ジョー先生のお悩み相談 その2
「でも……、“また”足を引っ張っちゃうかも……」
フィフィはジョーの言葉を聴いて悩みだした。
「“また”ってなんだ?」
「はい、その……、わたし……、その……、小さい事から……。すこし、おっちょこちょいで、みんなで遊ぶと仲間外れにされる事もあって、でも、わかっていたんです。自分が鈍いんだって……。遊びだって私が入ると負ける事が多くて……」
フィフィは言葉を並べづらそうに告げた。
その時の嫌な思いででも思いだしているのだろう。
ジョーは(なるほどな……)と、どこか腑に落ちた。彼女の弱気もとい、慎重になり過ぎる傾向はその時に始まったのだろう――と、どこか考え過ぎで、行動も気持ちも弱気で、カティアに引っ張られてばっかりの彼女である事に。
「フィフィは……カティアが好きか?」
ジョーは唐突にそう質問した。
フィフィはジョーの顔を見て、段々と顔を赤くして、頷く。
(あれ、友達的に好きだという意味だと思ったんだけど……)
質問したジョーは何故か意図が外れて、少し考えさせられた。
すこし間を開けるように咳払いをして。
「まぁ、……な、カティアも元々は独りっきりで過ごしてきた奴だ。この町の貴族の娘でもあるわけだし、小さい頃から周りとの距離があった。始めの頃は素直じゃなくて……、どこか皮を被っていたよ。トゲトゲしていて、どこか寂しがりだった。でもな、俺達が遠征に行って返って来たら前より明るくなっていた。そしたらカティアの奴、お前を紹介してきたよ。すぐに思ったね、カティアは変わったって、本来の明るさが出てきたと思った。強気で我儘な奴だったが、フィフィといて変わったと思っている」
「そうなんですか……。そういえば、学校でもカティアちゃんは独りだったかも、だれもカティアちゃんに近寄りがたくって……」
「そうだな、大人でも、子供でも、どこかで委縮しちゃうもんなのさ。でも、フィフィは近寄っただろ、なんでだ?」
「……それは……、どこかでお話したいなぁ~って思っていたから……。だから勇気を出して話しかけてみたんです。そしたら色々教えてくれて、お弁当を一緒に食べるようになって、授業も一緒に受けるようになって、皆で話しをするようになりました」
「じゃあ、それはフィフィの“勇気”がカティアを変えたと言えるな。フィフィは自分から進んでいって仲良くなった。運命を変えたと言っていい事だ」
「でも、わたし、そこまでの事をした訳じゃ無くて……」
両手を振りまわし否定する。
「いいや、変わったんだ。カティアは倒れたフィフィを見て“守る”って言っていたろ。大切な者が出来たんだよ。友達って奴だな、カティアはフィフィが変えたと言っていい。カティアは変わった。それにフィフィも変わっていると思う、こう言う風に相談する事は自分が変わりたいと願っているからだ」
「そうでしょうか?」
「そうだと思う。それにフィフィはいま、何歳だっけ?」
「じゅ、13歳」
「ほら、若い、それなら……いくらでも成長出来るし、いくらでも自分を変えられるぞ。成長すればフィフィが落ち込む事でも何でもない。修行は成長するためにあるし、師匠である俺達に頼れ、何回でも倒れていい、守ってやるから、なっ」
ジョーはフィフィの頭に手をあてて、クシュクシュと撫でた。
フィフィはまた顔を赤くする。
「でも……、私でもできるかな……」
「“でも”じゃない、フィフィは自身を持った方がいい。『何かを成し遂げる者は自分を信じている者』だ」
――フィフィは2度頷く。
ジョーはフィフィの頭から手を離し、「そうだ、出来るぞ」と言った。
そして、消えそうな焚火に薪を投げ込む。
