あいま……
「これでいいな……」
ジョーはカティアとフィフィの寝姿を確認すると洞窟内のテントから出てきた。
出た先にサイリアとメリーダが待っている。
「2人は寝たよ。メリーダも身体を休めな、訓練で疲れているだろ?」
「いえ、ですが……」
「大丈夫、片付けはこっちでやっとくから、夕飯位に起きればいいよ。それに疲れているだろうから……さ」
ジョーは申し訳なさそうにしているメリーダにそう気づかいを見せる。
ハッキリいえばそれは師匠として弟子を労わる気づかいでもあった。
やましい気持ちなど皆無である。
「そうよ、マナ欠乏の兆候が出ている時は休むべき、無理したら体調自体崩しちゃうでしょ? 後の事は任せて……ね」
サイリアもジョーと同意見なのでそういって賛成した。
「そうですか……、でしたらお言葉に甘えさせてもらいます」
メリーダはしっとり濡れた髪を下げて深々とお礼を言った。
「気にするなよ……」
ジョーはそう言って洞窟の外に歩いていった。
***
景色はすっかり―――暗くも無く、日が昇っている。
カティアの訓練を終えたのが昼を過ぎて暫くたった頃である。それから1刻半(=3時間)程度の時間しか過ぎていない為、時間に余裕があった。
「さて、スネーク迎えに行ってやらないと……、俺は河原で訓練するけどサイリアはどうする?」
「私は洞窟前で基礎訓練するつもり、その後で夕飯の支度をしないと……」
「わかった、それまで別行動だな……」
「その前に片付け、手伝ってよ」
「……わかっているよ」
ジョーとサイリアがそうやって会話をしながら河原に戻っていった。
※※※
カティアは急に目を覚ました。
すぐにガバッと身体を起こす。
最後に記憶しているのはジョーに荷物のように運ばれた時だった。
「寝ちゃっていたのね……」
そういって、言葉に出して自覚をすると――すぐに靴を履く。
そして――横で気持ち良さそうに眠っているフィフィを起こさないように静かにテントを出ていった。
――生活の匂いがする。
テントの外に出るといつもの光景が目の前にあった。洗って干してある洗濯物に調理器具、生活用品に棚に道具入れの木箱。
そして――夕食の調理をしているサイリアの姿がある。
「サイリア師匠、何かお手伝いすることありますか?」
カティアは第一声にそう言って声を掛けた。
すると――サイリアは鍋で何かの汁物を作っていたのであったが、振り返り――「あっ、カティア起きたのね?」と優しい笑顔でそう言った。
サイリアの元にカティアは駆けよる。
それは、今日の夕飯の中見を知る為と、いつも美味しいサイリアの料理を見る為だ。
「ふへぇ~、へへへッ、いい匂い、サイリア師匠、今日も美味しそう……」
思わず鍋の中見を見て、そう言葉が飛び出る。
キノコと山菜と肉のスープが湯気とともにコトコト煮立っていた。
「もうすぐ出来るから……それに手伝いは必要ないわね……、そうだ! ジョーを呼びにいってくれない? 河原で訓練しているはずだから……」
サイリアは悩みつつ、彼女にお願いした。
「わかりました、呼びに行ってきます!」
カティアは背筋を正し、すぐに洞窟の出入り口に駆けていく。
――外に出ると、薄暗くもうすぐ日に入りに入る時間に差し掛かっている事に気がつく。
天気は崩れていないので外で食べる用に椅子と机が並べられ、そして、その食事場の近くに造られた釜場には主食のつけ合せとなる“ねじりパン”が焼かれ、こちらでも調理場用に造っている煉瓦の焼き場の金網の上の鍋で何かを煮込んでいる。
(いい匂い……、煮込み料理? 肉かな……?)
カティアは一瞬、そちらに気をとられそうになる。
訓練の間に食べるサイリアの料理はとても美味しく、その事に気をとられ本日のメニューが気になった。
(……だめよ、師匠むかえに行かないと……)
ハッとなり、すぐに気持ちを切り替えて――ジョーのいる河原に向かった。
***
カティアが河原に到着すると、川のせせらぎが聞こえてくる。
しかし、辺りは緋色に染まり始め、谷底という事もあり目をこらなさいと詳しく見えなくなっていた。
「ししょおぉぉぉ~、どこにいるのぉぉぉぉ~」
カティアは声を掛ける。
しかし――返信は無い。
(あれ、もっと奥かな?)
辺りを見回してみると――滝の傍の崖に不自然な動きをする者を発見する。
「……あれだ」
カティアは確認後、岩場の道をスルスルと飛び跳ね近寄った。
***
「しッしょお~~~~~~~! ごはんだよぉぉぉ~~~~~!」
カティアは大声を上げて崖の途中にぶら下がり訓練しているジョーに声をかけた。
ジョーは上半身裸に登攀用のハーネスをつけて、その器具とロープで岩を縛りぶら下がりながら筋力訓練を行っていた。
かなりハードな訓練であるが、腕、手首、指の力を鍛えるのに都合がいい訓練なので彼独自で行っているモノであった。
ジョーはカティアの声に気がつく。
滝の音がうるさいが、ギャアギャアと懸命に叫ぶ声に気が付いた。
下を確認して叫んでいるカティアに「いま降りるから離れていろ!!」と叫び返す。
ジョーはそのまま下降を開始した。
地面に到着したジョーは汗だくであった。早速身体に装着しているハーネスを外しに掛かる。
「師匠、ご飯だって、サイリア師匠が呼んでいました」
カティアが嬉しそうに近寄ってくる。
「分かったよ、騒がなくたって聞こえているから」
「でも、さっきから全然気が付いて無かったですよ」
「……ハイハイ、ごめんな、寝癖がついているカティアに呼びに来てもらって」
ジョーはそう言って腰に着けていた“手拭”で顔の汗を拭った。
ジョーに言われてカティアは急いで髪型をチェックする。起きてからすっかりその事を忘れていた。
「師匠、寝癖あるの?」
カティアは心配そうにジョーに聞いた。
【嘘だ、気にするな】
近くの岩壁に立て掛けてあったスネークが真実を言った。
それを聞いたカティアは――「師匠の嘘つき」といって非難する。
ジョーは笑い――「そう怒るな、それより少し身体を洗いたいから、ついてくるなよ」
そうカティアを茶化して、蛇腹刀を持って滝壺の傍に行ってしまった。
「あぁ、師匠、待ってよ……」
カティアは寂しそうに行って後を追った。




