魔物と人と文明~その4
「まぁ、そもそもですね。スライム処理房とは6つに分かれた房(=部屋)がある訳です。その内の部屋の1つにスライムが大量に居てですね。日夜町からでる“糞尿”をココでスライムが融解してくれる訳です。さらにこの場所は生活処理物、所謂、腐った残飯や使用不可能な魔物材料などの生活ゴミの処理にも使われている施設なんですよ。ココまでは分かったかな?」
ジョーは口調を変え、もの凄く丁寧に説明する。
「‡はーい‡」と非常にギスギスした返事がカティアから返ってくる。
(なぜ、こんな事に……)
ジョーは女弟子を持つ身の難しさを改めて知る事になった。
「よし、そこまではいいとして、次だ。このスライム処理房は一見いい仕組みのようですが、問題が生じています。それはスライムの生態に関する事です……。わかる人はいるかな?」
ジョーは普段と違い優しい先生のようにほほ笑みながら生徒に問いかける。
すると、フィフィが手を上げる。
「それじゃあ、フィフィ答えてみなさい」
「はい、スライムは食料をとると数が増えていきます」
「そう、正解デス」
フィフィの正解にジョーは頷く。
「スライムは栄養をとると体積が増加していく、そしてある程度大きくなると、身体の中に核をもう1つ創る。そして、時期が過ぎると身体を2つに分裂させる事が出来るんだ。まったく同じ分体を増殖させる事がスライムの繁殖方法となっています。そして補足として3つや4つに分裂するタイプもあり、さらに集合体になる複数体スライムも生まれるタイプもあるので覚えておこう……な」
ジョーはここでも優しく問いかける。熟練の老教師のように何かを悟った後のように微笑んでいた。
「それじゃあ、次だ。今度は増えたスライムをどうするかという問題が生じる。これは単純にスライムの生態を利用し、他の房に音を鳴らしおびき寄せ。そしてある程度数を調整して隔離した後で、房内で止めをさす。こうやって数を調整し、常に一定数いる事になる訳だ。
では、この後でスライムの残骸をどう処理するか分かる者はいるかな?」
ジョーの質問に弟子達は誰も手を上げない。
分からないと言う風に顔を合わせていく。
「どうした? わからないなら……サイリア。答えてみろ」
突然の指名に驚きながら、サイリアは「“バクバロ豚”に食べさせるのがこの地方での一般的な処理法だったかしら?」
《バクバロ豚とは》――この地方に広く分布するGランクの魔物。危険度は少なく大人しく家畜として飼われている。体長は2メートル近くある大型の豚の魔物で、この地方では食肉として用いられ、放牧による放し飼いでもよく育つ、毛深いタイプの雑食種の豚である。
「そうだ、“バクバロ豚”は魔物に属するが家畜として放牧されている魔物だ。実際に強靭な胃でなんでも食べるし、消化できる特性があるので、それにスライムの残骸を食べさせて処理するのが普通に行われているんだ。ここまではいいか?」
弟子達の顔を見るジョーは。それぞれが頷いていた。
しかし、秘かな補足情報として、バクバロ豚もフンを食べ栄養にし、スライムを食べた後でバクバロ豚の○ンチも木の葉を混ぜて肥料にする事は省略していた。
「そうか、よかった……」
ジョーも納得し、穏やかな表情だ。教える喜びをしる聖人のようである。
徐々にではあるが――弟子たちとの緊張関係は緩和しているように見えていた。
「それじゃあ、次に行きます。スライム処理房は6つの房がある事は前に話した通りだ、2つをスライムの部屋として使い、1つを処理場所として使う、そしてバクバロ豚の部屋に1つ、これで4つ使われている訳だが、もう1つの部屋は最終的な処理場所で『ぱらふん草』と『かんきょう苔』を自生させて水そのものを綺麗にしている。その処理によって川にもどしても安全な水になるという、そして最後の1つは予備の房でこの6つがスライム処理房の全て……です」
ジョーはそこまで説明を終え、ひと息つくようにお茶を飲んだ。
「じゃあ、ここまでの説明で分からない事があるかな?」
「師匠、川に水を戻す理由は分かります。でも、そんなので綺麗になるんですか?」
カティアは手を上げて質問した。
「うん、正確には川の中での自浄作用も関係するわけだが。基本はこの前教えた“濾過器”の構造を模しているらしい。詳しく説明すると同じような構造だ、房毎に小石や木炭等の細かい配慮があるらしいのだが、やはり植物が深く関係している。特に“かんきょう苔”は濁った水を綺麗にしてくれるようだ。これは事実として昔から知られている事であり、そこから濾過器の発明に繋がっています」
「わかりした……植物の力は侮りがたしという訳ですね」
カティアは何かを悟ったようにポーズをとった。
「そう……。ではココまでの説明で『スライム処理房』が、なぜここまで普及しているのか、その単純な理由を答えてみてみよう……、わかる人はいるかな?」
ジョーの質問に、カティアとフィフィが同時に手を上げた。