「フィフィ、いいか? 魔術でもなんでも自分に自信を持つ事が大事だ、どんな時でもだ。周りを魔物に囲まれている時でも“やれる”、“できる”と思ってしまえば案外出来てしまうもんだ。“出来ない”、“負ける”と思ってしまえば、その通りになってしまう」
ジョーは火箸で薪を火の奥に入れる。
フィフィは真剣にジョーの話を聴いていた。
「それじゃあ、フィフィ、先ずは目標を決めよう」
ジョーは焚火の調整が終わると、フィフィにそう告げる。
「目標ですか、師匠?」
「そうだ、まず明日中は『無理』と『出来ない』を言わない事だ」
「それだけですか?」
「そう、まずは小さく行こう。それを何年も積み重ねてみろ、10年後には大魔術師と呼ばれているかも知れないだろ?」
ジョーはまた、ニッコリと笑った。
「は、ハイ」とフィフィも笑顔を返す。
「そうだ、積み重ねていけば変わっていくぞ。いいか?『成功している者、全ては努力している』。フィフィだってそうなれるからな」
先ほどより、フィフィの目が輝いているようだ。
頷きながら嬉しそうにしていた。
「じゃあ、もう遅いから寝ろ。身体も温まっただろ?」
「はい、コレ飲んだら寝ます」
フィフィは少し冷めた白湯を一気に飲んだ。
「あぁ、そうしろ……」
ジョーはそう言って焚火の火を管理している。
そうして、フィフィが立ち上がると、チラチラと外を見出した。
「なんだ、便所か?」
ジョーの問いかけにフィフィは頷く。
「ランプ、持ってけよ」と、言って、ジョーは本を読むように用意していた手元のランプを渡した。
フィフィはそれを受け取ると、また、ソワソワしだした。
(んッ、なんだ……)
ジョーは思うが、すぐに答えに行き着く。
「付き添いが欲しいのか?」
ジョーの問いかけにフィフィは頷く。
(カティアと同じだな……)
「洞窟の前までだぞ」
ジョーはそう言って立ち上がり、蛇腹刀を背負った。
***
ジョーはそのまま洞窟の外でフィフィを待っている。
夜空の星は殆ど見えないほど雲が掛かっていた。
ジョーは欠伸をしながら夜空を見上げている。
「ふぁ~、眠いな……」
【ジョー、さっきまでの説教は見事だったな、多少、芝居がかってはいたが……】
「おい、激励と言え、助言と言え、それに師匠としてだな、そう言う風に言わないといけないんだよ」
【まぁ、細かい事はどうでもいいだろ? それよりもお前も変わったな……、“昔”のようにギラついていた頃のお前ではないぞ】
「そりゃどうも……」
【あぁ、そんなお前に褒め言葉を送ろう。『ロリ野郎』とな……】
「なんだよ、“ろりやろう”って?」
【昔に教えてもらった言葉だ……。意味は……小さき者に優しい者だったかな?】
「おい、随分と曖昧だな。それになんかムカムカする言葉だぞ“ろりやろう”ってのは」
【うむ、もしかしたら『ペド野郎』だったかもしれない。まぁ、良く知らんが、とにかく褒め言葉を送っておく】
「ありがとよ、スネーク」
ジョーがそこまで行くと、ランプの灯りがフラフラと闇夜に揺れて近寄ってきた。
***
「おやすみなさい、ジョー師匠」
「あぁ、フィフィ」
そんな、挨拶を交わしてフィフィは寝床に戻っていった。
そして、ジョーはまた本を読みだす。
(良かった……、読んでいて)
ジョーの見ていたページのタイトルは『迷った弟子に送る、やる気を出させるいい言葉、50選』であった。
このページに3つ、ジョーが言った言葉と似ている文字が羅列されている。
しかし、偶然かどうかは誰も知らない。
なんとなく、幼い子の相談とは小さな悩みですが、本人にしたら大きな悩みなんでしょうね。
徐々にではありますが、人間関係がわかってくればと思っています。




