訓練10日目
昨晩の雨が止み、ジョー達は訓練を続けていた。
河原の隅でジョーとカティアが剣術の稽古をしていた。
激しく打ち合う2人だがジョーはどこか余裕を見せていた。
(やっぱりカティアは剣術に光るモノがあるかもな……)
そう思いながらカティアの激しい剣撃をスルリスルリと受けていく。
木剣の打ち合い反発音が何度も周囲に反響していた。
ジョーが余裕な事はカティア自身も分かっている。
表情が崩れた事が無く、どこか動作1つ1つに余裕があり、彼女自身もジョーに気づかって稽古“されている”と思っていた。
だが、どんなに早く打ち込んでも、回り込んでも、変化をつけても、ジョーは全てを受けて流していく。
探そうにも隙も無いように感じている。
(このままじゃ、ダメだわ……)
なんとか、1本とりたいと願うカティア。
それは彼女がこの訓練が始まる前から秘かに願っている事だ。
それほどにジョーが驚く顔がみたいと同時に褒めてもらいたいと願う。
(いっきに行かないと……)
カティアは静かに決意する。
そして、剣先を地面に突き刺し、そのまま跳ね上げた。
空中を舞う、小石と土、それがジョーの顔面を襲う。
このような“汚い戦い方”も、ジョーは教えている。“正統な戦い”だけでは生き残れない事を伝え、カティアもそのやり方と反応訓練を続けていた。
なので、この方法は実戦練習中には当然のように有効であり、間違ってはいない。
ジョーは手で振り払い、横に避ける。
最小限の動きで目の前に視界を確保するように努めていた。
(この動きも良くなっている……)と、少し笑みを浮かべる。
ジョーは弟子の成長が嬉しかった。
しかし、もっと嬉しい事がある。その行動すら囮にカティアは移動していた。
眼つぶしの小石を巻きあげた後、素早く横に移動し、すぐにジョーの視界から外れる。
瞬間的に傍にある崖に肉体強化魔術をつかって飛び移り、斜面を駆け上がる、足裏にスパイクのように魔力を形成して、前にジョーがやったような似たモノを造っていた。それは、小さいが魔力操作の技術の向上が見られる。
それを使い、斜面で身体を制御してジョーに飛びかかろうとしていた。
その行動を全て追い――ジョーは(考えているな……)と思う。
時の圧縮された合間であるが、ジョーの思考は自然と追いついている。
肉体強化魔術の活性化によって全ての動きが見えていた。
なので、カティアの行動をつぶさに観察し、分析も可能である。
崖の方向は感覚的に間の無いの場所で、自然と警戒心が薄れる事も彼女が選んだ訳だろう。
カティアはそこを無理やり突破し、奇襲+奇襲の形をとっていることもわかっている。
後方付近の死角、さらに姿勢が悪い状態のジョーにカティアが崖の斜面の高い所から跳躍し、そのまま直線的に襲い掛かる。それは獣の跳びかかる様によく似ていた。
(やった……)
全身全霊を込めた乾坤一擲の跳躍突きは、初めて一本を取れる可能性がリアルに帯びていた。
しかし、――直前でジョーは霞かかるように――カティアからみたら信じられない位の動きで、姿が消えてしまう。
次の瞬間、カティアはガチッと身体を締めつけられるように動かなくなった。胸と腰を固定され、しっかりと掴まれてしまった。
抱きしめホールド状態、違う言い方をすれば漁師が巨大な魚を持ち上げているようにも見える
急に伝わる衝撃にカティアは訳が分からないが自然と「キャアッ!」と声がでる。
「カティア、威勢の良い攻撃はいいが、着地も考え無い攻撃はよせ……」
ジョーは静かにカティアを地面に降ろしながら告げた。
「し、師匠、セクハンです。乙女の胸を触るなんて!」
カティアは事態が分かり声をあげる。顔を真っ赤にして。
「バカモノッ! お前が何も考えず危ない攻撃をして地面に突っ込むのを救ってやったんじゃないか!?」
ジョーは『セクハン』という単語に敏感になっている。なので、すぐにカティアの意見に反論する。
「ですが、うら若き乙女の胸を触るなんて……重罪です!」
「そうかよ、でも、うら若き顔が血まみれになるよりかはいいだろ?」
「……まぁ、そうですけど……、師匠、救って頂いてありがとうございます」
カティアは頭を下げる。
「うん、謝意を受け取ろう」
ジョーはいつものように偉そうに師匠として感謝を受け取る。
いつの間にかこのような師弟関係になってしまったが、コレはコレで彼らの師弟関係の絆だった。
――閑話休題。
「それでだ、カティア、途中までの攻撃はよかったぞ」
ジョーは先ほどまでの剣術指導の総評を述べていた。
「本当ですか、師匠!!」
いつも以上に嬉しそうな声をあげる、カティア。
「教えた通りに奇襲を重ねたのがよかった。でもな……その後の姿勢も考えず後先考え無い一撃はダメだ。受け身も出来ない体勢で俺が捕まえなきゃ顔面から落ちていたぞ!」
「大丈夫です、当てればいいだけです」
「だから、当たんなかっただろ? コノコノッ!」
グリグリと頭を拳骨で撫でまわすジョー。
「師匠、ダメ、髪型が崩れちゃうッ!」
「指導中に髪型なんか気にするな!」
「あ~ッ、乙女の年頃は色々とあるんです! まったく、女心がわかってません!」
急に怒り出すカティア。
ジョーにとって分からない感情であったので言葉に詰まる。
しかし『乙女心が分かってない』と言われ何故が落ち込んでいる。
「おふぅ……。まぁ、それは悪かったが、その前にだな、攻撃後の体勢は重要だぞ……」
ジョーはいきなりトーンダウンして注意する。
「でも、それだと師匠から1本とれませんよ?」
「1本とる事が目的じゃないだろ? それよりも正しい実戦訓練を積んで反応できる事がこの訓練の意義なんだよ」
「わかりました。それよりも“いい所”を言って褒めて下さい」
カティアは不貞腐れながらも褒める言葉を要求する。
若干の上から目線ではあるが、これも長く師弟関係をしているジョーとカティアならではの事だった。
(こいつ、段々と我儘になってやがる……)
そう思いながら1つ息を吐いて気持ちを落ち着ける。
『聖典』である教本に『弟子は叱らず褒めて伸ばせ』と書いてあった事を思い出す。
「まぁいい、それじゃあ褒めよう。まずは魔力操作、魔力形成が随分と安定してきた。素早く発現して攻撃も考えて行っていたな。発想もいいし、自分で出来る事を考えて行う行動力も褒め良い。剣撃も踏み込みがよくなって安定してきたし、カティアは戦う事の才能があるな」
「師匠、本当にッ!」
カティアは満面の笑みをジョーに向けた。
才能があると言われ嬉しいようだ。
「あぁ、攻撃のバランスもいいし、カティアが目標としている魔術騎士に近づいている」
「やったーッッ!!」
両手を上げて喜ぶカティア。
「まぁ、そんな所だ、今日の訓練は終わりだ。後は沢で遊んでこいよ」
ジョーはそう言って訓練の終了を告げた。
「は~い、師匠、行ってきます!」
カティアはそう言ってフィフィとメリーダの待っている方に駆けだした。
ジョーは(ヤレヤレ、お子様だな……)と思いながらその様子を見ていた。




