魔物と人と文明~その3
「そもそも、魔物と人は密接な関係を持っている。町には城壁が建てられているのは、大抵が魔物の侵入を阻止する為だ。村でも里でも大抵の所に門番や柵や堀があるのはその為だ。人は最も魔物を脅威であると認識している事の表れだ」
ジョーの説明にカティアは難しい顔をする。
「どうした、カティア?」
「いえ、師匠。魔物ってそんなに町の近くにいたのかなって?」
「確かにそうだ。それは“調整狩り”をしているおかげだ。人は魔物を脅威に感じれば当然のように町の安全を確保しようとする、冒険者はこの魔物を倒す仕事を請け負う事が多い、これは、どの町や都市でも自然と行ってきた仕事だよ。安全の確保の為に“間引く”といっていい。しかし、間引き過ぎるとバランスが崩れキングゴブリンの時のようにしっぺ返しを喰らうというわけだ」
調整狩りとは――ブルーバットルの時のように狩る数を制限する事、または、目標値までの狩りを終える事。多く使われているのは年内の調整の為に狩られる魔物である。個体数を確保しつつ、増えて問題になる前に狩る仕事がギルド発行での仕事として依頼される。
「それが、師匠が言っている共存関係というやつですね」
「そうだ、それに身近な存在として魔物を利用しているのが今の人の文明だ」
「利用している?」
「そう、それもこの前あった魔物だぞ」
ジョーはヒントを出して答えに誘導しやすくした。
「それって、スライムですか、師匠!」
カティアは驚きながら声を出した。
「正解だ。我々はスライムを利用し、町を清潔に保ち、疫病などの対策をとっている」
ジョーに褒められカティアは、ほほ笑む。「えへへへッ」と体裁を気にすることなく笑った。それも目を細めて、ごく自然に緩んだ笑いを浮かべる。
「まぁ、魔物の特性を利用しているわけだ。スライムは溶解液という特別な物質を体内で生成出来る極めて特殊な魔物だからだ」
ジョーは端的に説明する。――実際は、スライム内の核と水分のような細胞を変化させ、身体に養分をとりこむ為に細かく溶解するために行う食事のような行為だ。スライムには人のように歯が無いため、咀嚼する事もモノを味わう舌もない。しかもそれは反射に近く体内に取り込んだらすぐに溶解液を生成する。
「でも、師匠、町中にそんな魔物見ていませんよ……?」
カティアは、ふと思い付き、怪しげな目つきでジョーを見る。
「いや、あるよ。『スライム処理房』という下水処理施設が絶対に町にはある」
「アッ、それ、わたし知っています、北側の区画の外のはずれに別の施設が建っていますよね」
フィフィは手を上げて答えた。
「そう、それが『スライム処理房』という施設だ」
ジョーは、正解ッ!――と現すように、指をさしてフィフィを褒める。
「フフッ、褒められた……」
フィフィは嬉しそうにしている。
カティアはその様子を羨ましそうに見つめ――「師匠、次の問題を早く出して下さい」と、いきなりのクイズ形式してしまう。
「おい、別に謎解きをしているわけじゃないんだから……」
「でも、そうやってやれば楽しいかと思って……」
しょんぼりとするカティア。
ジョーは「まぁ、所々に挟んでいくから、よく聞いてくれ」と、カティアの願いを渋々聞く。
すると、カティアはパァーと笑顔を見せた。
(なんだろうな、すっごく喜怒哀楽が激しいような……)
その様子を見ながらジョーは思う。
しかし、気持ちを切り替えて――
「じゃあ、そのまま説明を続けるぞ。スライム処理房があるから俺達は町から出る廃棄物を処理出来ている。かなり昔は山や森の中に埋めに行ったり、そのまま垂れ流しにしていた時代もあったが、現在の処理房が完成してから、多くの都市、多くの町で使われている。場所によっては共同処理房も出来ており、その存在は世界に広がっている……」
そこまでの説明で弟子達は自然と頷いていた。
「では、ここから問題です。スライム処理房で大きく分けて処理するモノは何でしょう……か」
ジョーは少し間を溜めて問題を出した。
《※その溜め方は各自の心の中にあるスーツ、筋肉ムキムキのモデル○○○クン人形が思いだされる》
ジョーの質問にフィフィとメリーダは下を向き、何かを察する。
カティアはひとり手を上げて。――「ジョー師匠、手掛かり(=ヒント)を下さい」と、言ってきた。彼女だけが問題に対して本気である。
「そうだな、洞窟の外に設置してあるだろ? ソコで出すものだ」
「わかりました……。○ンチですね」
《※○の中は各自で考えてください》
恥ずかしがる事なくカティアは――探偵が全ての謎が解けた時のように鋭い目つきで答えていた。
「“うん”、正解だ!」
「やったー♪」
カティアははしゃいでいるが、メリーダがすぐに「お嬢さま、はしたない言葉使いはおやめ下さいッ!」と語尾をかなり強くして注意する。
「ジョー、それって問題の出し方がセクハンじゃないの?」
サイリアはお茶を飲みながら目線を細め、ジョーにつっかかった。
(エッ、なにが……?)
ジョーにそのような思いなど無くただ純粋な気持ちで問題を出していた。それも丁寧で分かり易く。
訳が分からないと、サイリアを見る。
「カティアは年頃なのよ。そんな子に排泄物の名前を言わすなんて……」
【こりゃぁ、高度なプレイだな……】
壁に立て掛けてある蛇腹刀も急に声を出した。
カティアも言った後でメリーダに注意され、自身の失態に気が付いた。
今はプルプルと涙目で身体を震わしている。
「師匠! 年頃の乙女になんて事言わすんですかッ!! セクハン師匠!!」
突然、カティアはすごい剣幕でジョーに喰ってかかる。
通常であればセクハンという単語に反応するのだが、今回のジョーは反応しない。
何をいってもこんな現状では自分が悪かったと自覚している。
「いやぁな……、なんていうか、偶然にも答えがそうなってしまったと言うか……」
「フィフィちゃんにもメリーダにも言わせるつもりだったんでしょうッ!!」
「ほら、まったく、そんなつもりもなくて……」
カティアの追求にジョーは目線を逸らす。サイリアを始め、全員の視線が痛いのだ。
年頃の貴族の令嬢に排泄物(=○ンチ)の名前を言わせた事実は消えない。
その後、――何とか誤解を解こうと、20分以上の説明を要するのだった。
「じゃぁ……次にいきますね……」
ジョーは静かに敬語で弟子達に教えの続きを説いていく。
考察1
ブルーバットルはキングゴブリン討伐前の話で出来来ている魔物です。
相当昔なんで忘れている方も多いと思いますが、その時少し説明しています。
考察2
『スライム処理房』は現代で言う所の最終処理場のような施設です。
正直、この下水の話というのはあまりしてこない方が無難だと作者は思いますが、都市とか町とかの城塞都市では疫病が発生しやすく、そこで生活するにはどうした方がいいのか?--という思いから生まれた施設です。
通常であれば聞き流す話、省略する話でしょうが……。やはり、幅広く取り上げないとスッキリしないというか……、独自にやろうか……という作者なりの想いというものがありまして……。
少し汚く、まさに生活重視な話の1つとして書き上げてみました。
きたない話でごめんなさい。




