訓練4日目
普段通りの訓練を終え――4日目が始まっていた。
天気もいいわけでない、靄の掛かる中での訓練であった。
そんな中で――ジョーとカティアは剣術の修行に励む。
「ちょ、ちょっと、まって、待ってぇぇぇ~」
カティアの声が河原に響く。
「ほら、どうした。実戦では魔物は待ってくれないぞ!」
ジョーは容赦なく“槍のようなモノ”で攻撃をしている。
槍とは言えず、刃物がついているわけでは無く、棍のようなモノの先に布と綿を入れて固めた殺傷能力の極力低いモノを使用していた。
その先に――墨を浸し、容赦なくカティアに打ちつけている。
カティアが声を上げたのは剣で遮るよりも手早い中段連続突きで、ソレを顔や身体に受けて、黒く変色していた。
その攻撃が顔を汚しカティアは声を上げているのだ。
「ほら! ほら! ほら! カティア、もっと動け、正面で受けるな!」
ジョーは喝を飛ばしカティアに指導をしていく。
カティアは懸命に逃げる、避けて、避けて、木剣で受けるが、ジョーは容赦なく突く。
「いやー! このッ! このッ!」
カティアもやり返すが、金髪の綺麗な髪が黒く染まり始める。
***
「師匠、もっと手加減して下さい!」
カティアはメリーダに顔を拭かれながら小休憩中にジョーに文句を言う。
岩に座りながらジョーは水分補給をしていた。
「カティア、魔物は体躯のデカイ奴の方が多い。必然的に間合いが遠く厄介だ。最低でもあの程度の攻撃を捌けないようじゃ、高ランクの魔物の相手は出来ないぞ」
「う~~ぅ、まぁ、そうでしょうけど、こんなに汚さなくても……」
「どうやって、攻撃をされたか分かっていいだろ? それに魔物とは正面からやり合ってはいけない教訓だ」
「そうですけど……。もっと他のやり方でも」
カティアは黒い顔で恨めしそうに目線を送る。
「なんだ、不満か? 新しい訓練を希望したのはカティアだぞ?」
「そうですけど……」
「不満そうだな……」
「いいえ、もういいです。それよりも師匠、槍まで扱えたんですね?」
カティアは何かを思いだしたように質問をした。
「あぁ、俺の国では一定年齢以上の男子は武術の訓練をするものなんだよ。剣術、槍術、馬術、水練、組討(近接格闘術)、遠当て用の弓術、特殊なのだと投武術とかだな……。本当に色々やったよ」
「はぁ~、南部の伝統ですか?」
「いや、しきたりだな。戦う訓練を義務づけられていたんだよ」
「なるほど……だから、南部の人を『戦の鬼』とかいうんですね?」
「あぁ、そう言われているみたいだけど……、こっちに来てそう言われている事を知ったよなぁ~、まぁ、当時はそれが当たり前だと思っていた」
「そうなんですか~、幼き頃からの修練で現在の師匠が出来ているんですね、うんうん」
カティアは独り、納得している。
「師匠、失礼かもしれないですけど……」
メリーダが、今度は尋ねてくる。
「なんだ?」と、ジョーは不思議に思っていた。
「あの、南部の人でもそう言う訓練を受ける方は上流階級……、いわゆる、貴族の方だと聞いた事があるんですけど……」
と、恐縮したように尋ねてきた。
――ジョーはピクリと眉を動かす。
「エッ、師匠って貴族だったの?」
何故がカティアは嬉しそうだった。
「まぁな……。でも貴族っていうか、“武家”とも言って、戦える奴はそう呼ぶんだ。それもピンからキリまで大勢の家があるし色々と差があるんだよ」
そこまでジョーが言うと話しを打ち切るように――[ドオォォォォォンッッ!!]――と、大きい事が響き、地面が揺れる。
「フィフィの魔術だな、運ばないといけないから、カティアは川で顔を洗って来いよ。それと、小雨が降っているからあまり深い所には行くなよ……」
ジョーは立ち上がり、水筒を岩の上に置くと、そのまま靄の中に消えていく――煙に巻くように。
***
午後を過ぎてから本格的な雨が降り始めた。
ジョー達は訓練を止めて洞窟内に引き返している。
フィフィはマナ欠乏症で休憩中であり、カティアとメリーダはサイリアに回復魔術を習っていて。ジョーは焚火の辺りで静かに本を読み身体を休憩させていた。
「いいかしら、回復魔術は精霊の力か自分の力を対象の循環させるようにするのよ。魔力の巡りを意識していくの……、相手と1つになるような感覚で……、ゆっくりと魔力を送っていくの……」
サイリアの手には萎びられた花を持っていた。
茎の部分を両手で摘まみ、指の先から淡い光が溢れ出る。
すると、萎びられた花が生きているように立ち上がり、綺麗な花を開かせた。
「ほら、こうやって元気にさせたでしょ? これが回復魔術の初めなのよ。相手を元気にさせる。活性化させる事なの……」
サイリアは花をカティアとメリーダに見せた。
「ほぁ~、サイリア師匠、凄い!」
カティアは感嘆の声を漏らす。
目を輝かせて生き返った瑞々しい花を見ていた。
「魔力活性を利用した、治癒能力の強化が今回の課題です。冒険者になったら怪我はつきものですけど……。その時に回復魔術の有り無しで随分と依頼の成功率が変わってきます。だからパーティに1人位は回復魔術出来る専門がいないと辛いと言われています」
「はい、知っています。でも、難しい魔術だって学校で教わりました」
カティアはそう言って返事をした。
「うん、そう言われているけど、実際に重傷以外の傷は私達自身で直せるものなのよ。高度な回復魔術は確かに難しいけど、裂傷、打撲、切り傷程度なら覚えれば大抵の人は直せます。簡易なモノから高度なモノまで考えるから難しく思えるのです、回復魔術もやり続ければ上手くなります」
サイリアはそう断言する。
そして、同じ様に萎びられた花を渡し――「さぁ、やってみましょう」と手で合図を送った。
カティアもメリーダも苦悶の表情を浮かべながら手に持っている花に魔力を送り続ける。
サイリアはそれを見て満足そうに頷いた。




