一時的ではあるが、そうやって緊急時に対応するそうだ」
「でも、サイリア師匠もメリーダも飲んでないですよ」
カティアはさらに突っ込んだ質問をした。
――ジョーは焦る、非常に焦る。
「あっ……うん、うん、カティアの言う事も分かるけど、飲まない理由は、なんだ、その、あれだ! その現象に対する薬なんだが……反動があるとか無いとか、意図せずに、そんな効果も返ってくるらしく、まぁ、そうだな……。いろいろ個人差があって一概に言えない問題も絡んでくるので、スッパト答えられない事なんだけど……後でサイリアとかメリーダに訊いてみなさい……俺は男なんで分からない問題だ」
知識の限界にきたジョーは、そのまま問題を放り投げた。
「わかりました……、まぁ、ジョー師匠は男ですからね、そんなに期待はしていませんでした」
フッフンと鼻で笑われるような表情をカティアは取る。
まるで知識を試すような形であった。
カティアの表情と物言いに――(このクソガキ!)と思いつつ、ジョーは怒りを鎮める。
「という訳だ! では訓練を開始するぞ!」
ジョーは少し怒気をはらみ大声を出した。
女性冒険者と組む時の配慮。
それは「生理」というどうしようもない事とどう向き合っていくか? です。
その部分を省略するか、それとも真摯に取り組むか……悩んでいます。
ですが、そうですね……生活、つまり生命活動ですから、避けては通れない物語です。
えぇ、男からの視点で書くか、女性からの視点で書くか悩む所です。




