計画した通りにいかない
「カティアちゃん……」
フィフィはそう呟く。
「でも、大丈夫、フィフィちゃんが倒れても私が守るから!」と、何かを決意したかのようにカティアはフィフィに告げる。
「カティアちゃん……」
今度は少し顔を赤らめてフィフィは呟く。
――男女であれば何かのロマンスが始まりそうな、そんな予感がする言葉であるが、女性×女性。それも、思春期中の子供である2人は下手な恋愛寄りの展開にはならない――。
「こら、カティア、出来もしない事を言うのは良くないぞ」
ジョーは注意する。
「師匠、出来ます。一生、フィフィちゃんを守っていきます!」
「おい、それは『男性』がいう台詞じゃないか……」
ジョーはカッコイイ台詞を並べるカティアに呆れながらも、何故か恥ずかしげもなく吐けるその台詞に負けたような気がした。
「それに、魔物に囲まれたらどうする。例えば……ゴブリンの強さの比じゃない『バルバロ狼』の群れだ。危険だぞ。そんな中で倒れたらどれほど話だ、常に最悪を想定せよって言葉を忘れたのか?」
「大丈夫、『覚醒』して倒します」
[ゴンッ]と、軽くカティアの頭に拳を乗せるジョー。
「痛い、師匠!」
「痛くない、なんだ、覚醒って?」
「知らないんですか? 急激に強くなる事です。ピンチになったら“何かの血”や“なんとかの力”が目覚める事ですよ?」
「それって、劇の設定か何か……なのか?」
「そうです、主人公がピンチになるとなるヤツです!」
[ゴンッ]と、カティアの頭に再度、拳を乗せた。
「痛い、師匠、2回目!」
そんな会話をフィフィの頭越しに繰り返す――と、サイリアが動きだす。
「2人共、どうでもいい話しはしないで、そろそろフィフィを洞窟に運ぶわよ」
サイリアはジョーとカティアの会話を遮る。
「そうだな、運ぶか……」
ジョーは自然と身体を屈め、フィフィの膝裏と背中に手を入れ――空中に浮かせた。
――完全に『お姫様だっこ』の状態をつくる。
「キャッぁ!」とフィフィは可愛らしい声を漏らす。それに顔も赤みを増している。先ほどまで青かったのだが、――『トキメキ』なのかもしれない。
「師匠、それはセクハンだと思います」
「何をいってる、動けない弟子を運ぶだけだ」
「じゃあ、後で、わたしもお願いします」
「なんでだっ!」
そんな、師匠と弟子の変な会話を繰り返していくと――。
「もう2人共、フィフィを寝床に運ぶわよ! 早く来なさい!」
サイリアは怒りながら命令を飛ばす。
***
ジョーがテントの中から出てきた。
「どう、フィフィは寝た?」
サイリアが茣蓙の傍で話しかける。焚火をつけて、色々な準備までしていた。
周囲にはカティアとメリーダも座っていた。
「あぁ、すぐに寝入っちまったよ。マナ欠乏症だからな……」と、ジョーはそう言いながら入り口の布を閉めた。
「大丈夫でしょうか?」
メリーダは心配そうに目線をフィフィがいる寝床に向ける。
「大丈夫だよ。意識もあるし、話せるようになった。後は寝れば回復するさ」
「それならいいですけど……。心配です」
「大丈夫だって、まぁ、これも訓練だと思え、メリーダもフィフィも緊急事態の時には落ち着いた行動が、なにより大事だと学ぶ事が出来た。フィフィも無事、何も問題ないだろ」
ジョーは身体で問題無いと表現する。
メリーダもフィフィも「はい」と返事を返した。
「よし、でも、実戦となると、ああいう場合は安全な場所に移動してから治療を開始するからな、よく覚えておくんだぞ」
ジョーはそう言って、教官としての立場も忘れない。
「わかっています。周囲の確認と安全の確保ですよね。対象が本当に危険な場合には周りを囲って場所を確保する。――まで、ちゃんと覚えています」
カティアは元気よく答えた。
「そうだ、実際問題、結構多い。でも、怪我や体調の管理は常にしておく事、何も無く戦えるのが1番良い事だからな」
「ハイ、それで師匠に質問です!」
「なんだ、カティア?」
「えぇ、疑問なのですが……。フィフィちゃん、なんで急にマナ欠乏症になったんでしょうか? 前日の的当てでも、そんな兆候が無かったんです。それだったら魔術の矢の訓練の時になってもおかしく無いんじゃないですか?」
カティアはそう質問をした。
確かに、これまでの訓練でフィフィにそうした兆候は無い。魔弾も問題無く放っていた。
(あれ、そういえばそうだな……。魔弾の訓練も普通にこなしていたはずだよな……)
その質問に、ジョーも止まる。そして、お茶を器に入れているサイリアを見た。
サイリアは気がつき、「なによ?」と返事をした。
***
「俺が思うに、フィフィの“性格”が1つの問題になっている。そしてそれが“有効”に働いていたと思うんだ?」
お茶を受け取り、ジョーは、ひと息つくとそう述べた。
「フィフィちゃんの性格ですか? ジョー師匠?」
同じ様にお茶を飲みながらカティアは尋ねる。
「うん、そうだと思う、サイリア。――前に、フィフィの魔力測定の結果とか聞いたはずだ。『魔深度』と『魔高度』は分かるか?」
「そうね……。たしか、魔深度が『黄、深度40』、『青、深度25』、『紫、深度20』で魔高度が1100位だったかしら?」
「3系統に魔高度も年頃にしては高いな……」
ジョーも驚く、一般的に初期の系統は2系統でも多いのだ。訓練でその後の系統を伸ばすのだが始めから3系統は稀有な存在に近い。魔高度も多く、優秀な魔導士の資質をフィフィは持っていた。
「あれ? 私より多いかも……」と、カティアは落ち込む。
「カティア、現在は違うかもしれないでしょ? 帰ったら、もう1回計ってみたら?」
サイリアはすぐにフォローする。
仲良しと言っても同性、そして“差”というモノを気にする年頃だと、どことなく理解していた。
メリーダもそれを気遣ってかカティアに「大丈夫ですよ、お嬢様」といって慰める。
「まぁ、とにかく……。俺が思うに、カティアは弱気な所もあるし、気を使う事も多い。訓練でも今まで冒険者学校でしか訓練を受けていないんだろうな……。巨大な魔術を環境のせいで放つ事も無かった。学校でも周りに合わせて、いつの間にか無意識化で制御していたんだろうと思う。でも、今回は周りに何もない事も手伝って、サイリアの助言した通りに思いっきり放ったんだろうな……」
ジョーの発言にサイリアは頷き――
「そうね、それに系統魔術で放ったのがいけなかったのかも、『巨人之拳』の魔術を教えたんだけど、まさかあそこまで大きいのを創るなんて……。相性も良かったし」
「そうだな、系統と相性に緊張、集中、環境が揃って、フィフィ本来の力を発揮したと言った所だろうな。自分でも制御出来ない位に一気に魔力を使ってしまったって事だろ」
「そうよね、困ったわ……。フィフィ専用の訓練を考え無いと……」
「仕方がない、訓練方法を変更するしかないな……」
ジョーは溜息を吐く。
ここまで長い時間をかけた――修行方法計画が、この時、全て水の泡と消えた。




