サイリアの魔術講座 その2
「――と、言う訳で、骨折の場合には裂傷や切り傷と違い回復魔術前に骨そのものを形成し直す事が重要となります。この時に骨が飛び出している時と身体の中で骨折している場合でも砕けている事があるので、前に話した話しと合わせて十分考慮して行動しましょう」
――サイリアはそこまで言って石筆を置いた。
「サイリア師匠。その違いは何ですか?」
カティアは手を上げて質問する
「カティアはまだ見た事無いのね……。大きく分かれて腫れあがっている時は激しい骨折の可能性が高まっています。打撲もそうだけど、痣のように膨らんでいたら要注意ね。この時に生命回復薬を飲ませる事を忘れないで、場合によっては切開して血を抜きだした方が良い場合もありますが、そこは経験がモノをいいます。あやふやな判断は絶対に止めて、現状保存に努めましょう」
「はい、わかりました……」
カティアは持っているメモ帳に文字を書き写す。
「サイリア師匠、いいですか?」
「何かしらフィフィ?」
「はい、あのですね……、骨というか骨格についてのイメージがあやふやで、回復魔術が正しく機能するか分からないのですが……」
フィフィの質問は身体の構造をしっかりと把握する事が出来ない悩みがあった。
本来であれば、体外にでた骨は消毒し、傷口に触らない事が一番であるとサイリアは教えていたが、緊急時にはそうはいっていられない。深刻な症状の時は各自の判断がモノを言うかもしれないのだ。
「う~ん、困ったわね……。書物に関しても記載はあるのだけど、実際はエグイから……」
サイリアは人体の構造の説明に困ってしまう。
骨だけでは無い、筋肉、血管、神経と重要な個所の説明は省略していた。
サイリアはそのままジョーをチラリと見た。
「ジョー、どうやって説明したらいい?」と、本を読んで静かにしているジョーに意見を求める。
「あぁ……? なんだよ、サイリア?」
「だから、身体の構造を知るにはどうしたらいいと思う?」
「アレだな、解剖学の公開研究を見た方が手っ取り早いだろ? でも、アレって年齢制限なかったっけ?」
「そうね……、でもベルンの町でやっていたかしら?」
「あぁ……、そうだったな……、王都に行かないとやっていないかもしれないな……」
「じゃぁ、ジョー無意味じゃない!」
ジョーとサイリアの会話にカティアが反応する。
「師匠、王都に行かないと見られないなら是非行きましょう!」
鼻息を荒くしてカティアは2人の会話に割り込んだ。
まだ、王都に行く夢を捨てきれないカティア。
「お嬢さま、ご無理でしょうから……」と、メリーダは優しく声を掛ける。
「メリーダ、王都に行けるのよ、こんな機会を逃してなるものですかッ!」
カティアは思わず本心が出てしまう。
「カティア、『解剖の公開』を見るのよ、その意味が分かっているの?」
サイリアは優しく問いかける。
カティアとフィフィは不思議な顔をしている。サイリアの言葉の意味を本当は理解して無いことは確実だった。
王都に行く事を最優先にしているようだ。
「わかりません、王都で師匠達が資料案内してくれるんですか?」
「違うのよ、死体をね……大きな部屋の中で解剖していくの……」
サイリアは言いづらそうに言葉を伝えた。
サイリアの言う死体とは、病気によって死亡した者、または死刑囚の亡骸を研究の為に引き取り、公開場所の前で解剖していく事なのだ。
殆ど生身の死体の解剖に一部の者はその場で吐いてしまう、負の連鎖というか『ゲロの連鎖』が起きる。もらいゲロを始め、各人それなりに覚悟がいる公開研究なのだ。
しかしながら、怖いモノ見たさとモノ珍しさが相まって何カ月待ちも起こりえる、毎回、大盛況間違いない催しだった。
カティア達は意味を察し、少し青ざめた顔をする。
「うげぇ~、それは、見たくないわ」
「死体を見るのは怖いね……。カティアちゃん、見に行く?」
「王都には行きたいけど……」
「お嬢さま、淑女たるもの『うげぇ~』などという言葉使いは……」
「メリーダ、わたしもそんな表現をする事はあるよ、だって、死体よ、死体……、無理かも……」
サイリアの前で弟子達が一斉に喋り出した。
無理も無い事だが、死体をきざんで見世物にするなど彼女達の中で思いもしなかった事なのだ。
「言っておくけど、カティアとフィフィの入場は無理よ。15か16歳以上の者が対象で、さらに抽選になる事も多いから……」
サイリアはそう伝えると――「師匠は見た事あるんですか……」と、カティアは尋ねる。
「アえぇッ、ええっとね……。3年位前にあるわよ……」
サイリアは動揺しながらも返事を返した。
「えぇ、どんな感じだったんですか!? 気持ち悪かったですか……」
「サイリア師匠どんな風にやるんですか?」
「どんな方がやっていたんですか?」
弟子達の質問は集中砲火のようにサイリアに浴びせられる。
「えぇっとね、男性の遺体で……――」と、サイリアはしどろもどろになりながら弟子達に説明していった。
それを好奇な目を送りながら聴きいっているカティアとフィフィ、そして、少し離れて耳を傾けるメリーダの姿をジョーは遠くから静かに見ていた。
(あの時……ほとんど見られなかったよな……)と、――当時を思い出している。
席に着いた後で、始まった光景は想像以上にグロデスクであり、余りの衝撃にサイリアはダウンした。そして部屋に漂う悪臭と、可視化されたような匂いに気持ち悪さが倍増、そして周囲に漂うゲロの匂いに、サイリアも、“もらいゲロ”をした事を思い出したが、――そこは、優しさで言わない事にしている。
結局は年齢まで標本を参考にして人体構造の感じを掴んでいく事が決まり、サイリアも一安心していた。
雨の中で訓練4日目は……こうして幕を閉じた。
回復魔術、それも自己回復強化魔術と申しましょうか? とにかく回復魔術には条件があると思うのです。
実際問題骨折にも種類があり、粉砕骨折や骨そのものが飛び出す危険性があります。
そういう時に魔術だけで完治するのか――という基本的な疑問が頭をよぎりました。
そこはご都合の如く、自然に骨が戻ります。えぇ大丈夫です。なんやかんやで骨もきれいになって普段の通りに完治します系魔術でいくのか、外科手術のように解剖学を学び、人体の構造に則した回復魔術を施すか非常に悩みました。
作者は後者の方を選びました。なにせ生活感を出す宣言をしてしまった手前。ご都合過ぎるのはどのなのかな?--と自らに嵌めた枷に苦しんでいます。
なので色々と方法を考え、どうなっていくのか考察する毎日です。
難しい限りですが、間違っていたらそっと教えて下さい。
さすがに医療知識までは備えておりません。
解剖学自体は中世の見世物のようにやっていたそうです。日本でも杉田玄などが解体新書を出していますよね。冒険者になる上で人体の構造の基礎知識は必須です。戦場でも医療班があるくらいですから、ある程度文明が進んでいれば必ずその壁にぶち当たる事でしょう。
なので、勉強する場は設けてあります。




