訓練13日目
訓練も13日目に入った。
ベルンの町から移動を終え、3回目の町外訓練にそれなりに慣れてきたカティアは手早く準備をすると、いつものように山林を元気に走り回った。そして休憩を入れ、すぐに崖登りの訓練に入る。
「フィフィちゃん、もうちょっと、ガンバレッ!」
カティアは崖上から叫んでいた。
「うんッ……しょッ」
フィフィの手が岩の端に掛かり、そのまま身体を登り上げ、目標としている崖上に辿り着いた。
「よしよし、これで全員登れたね」
「うん……」
カティアとフィフィは抱き合い、喜んでいた。
メリーダもその後ろで手を叩いて称賛の行動をとっていた。
「よし、全員、第一段階の崖登りを完了したな」
ジョーは崖下から跳躍するように現れた。
「師匠っ! 見てた。全員登れたよ」
カティアは嬉しそうに声を上げた。
「見ていたよ。でもな、カティア、まだ基礎訓練は始ったばっかりだ。先は長いぞ……」
ジョーは戒めるように言う。
「わかたけど、少しは褒めて」
「わかった、偉い、偉い」
ジョーはそう頭を撫でた。
雑にグリグリと――撫でまわした。
「師匠、髪型崩れちゃう!」
「どうせ、この後、川に入るだろ。それよりも今度は降りるぞ、早く来いよ」
ジョーはそう言って崖の上から下に向かって降りていく。
「もう、師匠、子供扱い!」
不満そうにカティアがその背中に声を掛けた。
***
崖を登り終えたカティア達は遅めの昼食を摂る。
河原で美味しそうな食事が振る舞われ、慣れた様子で岩を椅子のように使い、楽しそうにお喋りをしながらだ。
その後、食後のお茶休憩をしながら座って休んでいた。
「カティアもフィフィもメリーダも随分と成長したな……」
ジョーは何気なくそう言った。
「ほんと、師匠? そう言えばこの前少し、身長が高くなったかも」
カティアはそう言って喜ぶ。
「わたしはお母さんに『少し痩せたわね』って言われたよ。身体が引き締まってきたのかな?」
フィフィもそんな報告をする。
「いや、その体型の事じゃなくてだな……。色々、上手くなっていっているし、前よりも
長く訓練を続けられるようになったと言う事だ」
ジョーは誤解される前に分別して言う。
すると――カティアとフィフィが笑顔になった。
「そっか、成長したのかな……」
「カティアちゃんは、すっごく魔力の使い方上手くなったよね。わたしも教えて欲しい」
「そうかな? えへへッ、いいわ、今度フィフィに特訓してあげる」
そんな会話をしていた。
「確かにそうね。カティアもフィフィも魔力切れの兆候が抑えられているというか、少し症状が軽くなって大丈夫になってきたよね」
サイリアも賛同した。
「まぁ、順応したという所だな。同じ事を繰り返して身体が慣れてきたからだな……」
ジョーも納得してお茶を飲む。
弟子になり立ての直後、カティアとフィフィとメリーダは魔力切れの兆候が出ると休んでいたが、現在は少しずつ体力と魔力がつき始め。徐々にその兆候は減っていた。
そんな、弟子達の討論の最中にカティアとフィフィは2人でお喋りをしていた。
「そっか、わたし成長しているんだ、でも、それだったら胸も大きくならないかしら……」
カティアは胸を両手で揉んで、服の上から左右によせた。
「カティアちゃん。メイちゃん(※学校の友達)が言っていたけど男の人に揉んでもらうと胸が大きくなるらしいよ」
「本当に、フィフィちゃん!?」
カティアは食い気味に驚いた。
そうして、自分の胸を揉みながら、ジョーをチラッと見る。
「ジョー師匠っ!」
「……なんだよ、カティア?」
突然の呼びかけに、ジョーはサイリアとの会話中に振り向いてカティアの方を見てお茶を飲んだ。
「師匠、お願いがあります。私の胸を揉んで下さい!」
そう、真剣にお願いしていた。
そして、その言葉を聞くと同時に御茶を噴き出す。
辺りに5色の虹が空に綺麗に現れた。
「師匠、汚いッ!」――カティア叫ぶ。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」――ジョーは咽ている。
メリーダとサイリアは驚きの余り声も出せずに固まってしまう。
「……おい、ちょっと、どういう事だ!」
ジョー咳き込むのが収まると、すぐ、カティアに真意を問いただす。
***
ジョーはカティアとフィフィから説明を受ける。
とりあえずの話しの流れを聞いて状況を確認した。
「なるほど…な…。男に胸を揉んでもらえば大きくなる……か」
ジョーはそう言ってカティアとフィフィの前に立ちふさがり。頭に拳骨を落とす。
[ゴンッ]という力を絶妙に調整した――拳骨(愛のムチ)だった。
「イタイッ」、「はうぅッ」と声をあげ、カティア、フィフィ共に頭を抑えた。
「カティア、フィフィ、言っておくが、そんな事は無い、忘れなさい」
ジョーはそう告げた。
