集団戦闘訓練1
「では……いいか、これから集団戦闘訓練を始める。依頼では少数で多数の魔物に当たる事もザラに起こる。その為に全員で力を合わせる事が重要になっていく、その為の基礎的な訓練だと思ってくれていい」
装備を整え完全武装している弟子達を前に、ジョーはこれから始まる集団戦闘訓練の概要を話し始めた。
「それじゃあ、相手方を造るサイリアに、この後の説明をしてもらう」
そう話しをパスすると、サイリアは前に出てきた。
そして、その肩から土精霊の『ノンちゃん』が姿を現している。
土人形の、のっぺらぼう、推定身長15㎝がサイリアの右肩にへばり付いてダンスのように何かを踊っている。
「アッ、ノンちゃんだ」
カティアは嬉しそうに声を上げる。
仕事中にも何度か、カティア達の前に姿を現しているノンちゃんことノームは全員が知る所である。
サイリアの駆け寄る弟子達。その可愛さはカティア、フィフィ、メリーダの中でも好評で、一種の愛玩動物の地位を得ていた。
――つまり、女性陣の中で確固たるアイドル的要素を持ち始めた独自の存在といえる。
ノームはスルっとサイリアの右手の掌に移ると、その上でキレキレのダンスのようなモノを披露している。
ノーム自身もノリノリだ。
「ウフフッ、今日のノンちゃんは機嫌がいいの」
「すっごい可愛い動きをしていますね」
「きゃあ、すっごく、よく動いています、癒されます」
「今日もかわいいですね」
などと、女性陣の華のある声を独占し、そのままダンスを終えた。
一斉に――拍手が起こる。
「ゴホッン、ゴッホン……、先に進めていいか?」
ジョーは間の空気を壊す勢いの咳払いをし、質問をした。
「そうだったわね、みんな戻って……」
サイリアは言う。
「「「はい」」」
そうやって所定の場所まで戻っていく弟子。
しかし、いい空気を壊されたノームは『ピキュッキュッ』――と、言いながら、抗議をしているように動いた。
当然である――ジョーはノームの存在を好きでも無い、ただ単純に得体の知れない尊大の1つ、その為ファンのような行動はとれない。
そのまま仕切り直され――再度、説明は再開される。
***
「ではいいかしら、ノンちゃんに土人形を出してもらって、それを魔物に見立て、退治してもらいます。目標はソコの岩に書いた☓印に誰か触ったら終了よ。でも途中で戦闘不能のような状態になったりしたらジョーがチェックして退場となり、全員が居なくなったらそこで訓練終了よ、ここまでで何か質問がある?」
「サイリア師匠。攻撃は制限無しですか? 魔物の数はどの程度ですか? 戦闘不能の基準はどの程度でしょうか?」
カティアは連続して質問を飛ばす。
「攻撃制限は無しです、なんでもアリでどんな攻撃でも構いません、土人形に対して遠慮はいりません。ですが連携ですので他の人に当たる攻撃には気をつけましょう、剣も本物ですから扱いには気をつけてね。 魔物の数は30からです。クリアしていく毎に難易度を上げていきます。戦闘不能の基準はジョーが判断しますから、そこはジョーに聞いて下さい」
サイリアは目線をジョーに移した。
不意に話しを振られ、何も決めていないジョーは焦る。
「アッあぁ、そうだな……、まずは倒れて反撃できない体勢で囲まれたら退場。次に土人形の攻撃に複数回当たったら退場。マナ切れや動けなくなるなどの問題が起きたら退場だ。大体この基準でやる」
ジョーはそう告げる。
大体の基準は妥当な所を選んでいた。
【私も審判をしよう】
ジョーの背負っている蛇腹刀が声をあげる。
「わかりました。公平な審判をお願いします」
カティアは真剣な顔でやる気になっていた。
「それと特別なルールとして土人形を倒した後、30秒くらいでその場に復活するから気をつける事、制限時間も設けます、この砂時計が落ちるまでです。それと範囲は全体と言いたい所だけど範囲が有ります。黒い旗を立てた棒が4カ所ある中であります。その内側が範囲だと思ってね。外に出たらジョーが注意して、戻って来なかったら失格になります。こんな所で説明はいいかしら?」
サイリアはルールを付け加える。
手には料理用に使う砂時計を持っていた、全部落ちるまで30分程度のモノだ。
「「はーい」」――カティアとフィフィの返事が返ってきた。
「じゃあ、カティア達はむこうに立てた白い旗の辺りに行ってね。準備が出来たらこっちから合図をするから」
サイリアの言葉で2つに分かれていく。
ワイワイと言葉を交わし、やる気十分なカティア達を見て、ジョーは「さて、ジゴクを見せるか……」と小さく呟いた。
***
サイリアがノームにお願いして土人形が創られる。
その数、宣言した通り30体、武器はその辺の木の枝を槍のように見立てそれを土の手で持っている。さらに余った木剣と木の盾を持っている者が数体という極めて単純な集団だった。
ジョーは岩の上に移動し、サイリアもジョーの近くに座った。
遠くに見えるカティア達も「よおぉぉーしぃ! やるわよっ!!」と声が上がっている。
両軍の準備は十分になると「じゃあ始めるぞォォォ!!」ジョーは大声でカティア達に伝える。
それが聴こえたのか――カティアが手を上げていた。
***
カティアはスモールソードを持ち準備を整えた。
フィフィもティムにもらったネコ眼杖を手に持ち身構える。
メリーダは片手剣と小盾をしっかりと振るい動きを確認していた。
「相手が動いたわ、行くわよ」
カティアの声にフィフィとメリーダは頷く。
土人形達は小石を踏みしめ、岩の間を歩いてくる。
「見てなさい、わたしが斬り込んで道をつくってあげる」
そう言ってカティアは駆けだした。
「カティアちゃん、落ち着いてッッ!」、「お嬢さま、前に出過ぎは危険です」
フィフィとメリーダは同時に声を出して制止させようとするが、スピードに乗ったカティアは止まりそうも無い
***
(やっぱり突っ込んで来たか。あいつは猪か!)と、ジョーは思い。
「サイリア、投石してやれ」と、命令を出した。
秘かにではあるが――審判と敵軍の策士のような事を務めるのは聞かなかったカティア達が悪いとしよう。
一応ではあるが――『何か質問があるか?』と答えられる場を用意しているのだから。
「わかった、ノンちゃんお願いね」
サイリアの命令にノームは素早く手をあげると「ピキュウゥゥゥゥ」とやる気のある言葉を上げた。
少数対多数の訓練はどこかで書きたいと思ってました。
相手はどうするか――という問題もノームがいればOKという所でしょう。




