瞬殺
水馬が滝壺の水面に降り立った。
それは水鳥の如く静かな着地であり、巨体に反しての不自然な水面での動きは、水を操っているのだと予測が出来た。
そのまま浮くように水面に胴体ごと立っている。
水馬はそのままジョーを見つけると「ブシュシュシュッ」と息を鳴らし、頭部を動かし何度も警戒の動きを始めていた。
鼻息を激しくして、攻撃態勢をとっている。
ジョーはその様子を見て蛇腹刀に手を掛けた。
(はぐれているのか……、しかし、警戒心の強い水馬はこのように単独で来る事は無いはず、群れで行動するのが普通だよな……)
――蛇腹刀を抜き取り自然体の構えをとった。
(しかも、すぐ攻撃体勢かよ……、気性が荒くなっているという事は繁殖期だったのか……、それで食料を探して活動範囲が広くなったのかもな……)
魔物の様子からそんな事を考えてジョーはそのまま水馬と向かい合う。
まだ――互いに動きは無い。
ジリジリと間合いを計り、一対一の戦いが整っていた。
そして――その後方の岩陰に身を隠しているカティアはそっとジョーの様子を確認していた。
(師匠のほうが、ブが悪いかもしれない……)
カティアはそう考えている。
実際に水辺の戦闘では水の精霊を強く行使出来る方が有利に戦闘を行える。
それは地の利と相性の問題であり、水馬はこのような場所での行動にも当然のように慣れていた。
ジョーとの授業でも『こちらは常に不利な状況だ。なにせ魔物っているのは縄張りがあり、その場所で長く生活をしている奴らだから戦い方も慣れている、一方、俺らは町に住み、凸凹の無い所で生活しているから、その差は思ったよりでかい』と教わっている。
地利と状況は水馬が有利な事はカティアにすら分かっていた。
そう言う事はジョーも分かっているという事だ。
(どう戦うのだろう……)
カティアにその事が不思議であった。
現に甲冑などの防具も無くジョーは下半身に服と剣の鞘帯のみを掛けているだけだ。
そして魔物と対峙する上で防具の必要性など普段の訓練で手入れの仕方込みで叩きこまれている。
そう思うと、カティアはそこはかとなく不安でたまらない。
一方――ジョーは静かに動かず、目線も逸らしていない。
動揺も見せず後退りもせずに何事も無くその場に立っていた。
「ブッロロロロォォォォ」
水馬は、突然、吠えだした。
すると周囲の水が震え出し、静かに渦巻く水弾を複数個創り出す。
それを合図にジョーが前に出る。
それも直線、まっすぐ向かっていた。そのまま水辺に足を踏み入れようとしていた。
水馬はそのまま水弾を射出する。
(師匠、ダメッッ……)
カティアはそう思わずにはいられない、普段のジョーならば懇切丁寧に『目標の魔物の有利な条件で戦うな』と教え込まれていたのだが、ジョーはそのまま水場に飛び込んでいる。
普段、訓練でも水場での修行があるが、それでも動きにくい、そのまま足をとられてしまい機動力を封じられるのだ。
真正面での行動など無謀そのものである。
しかし――ジョーは水辺に足を踏み入れる。
そして、そのまま足を水に着地しようとした時。―― [バシャンッ!] ――と、大量の水しぶきを上げて――“跳び進む”。
そのまま急激な方向転換。水面を飛び跳ねている姿は水鳥を思わせるまま、水弾を避けていく。
(エッ、なんで浮けるの……)
カティアはその様子を見て疑問に思うが――その間にもジョーは水馬に近寄り強襲していく。
水馬も思わずたじろぎ動きが止まってしまう。
激しい水飛沫で視界が悪くなりジョーの動きを捕らえきれないままであった。
恐慌状態に陥ると表現出来るが、それほど急に真正面から距離を詰められてしまった。
ジョーはそのまま剣を構えて目標にむかって剣を振り下ろす。
「ブロブッ」
そして、水の膜を張ろうと動こうとする。だが――それすらも出来ず、蛇腹刀の刃が水馬の首元に迫っていた。
次の瞬間に勝負は決した。
水馬の首が宙に舞いあがり、そのまま身体は空中に沈む。
直後に滝壺にボチャンッと首が沈み、直後に水が赤く染まり始めた。
「フッ、わが剣のさびになったか……。よし、おわり!」
ジョーはそう余韻を持たせて言うと蛇腹刀についた血をそのまま振り払い、鞘に納める。
この時点で腰までの水に浸かっていたが、そのまま倒した水馬の胴体部分を背負いだし、「フンッ」と気合いを込めて持ち上げる。
そして――そのまま元いた川辺に歩いていった。
「師匠、大丈夫?」
カティアは急ぎ駆けより心配そうな顔をして尋ねた。
「一発も当たって無いだろ? なら大丈夫だ」
そのまま水辺に水馬の首なし胴体を降ろしていく。
「そうだった、師匠凄かった、水面に浮いたでしょアレって何? それに跳んだし、そのまま正面から突っ込んだよ」
先ほどの光景を思い出し、カティアは質問せずにはいられない。
「フフフフッ、知りたいか? カティア」
ジョーはそんな“いきがるような笑い声”をあげて格好をつけている。
「知りたい! 知りたい! しりたい、しりたいッ」
興奮気味にカティアは返事をした。
「返事は1度でいいぞ……、しょうがない、教えてやろう……、南部シノビ直伝の『水グモの術』だ!」
そう言うと、ジョーは振り返り水面に向けて跳躍した。
そして――水の音と共に――ジョーが水面に浮いている。
「師匠、それは!」
カティアは驚いている。
「あぁ、魔力操作で足元に桶のような形をつくり広げているのだ」
ジョーの足元で、桶のように広く円盤状の透明な膜が足の裏に出来あがっている。
「なるほど……」
「だが、10つ数える位で下に沈んでいくから、その間に足を連続させて動かさないといけない」
「師匠、なんか欠陥がありますね」
「まぁな、でも慣れると、そのまま暫く水の上を歩けるぞ、昔から南部では流行りの遊びだった」
「でも面白そう」
「なれると面白いぞ、でも訓練が必要だ。かなり上手いヤツなら、その場に留まる事も出来たと思う。シノビの技だ」
「師匠、シノビってなんですか?」
「あぁ、なんだろうな……えっと、この地方の言い方だと諜報隠密部隊なのかな? つまり、極秘任務につく者が使う奴だ、潜入とかに使う技だな」
「へー、すごいカッコイイ、わたしもできますか?」
「慣れれば出来るよ、その前に訓練だ」
「は~いっ!」
カティアは元気に返事をした。
「よし、カティア。サイリアを呼んで来てくれ。浮遊する板と空樽を1つ、そして縄を一緒に持ってくるように」
「分かりました、師匠、すぐに持ってきます」
そういってカティアは岩場を跳んで帰っていく。
激闘……とは、なりませんでした。
魔力操作である程度の変化は出来る事例を作りした。
それと――次週位には少しグロくしていきますので……心臓の悪い方は見ない方がいいです。