「でも……」――カティアは頭を押させ上目使いで交渉の準備を始めた。
「でもじゃありません。それにカティア、それは『セクハン(=性的犯罪)』だぞ。お前、常々俺に“セクハン”って連呼していたよな!」
「師匠、わたしは女子です、それならセクハンにはなりません」
「甘いな、知らないと思うが、セクハンとは女子に男子が犯罪行為するものと誤解されるが、実際は両方が当てはまる。つまり被害者は男女関係無く、“セクハン発言”をした方が悪い事になる。今回の場合、カティアが俺に強制的に命令したのでその倫理が成り立つのだ」
ジョーは指をさし論破したという風にドヤ顔を決めた。
――しかし、ここまで詳しいのは、ジョーが事前にセクハン被害中に巻き込まれた時に、資料を読み漁った成果だが――割愛する事にする。
「本当ですか……」――カティアも修行中、「セクハン、セクハン」と連呼した事があるので、自分のした犯罪行為の重みに衝撃を受けた。
「師匠……。ごめんなさい、わたしが間違っていました……」
うなだれながら、カティアは謝罪をする。
「よし、謝罪を受け取ろう……」
ジョーはそう言って元の岩の席にもどり、腰を落ち着けた。
そして――「それで、どうして、急に胸を揉めば……とか、言い出したんだ?」と目線をフィフィに向けるジョー、それと同時にメリーダもサイリアも目線を向けた。
フィフィは身体を小さくしながら――こう答えた。
「あのですね……メイちゃんっていう学校の友達がですね。おねいちゃんがいるんですが、そのメイちゃんのおねいちゃんが最近胸が大きくなったという話しがあってですね……。
メイちゃんが聞いたんです。『どうしたら、胸が大きくなるのって?』、そしたら『男の人に揉んでもらえば大きくなるのよ』って言われて、知ったらしいんですよ
で……、それを教えてもらってですね。カティアちゃんに伝えました」
「なるほどな……」
(なにか、色々間違っているらしいけど……)
ジョーはそう困惑した。
「でも、言ってました。揉まれすぎると『お乳』が出るから気をつけなさいって」
フィフィはそう告げた。
「そうか……。でもな、揉んでも“お乳(=母乳)”は……」
ジョーはそこまで発言して止まる。
そして、サイリアとメリーダの方を見た。
彼女らも何となくジョーの気配と“お乳”という単語にハッとした表情を浮かべた。
「師匠、どうしたの?」――カティアがそう訊く。
「いや……、何でも無い。フィフィ、少し聞きたい事がある」
「なんですか?」――フィフィは不思議そうに首を傾けた。
「その……な、メイちゃん家というか……、周辺で何かあったか? その騒ぎとか、何か?」
ジョーは確信部分には触れず、外堀から情報収集を行った。ニコやかな笑顔で誤魔化しつつ慎重に行動していた。
「そうですね……、そう言えば、この前、聞いたんですが……メイちゃん家のお父さんが家に来た若い男性を殴ったそうです。わたしも会った事あるんですが、普段は温厚そうなおじさんなんで、話しを聞いた時には驚きました。でも、不思議なんです。殴られた方が頭を下げて、ついでに中年のおじさんも一緒になって店の前で謝っていたって……」
ジョーはそこまで聞いて、何となく事情を察する。
つまり――メイちゃんのおねいちゃんには――《彼氏》がいて、その彼とイチャイチャする内に胸が大きくなり、《新しい命》が芽生えたという話しだった。
ついでに、彼氏は父親から1発もらいつつ謝罪したのだろう。
(なんという、ドロドロな話し……、これは、これ以上広げてはダメな話しだ)
ジョーは決意する。
「そうだったのか……、まあ、つまりそれも“迷信”で信じちゃ駄目だ。詳しく調べてもダメだぞ。……つまりな、早寝早起きをして、規則正しく食事を摂ると、自然とだな……人とは成長していくんだ」
ジョーはそう締めた。
「そうよ、カティア、フィフィ、お肉とか牛乳とかヤギ乳とか飲むといいのよ。身体を造るのは食べ物なの、つまりね、そう言う事なの」
サイリアもそうアドバイスを送る。
「お嬢さま、フィフィさん、ジョー師匠、サイリア師匠の言う事をですね。よく聞かないといけませんよ。迷信を信じてはダメです」
メリーダも一緒になって話しをズラそうとしている。
みな、焦っている――真実を闇に葬る為(=見知らぬメイちゃんのおねいちゃんの為)
「は~い……」としょんぼりとした返事がカティアとフィフィから返ってきた。
急に出てきた“メイちゃんのおねいちゃん”は見知らぬ人です。今後も出てくる予定はございません(たぶん)
ですが、知らない所で――
「よくも娘に手を出したな!」
「すいません、お義父さん」
「うちのバカ息子が申し訳ない」
という、昼ドラの定番的な展開です。できちゃった婚、授かり婚ともいいます。
まぁ、どこでもある話ですね。




