実地訓練~その2
「追跡術について……――」
ジョーの質問にカティアは止まった。
そのまま目を回し頭から煙が出そうになりながら懸命に考える。
「えっと……、まずは“静かに行動する”、喋り声も聞こえてしまったらいけないから“手話指示”でお互いの行動を確認して……。魔物の“足跡”の方向を確認後、ゆっくりと回り込んで距離を詰める……です」
カティアはそう答えた。
「本当にそれだけか?」
ジョーは更に尋ねた。
――さらにカティアは頭を回転させる。ジョーに習った事を思い出していた。
「えっと、えっと、え~~っと……。そうだ、“風下に入る”だった。あとは“気配を消す”事です」
「よし、大体は正解だな、残りは“匂い消しの薬草”を使う事と目標の“正面には立たないで死角を探す”のも忘れるな」
ジョーは頷いてさらに言葉を付け加える。
カティアは「そうだった!」と思いだしたように言い出した。
「まぁ、よしとしよう、じゃあこれからおさらいをしよう。魔物、それも獣系の魔物は総じて鼻がいい。それは確実で匂い消しや風下に入らないと気配というか匂いで近寄ってくる事がばれる。気が付いたらすぐに警戒行動をとるから、そんな時は近寄ってはいけない。静かに離れるか、動かない事だ」
「師匠、匂い消しを使ってもダメなの?」
カティアは質問をする。
「そうだ、俺達なんて匂いの塊だからな、その程度では誤魔化せない、魔術を使ってさらに色々しないと完全とは言えないな」
「そうなの……昨日丁寧に身体洗ったけど……」
カティアは腕辺りをクンクンと嗅ぐ。
フィフィも同じ様に自分の匂いを嗅いでいた。
「フィフィちゃん、わたし臭う?」
「大丈夫、いい匂いだよ」
カティアの質問にフィフィは首元の匂いを嗅ぎだして、感想を言う。
乙女の時代であるカティアとフィフィはそれなりに体臭に気を使う年頃でもある。
「カティア、その程度なんじゃ落ちないんだよ、発汗、垢による体臭、服についた匂い、もちろん防具に使われた金属と油の匂いもそうだ。完全に匂いを取り除く事は出来ない。奴等は少しの匂いも嗅ぎ分けているんだ。俺らには感じる事が出来ない位の感覚を持っている」
「そんなに鋭いんですか……、でも師匠、それならどうやって近寄ればいいんですか?」
「そうだな……方法は匂いを消す事では無くて同化させるやり方と魔術的に防御するやり方が一般的だな」
「同化ですか?」
「あぁ、これは単純に身体を汚す事だな、泥や草木の汁をつけて誤魔化したりして、同族の毛皮を纏う事で匂いを消す事だ」
「それは、ヤです」、「毛皮は臭いよね……」
カティアとフィフィは同時に拒絶する。
(本当は“フン”とか塗ると効果的……とは、いわなくてよかった)と、ジョーは考えていた。実際にその方が相手の警戒心が下がるのだが、言葉を濁して伝えて正解だなと――どこかで思っている。
「まぁ、そう言うなよ、あくまで1つの方法だ、後は魔術的な話しになるから、サイリア、説明してやれよ」
ジョーは近くにいるサイリアに話をパスする。
「わかった……。それじゃあ、いいかしら。今度は魔術の要素で魔物に気付かれにくくする方法を教えます。が――その前に色々とおさらいをしてみましょう」
サイリアは頷いて弟子達に顔を向ける。
「「「はい、お願いします」」」と丁寧な返事が弟子から返るとサイリアは微笑んだ。
少しではあるが師匠という立場に慣れつつあるサイリアは、次第に弟子を持ったという優越感に浸っている。
「それじゃあ、これまでのおさらいから始めます。始めに魔物に会いたくなければ行動範囲に入らなければいいという単純なモノだけど、実際にはそう上手くいきません。魔物は動きまわるので確実に近くにいないとも言いきれないのです。ですが魔物が近くにいるか遠くにいるかの目安となるモノがあります、それはなんでしょうか? フィフィ答えてみましょう」
「は、はい、えっと……足跡の方向と木の枝が折れているかで、どれ位時間が経っているか、行動の目安となります」
フィフィはキョロキョロしながら答えを言う。
過去に覚えた書物の言葉を思い出しているようだ。
「うん、正解です。でも、それだけじゃないわよね?」
サイリアは頷きながらも、更なる答えの質を上げようと更に返した。
フィフィは当然のように焦る、それ以上の答えが思い付かない様子で固まってしまう。
「思い付かない?」
「はい……ごめんなさい」
「謝らなくっていいのよ」
サイリアの質問にフィフィが謝ってしまい、今度はサイリアが焦ってしまった。
(おい、お前が焦ってどうする……)とツッコミたくなる気持ちを抑えて――ジョーが横から口を出した。
「正解は“フン”だ、それに樹木によく付いている爪痕も目安になる。特殊なのは体液が飛び散って腐ってしまうような足跡を残すタイプの魔物もいる」
ジョーは正解を言った。
しかし、サイリアは「ジョー、すぐに答えを言わないで」と、文句を言う。
「まぁ、そう言うなって、サイリア。実際に目で見て確認したほうがいいだろう。それにもっと言えば“足跡”や“フン”で魔物の種類の特定も済む」
ジョーの質問にカティアが手を上げる。
「師匠、足跡やフンで種類までわかるんですか?」
「あぁ、さらに進んだ方向でわかるよ……」
「それはどうやって?」
「足跡の種類だな、俺達のように脚の裏の形が似ているのがヒト型の魔物であり、大きさ、指の数で身体の大きさも特定できる。4足歩行と2足歩行の魔物のタイプ分けが出来るという事だ。蹄の跡でも判断出来る、山の中では柔らかい土の上にくっきりと残るから、そこから更に多足歩行の魔獣のタイプ別に分ける事が出来る。そしてフンだ。魔獣や魔物のタイプによって“仕方”が違う。“溜めクソ”や“歩きクソ”にそして留まって“クソ”をする奴にわけわれる、そこで大体の情報が手に入るんだ。細かく言えば足跡の方向と、クソの方向、後は乾き具合とか、樹木に擦りつけられた匂いとか、木の実を食べた後とかでも判断出来る……、実は追跡に必要な合図はそこら辺にいっぱい落ちているもんだよ」
ジョーの“ウンチク”に弟子達は戸惑う。
クソ(=うんち)という単語が乱舞した事もあるが、そんな所まで見ないといけない――と、戸惑いを見せていた。
「ジョー、もっと言葉に気をつけなさい」
サイリアからお叱りを受けてしまった。
「でも、真実だから……」
「言い方があります。まったく、話しがズレちゃったでしょ」
サイリアはジョーを睨んだ。
(まぁ、出しゃばり過ぎたな……)と、ジョーも思うと、シュンと小さくなる。




