訓練3日目
訓練も3日目に突入する――。
常日頃からカティア、フィフィ、メリーダはジョーに走らされてきた。
訓練でもそれは同じである。
勾配のある道、それも滑り易く、さらに木の根が張っている悪路も懸命に乗り越えていく、そんな強い体力も得ていると思えた。
そのまま長い時間の山中走破も慣れ始めてきた様子でジョーは逐一弟子たちの動きを確認していた。
(よしよし、カティアもメリーダも長い事、走る成果が出てきたな。フィフィは少し遅れている感じだがよく着いていっている。……これなら段階を上げても大丈夫そうだ、長い事訓練で走る事に比重を置いたのがよかったな)
細かく観察し、身体造りの成果を見ていた。
ジョー自身は蛇腹刀+背中に籠の中に岩の塊を背負い平然とカティア達に喝を入れながら元気よく走っている。
――これも、ジョー自身の訓練ともいえる。
しかし、ひとり遅れている者がいる。サイリアだ。
彼女自身、重りを着け走っているのでペースが上がらないのは仕方の無い事だが、それ以上の夜間の警戒、昼間の訓練、食事の用意、その他雑用もある。さらに弟子達にどう教えるか勉強を行い、始めての事で色々と心身の疲労が溜まっている様子だ。
ジョーは走りながらサイリアの肩を叩く。
「サイリア、遅れているぞ、疲れているのか?」
「なによ、大丈夫、それよりもイヤらしい眼つきで弟子達を見てないでよッ!」と、息を切らせながら懸命にジョーにカラ元気を振りまいた。
汗を流し厳しい表情をしている。
「別にイヤらしい眼で見てないだろ? “どのくらい成長した”のか確認してただけ!」
ジョーは返した。
「それってセクハン発言よ……」
「……そうだな」
言葉足らずにジョーは黙る。
***
――山中走破の訓練を終えて。
朝食を摂る最中。静かに山間の空を眺めるジョーは天気の確認をしていた。
「明日か明後日には天気が崩れそうだな……」
ジョーはボソッと呟いた。
「師匠、なんでわかるの?」とカティアは食事で用意された鍋焼きパンの切れ端と野菜スープを膝の上に乗せ、質問をした。
「あぁ、尾根に雲が掛かり始めた。ああやって重い雲は雨を呼ぶんだ。山の天気が崩れる時はそんな前兆があるんだよ」
ジョーは金属の容器に入った飲み物を飲んで、カティアに説明する。
「ふ~ん、そうなんだ」と、事の重大な問題にカティアは気がつかない。
「言っておくけど、山に限らず、仕事中に天気の崩れは色々と危険だ。霧や降雨で予期せぬ事が起こるかも知れない。天気の変化で魔物達も動きが変わる事が多々ある、環境の変化にも敏感にならないと冒険者としてやっていけないぞ」
「そうですね、師匠。でもどうやったらそんな事を覚えられるんですか?」
「なに、ギルド発行の情報誌とかに色々と乗っているし、気象学についても学ぶ本もギルド側で貸し出しているから利用出来るモノは何でも利用しなさい」
ジョーは弟子にそんなアドバイスを送る。
いつものように元気な返事か返ってくるとカティアはまた食事を美味しそうに食べ始める。
(いまは、教える事より食い気だな……)とジョーは静かに笑った。
***
食事を終え、休憩をとり、カティア達は次なる修行“崖登り”を始めていた。
懸命に登るが普段と少し違う事にジョーは気がつく。
(なるほど、フィフィは魔力形成で“魔術手”を使って補助をつけているのか……。メリーダは肉体強化魔術を意識してやっているな……。カティアは……あぁ、爪のように突起物を創って落ちない様にして、肉体強化魔術で登ろうとしているのか……)
3人の弟子達の昨日との違いをジョーは感じていた。
助言によって行動の変化は成長の一端と言える。
それぞれが思い、考える事によっての変化は才能を磨く事でもある。
「なるほど、なるほど……」と呟いた。
ジョーは蛇腹刀で素振りを行う。――それも剣に植物袋で砂と砂利を入れたモノを縄で括りつけての。簡単筋トレを実行していた。
「ちょっと、ジョー。あまりジロジロ見ないでよ、セクハン1ッ回」
サイリアはジトーとした目を向け、ジョーを警戒した。
「べ、別にイヤらしさは無いだろ。弟子の様子を見るのも師匠の努めなんだよ!」
「鼻の穴が膨らんでいるけど……」
「……ちがう、これは訓練で息巻いてるの!」
「ふ~ん。まぁ、そう言う事にしておくけど……。へんな素振りをしたら。ウィンちゃんの水弾の餌食よ」
サイリアの隣で空中を漂っている水精霊は球体である水の身体を震わしていた。
「わかっている……よ。本当にそんなつもりじゃないから……」と、ジョーは顔を背け、訓練を続けるしかない。
***
ジョーは午後からカティアと剣術訓練を行っている。
メリーダとフィフィは魔術訓練をサイリアに指導されていた。
そんな中で――。
(よし、だいぶ身体の使い方がわかってきたな。剣筋が良くなった)
ジョーは感心している。
カティアは連続で剣を振るい、ジョーに向かっていっていた。
それを彼は静かに受ける。
木剣が撃ち合い、音が響く。
連撃の中でカティアはジョーの身体に当てようと身を屈め、勢いよく下から突き上げた。
身体ごと、跳躍に近い突きは速度をともなってジョーの顔面付近を狙う。
(ほう、変化をつけてきたか……)
ジョーは上体でかわし――突きで動きが止まったカティアは剣を戻すしかない。
引き戻すタイミングで、ジョーは合わせるように前に出ると、そのまま剣を向かい合わせた。
カティアは急に変化をされて焦る。しかし何も出来ず。そのまま鍔迫り合いのようになり、吹き飛ばされた。
「あぁッ!」と言う声とともに、後ろに転がり、そして起き上がろうとするが、ジョーはもう前にいて剣を頭に当てていた。
「ま、まいりました」
カティアは悔しそうに声を出す。
「うん、まぁ、良くなっている。でも突きの後は隙もデカイ。もっと相手の体勢を見る事だ。それに何度も言っているけど、カティアは身体も小さい。力任せの勝負に出られたら分が悪いぞ……」
そう言ってジョーは剣を引く。
「はい、師匠。もう1回お願いします!」
元気よくカティアは起き上がる。
「わかった。でも、今度は打ち合うだけじゃ無く、その前に動きで相手を撹乱するように意識してみろ。緩急をつけるとか、とにかく的を絞らせるな」
「わかりました、師匠、任せて下さい」
カティアが剣を構える。
「よし、いくぞ」と、ジョーも剣を構えた直後に――。
[ドオォォォォォンッッ!]と激しい爆音が辺りに響き、草木に止まっている鳥達が一斉に空に羽ばたいた。




