ヒポッポ襲来
「なんだ、水になっちまったか?」
ジョーは女性陣達が使っていた臨時風呂場にて樽の水の温度を確認してそういった。
「それじゃあ、わたしがお湯にしましょうか?」
後ろからカティアはそう言って声を掛ける。
「きゃぁ~、のぞきッッ!」
ジョーは可愛らしい声を上げた。と――同時にのぞかれた人がとる礼義作法に従う。
《※例;ドラ●モ●のシ●カちゃんのように》
「師匠、違うし、ノゾキじゃないから、それに気が付いていたしでしょ、もう、芝居もやめてよ!」
「わかった、わかった、怒るなって、冗談だから」
「もう、すぐにからかうんだから……」
「わるかった、お湯にして貰えるか?」
「はい、師匠の命令なら仕方ありません」
そんな、気心の知れた師弟関係を構築した会話をしつつ、ジョーは桶をもって川に近寄って、おもむろに川の水を汲み上げ、そのまま頭からかぶった。
[ザバーっ]と音がして、すぐに水を汲み上げて、もう一度同じ動作を繰り返す。
カティアは炎魔術で水に熱を与え続けながら、ジョーの様子を観察していた。
(師匠って、筋肉あるよね……、腕も太いし、胸板も厚いし……、お腹も、すっごく割れてる……)
――そう思いながら、カティアは髪を掻き上げているジョーに見惚れていた。
キラキラと水面に反射する光が反射し陰影をつけた筋肉を引き立てている。
絵画のような風景に彼女はそのまま見続ける。
(黒髪も素敵だし……、顔も整っている方だし、無精ひげもあるけど、それも野性的かも……)
そんな事を思案している最中に樽の中の水は湯気をあげる。
「お~い、お湯はできたか?」
ジョーは不意にカティアの方を振り向いた。
「エッ……、えっと……まだ、ぬるい……です」
顔を赤くしながら、カティアは手で温度を確認する。
ほどんど集中して無かったのでそれほど強く炎魔術は発動していない為、煮立つほど温度は上がらなかった。
「まぁいいや、ぬるめでいいよ、熱いのは火照ってしまってダメだな……」
そう言いながら持っている手拭でジョーは顔を拭いた。
そして、そのままカティアの方に歩いていった。
(はわわあぁぁぁぁぁ……そういえば……わたしこんな近くで男の人の裸を……)
カティアは途端に意識してしまっている。よくよく考えたら目の前に半裸の男性がいる。そして2人っきりでの状況で、途端にどうしていいか混乱してしまった。
そんな事はお構いなしに――ジョーはカティアの目の前で筋肉観賞ポーズを決め。
「どうだ、引き締まっているだろ、これぞ、努力の結晶だ」
そんな風に筋肉の見本市を見せびらかして楽しんでいた。
「う、うん……」――カティアは元気の無い返事を返す。
「おい、どうしたカティア?」
予想していた反応と違いジョーは不思議そうにカティアに近寄った。
そして――肩に手をあて、顔を覗き込む。
「まだ、マナ欠乏の症状が出ているのか……顔が少し赤いな、熱でもあるのか?」
と――心配そうに言い出した。
「大丈夫、少し疲れているだけだからッッ!」
動揺するカティア。声のトーンが少しうわずる。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫ですから、ほら、師匠、ぬるいけどお湯が出来たよ」
「そっか、それならいいけど、無理はするなよ」
ジョーは距離をとる。
「わかってる……、体調を整えるのも冒険者の条件でしょ」
「わかっているならいい……」
ジョーはそう言って持っている桶でカティアが温めてくれた樽の水を混ぜていく。
そして、そのまま桶にお湯を掬うと離れた場所で頭からお湯を被った。
その間にカティアは少し離れた岩場に腰を降ろす。
心臓がバクバクと鼓動を続け、感じた事の無い――“締めつけられるような”経験をした。
(どうしたのかしら……)
言えもしない不安と高揚感でカティアはどうしていいか分からない。
「師匠……、あのね……」
この答えをジョーに質問しようとした時に――ジョーの行動が止まり、静かに上を見上げていた。
「師匠どうしたの?」
カティアはその行動の意味を尋ねた。
【ジョー、何かこっちに来るな】
近くの岩場に置いたスネークがそう声を出した。
「あぁ、上だな……滝の音で反応が遅れた」
ジョーは振り返り、桶を放り投げ、そのまま蛇腹刀に駆け寄った。
「師匠、何か来るの?」
「あぁ、カティア、魔物が近づいているな」
ジョーが蛇腹刀を背負った直後に――滝の上から「ブロロロロォォォォォッ!!」と魔物の到来を告げる雄叫びが響く。
その場所に立っていたのは魔物『水馬』であった。
ヒポッポとは――河口付近に生息する魔物。ギルドランクではDランクに属する魔物である。馬のような4足歩行と胴体を持ち、顔は独自に突き出た馬のような口元とブタのように膨らんでいる顔なので可愛くは無い。たてがみもモノように黒い毛が生えて、皮膚はヌルッと粘液のようなモノで覆われている、そして攻撃方法として水の精霊を操り攻撃する事が可能であった。
「おいおい、水馬かよ、どうしてこんな場所に来たんだ?」
ジョーは赤く染まる空の上、段々となっている滝の上で水馬が1頭立っている事を確認する。
【群れを形成しているかもしれないから、気をつけろよ】
「わかっている、カティア、少し離れていろ」
ジョーは見上げたまま固まっているカティアに声を掛ける。
その言葉を聞いたカティアは金縛りが解けたように動きだした。
「う、うん、でも師匠、わたしも戦える」
「だめだ、装備も無いだろ? 下がってろッ」
即座に否定する。ジョーはそのまま後方を指さした。
「魔術くらいだったら撃てます、援護出来るから、師匠」
「それでもダメだ。下手に手を出して標的になるかもしれないだろ? それにこういう緊急時のやるとりも見て勉強しておけ」
ジョーはそう言って笑った。余裕があり、楽勝だと言わんばかりの表情である。
「でも、師匠は生身だし……」
「大丈夫だって、見ていろ」
そんなやり取りをしている内に水馬が階段のような滝を降り始めた。
水馬の名前はどうしようか迷いました。
一般的に”ケルビー”にしようか……とか思いましたが、
あれ? 川馬でそうだよな……、でも水馬だし……、河馬……てこれカバじゃん!
ヒポポタマスだよ。アッ!そうだ『ヒポッポ』にしよう。
という安易な流れで命名をしてしまった魔物です。
まぁ、魔物の名前とは固有名詞に近いですから……イメージしやすい反面、それに近いモノを生み出さないといけません。なので違う魔物を生んでしまうと説明が難しい事が多発してしまいます。