「じゃあ、それぞれが答えてみてくれ」
「楽だから……」とカティアが答え。
「おカネが掛からないから……」と、フィフィが答えた。
ジョーはその言葉を聞いて小さく頷き。――「両方とも正解だ」と言った。
――喜ぶ、カティアとフィフィ。
「では、その説明をします。この処理施設が無い時代は下水処理にかかる者が大勢必要だった。町が大きくなるにつれ、人口が増えるにつれ、それに比例して処理を担当する者が増えた。当然、維持費もかかる上にそのもの達に給料を払わなくいけない領主の負担は大きい。しかし、『スライム処理房』が出来てから、維持するのにも人手が掛からず、手間も少なくなった。100分の1以下に人手と手間が下がったと言われています。ようするにこういうのが画期的発明です。実際に処理房を造らない場所では疫病が多発し、近隣の村や町までの水の汚染が広がり多数の死者を出した時期があったのです」
ジョーの説明に弟子達は各自納得している。
「では、いいですか。文明とは常に進化しています。農業、牧畜、漁業という基本的な食糧を生産してくれる人々がいて、貨幣制度というモノが町を潤し発展させ、そうしている内に、衣服を造り売る者、家を建て町を発展させる者。食事を提供する者、冒険者にとって御世話になっている武器防具屋、道具屋などを造る職人さん達、その他大勢の全ての人々がそれを支えているのです。その他にも様々な発展・発明は冒険者の為だけではありません。全ての人が関与し、少しの事でもみんなと繋がっているのです。その中での繋がりを大事にして冒険者稼業をしなければなりません」
ジョーはそう告げる。
冒険者とは1つの職種であるだけで、特別な存在ではないと告げていた。
あくまで生活する稼ぎとして行い、そして独りでは出来ない、誰かと繋がっているのだと説いている。
「師匠、大丈夫、わかっているから」
カティアはそう頷く。
「わたしも、お父さんとお兄ちゃんの為になるように強くなります。それでお母さんの手伝いもします」
フィフィもそう言って新たに決意をしたようだ。
「じゃあ、話しは終わりです。さぁ、もうよい子は寝る時間ですよ」
ジョーは最後にそう言って締めて、時間外授業は終わりを迎えた。
***
「「ジョー師匠、サイリア師匠、おやすみなさい」」
カティアとフィフィがそう返事をして、寝床に入っていく。
メリーダも一礼して寝床に向かっていった。
ジョーとサイリアは焚火にあたりながら返事をし、その様子を見送る。
「ふぅ~、やっと終わったな……」
喋り方も口調も変えていたジョーは静かに安堵の溜息と、危機を乗り切った自分の御褒美に濃い目のお茶飲んで気持ちを切り替えた。
「まぁ、いい授業だったんじゃない」
近くでサイリアが同様にお茶を飲んでほほ笑んでいた。
「それでもな、やっぱり人に教えるって大変だと知ったよ。少し言葉を間違うと、なんていうか色んな“ズレ”が出て来る」
「そうね……、言葉や行動で現しても、やっぱり難しいわよね……」
「だろうな……、やっぱりこれが『弟子をとった苦しみ』という奴なのか?」
悟ったように遠い目をしているジョーがいる。
「なに、気取っているのよ」
「いいだろ、特に俺は男だからな、少し孤独なんだよ」
「……そうかもね」
サイリアもいままでの経緯から納得して頷く。
ジョーにとって“多少”の手違いですぐにセクハン問題に行きつくので非常に困っていた。
「でも、仕方ないか……、やっぱり、やらないとダメだし、遠慮しちゃうと、カティアもフィフィもメリーダも、いざという時に対応できないかもしれないからな……」
「あら? すっごい師匠らしい言葉ね」
そう言ってサイリアは笑った。
「いいだろ、実際に師匠だから」
「そうだったわね、でも始めの頃は弟子をとるのも拒否していたじゃない、その頃に、――――………」
ジョーとサイリアが弟子達の事について議論を交わしているそのすぐ傍で、蛇腹刀は静かに思う。
(弟子を育てるのは師匠だが、師匠が育つのは弟子のお陰だと……、そんな話を聞いたな)
スネークはそう思い口に出そうとしたが、楽しそうに喋っている2人を見て、そのまま静かに休む事にした。
ジョーの喋り方はブレブレになっている感じです。
前の話を引きずっているという事にしてください。
考察
下水処理施設は実際の所、ローマ時代からある話です。
あと、有名なのはパキスタンにあるモヘンジョ・ダロでしょうか。ですが中世時代には何故かその技術は消滅しています。実際に城塞都市などの施設では壁から外部に垂れ流しが多く、下水処理前提では作られていないのです。
今回、4話に渡り、下水処理とこの世界の仕組みについて話を作ってしまいました。
なんてマイナーなんだという感じです。
文明の不備は魔法のように何でも解決!--とは、作者は思わず。何らかの方法が必要であると感じるのです。
しかし、こんな話でもついて来てくれる人々に感謝します。




