よくも悪くも積み重ね
サイリアは一度咳をして間をとった――。
「じゃあ、説明するけど“魔術手”は無属性の普通の魔術よ。魔力そのものを腕とか手に見立てって操るだけの魔術です。さっき傷口に直接触ると毒が回ってしまう可能性があったから“魔術手”でさわっただけなの。それじゃあ、実演してみるから見ててね」
サイリアはその場から腕を地面に向け。魔力を集める。ぼや~とした淡い光の手が腕の皮が剥けたかのように出来あがると――スルスルと移動し、地面の小石を摘まみ上げた。
そして、サイリアの目の前に小石を持っていく。
「魔力形成と魔力操作の基本的なモノよ。カティアもフィフィも慣れれば使えるから……」と説明する。
カティアとフィフィは驚きながらも――
「師匠、それってすぐに出来るかな?」
「高い所の物取るのに便利そう」
と、すぐに感想を言ってきた。
「出来るわよ。魔術の矢ができればやれます。訓練方法は“石積み”が効果的よ」
サイリアは笑顔のまま――地面に小石を置いて“魔術手”を器用に動かし、平べったい石を積み上げ。適当な場所にヒョイヒョイと積み上げていく。
「――と、まぁ。こう言う風に石を積んでいくの。腕は動かさず魔力そのものを操作するのよ」
「わっかりました。やってみます」
「カティア、今は“走り撃ち”の練習が先です。この後の自主練習で訓練なさい」
「はい、師匠、そうします」カティアは快諾する。
「いい返事ね。それじゃあ、説明も終えた事だし、まずは3回連続で往復するわよ。カティアもフィフィもついて着なさい!」
「「は~い♪」」と弟子たちの元気な声が河原に響いた。
そうしてカティア、フィフィはサイリアの後に訓練を続けていった。
※※※
あれから――日が落ちる。
ジョーとサイリアはそれぞれの弟子たちの訓練を終え夕飯をとり、寝る支度を整えてから最後に恒例となり始めている夜の学習時間を行っていた。
「いいか、魔物や魔獣の中には死を偽装する『欺死』を使うモノ達がいる。いい例が山毛猿人のような魔物だ。欺死は知能の高い魔物が使う事が多い。逃げる為、騙し打ちの為だ。その為、トドメを刺したと思っても急に反撃に出る可能性もある。過去の冒険者の死亡例を見ても以外に多いのが騙し打ちだ、『最後まで気を抜くな!』という普遍的な格言も冒険者にあるが、気の緩みとは終わった後起こるものだ。だから、お互いに声を掛けあって以上が知らせるんだ。そういう魔物は多少の変化があるかなら、危険だと判断したら迂闊に近寄らないんだぞ」
ジョーはいつものように小さい黒板に要点を記述していく。
弟子たちはそれをマジマジと見て頭に叩き込み、返事をしていた。
――カティアが質問し。
――ジョーが答える。
――フィフィが質問し。
――サイリアが答える。
――メリーダが質問し。
――ジョーとサイリアが違う意見をいって喧嘩になる。
そんな事を繰り返していた。
「よし、ここまで!」
ジョーがそう告げる。
「え~、まだ聞きたい事があったのに!」
カティアは悲しそうな声をあげた。
「ダメだ、もう寝る時間だ」
「でも、学校の授業より面白いです」
フィフィはそう言う。
そう言われて、ジョーは多少、有頂天になる。教師などやった事がないのだが、それよりも高評価でなぜか身体がこそばゆい感じを覚えた。
「まぁな、でも、あっちも教える基本があるからつまらなく感じるだけで、実際はいい事をいっているんだぞ」と、見も知らない教師のフォローも忘れない。
――ジョーは黒板の文字を布で消した。
そうしている内に教えも終わり、カティアは茣蓙に寝転がった。それもうつ伏せに。
「さぁ、ジョー師匠。準備が出来ているので始めて下さい!!」
カティアは元気よく顔を向け、そう告げた。
「カティア、何をやっているんだ?」
「何って? 整体の準備です。さぁ、師匠、お願いします!」
ジョーは呆気に取られ、そして、歩み寄って、いきなりカティアの背中を強く押した。
「このこの、普通は師匠の肩を先も揉むもんなんだよ。オラオラッ!」
ジョーはグリグリとツボを刺激していく。
声をあげながら乱暴をしていた(※背中だけ)
「嗚呼あッッ! 師匠、乱暴はらめぇ~~~~♪」
と、あられもない声を出していくカティア。
顔を赤らめている。
「まったく、このこのッ!」
ジョーは背中を弄るように押していく。
どうやらカティアはこの整体が気に入ったようだ。
「あれぇぇぇぇ~~~~~~~~~♪」と洞窟内に声が響いていく。
***
「じゃあ、ジョー師匠、サイリア師匠、お休みなさい!」
「おやすみなさい!」
カティアとフィフィから元気な声が聞こえ、寝床に入っていった。
――ジョー達は返事を返す。
あれから弟子たちのマッサージを終え、すべて完了したジョーは自分も整理体操に入っていた。
そんな中で、「ジョー師匠、サイリア師匠。お手伝いします」とメリーダが声をかける。
メリーダの手伝いの元、サイリアは背中を押され、気持ち良さそうに身体をほぐされていた。
ジョーは関節を回しながら静かにその様子を確認していく。
女性2人が楽しそうにお喋りをしながら屈伸の手伝いをしている現場を。
メリーダの胸がサイリアの背中にあたり前に押し出していた。
つまり――胸が見事にはみ出ている。
ジョーはチラリと一瞬だけ凝視する。
(なんてことだ、うらやましい……)
そんな思いが芽生えると――頭の中に悪魔の声が響く。
「ゴホン、ゴホン。メ、メリーダ。サイリアが終わったら俺の方も手伝ってくれないか?」
と、平静を装いながら告げる。三文芝居も甚だしいが、顔を背けていた為にメリーダは気づいていない。
「えぇ、いいですよ」
すぐに返事が返ってきた。
「あぁ、ありがとう」
そう言いながら、ジョーはそのまま身体をひねると静かに待っていた。
「では、サイリア師匠、ここまでで……」
そう言ってメリーダは立ち上がる。
ジョーはその言葉を聞いた辺りから心臓が高鳴っていた。
歩み寄るメリーダの足音が聞こえる――そして――。
「ジョー師匠、何を手伝えばいいでしょうか?」
何も知らないメリーダが罠にかかる。
「あぁ、屈伸するから背中を押してもらえるか?」
とジョーはメリーダの質問にさりげなく答える。
そのままジョーは前屈姿勢のまま背中を向け、脚を開いた。
「じゃあ、お願いする」
そうしてメリーダは背中を押し始める。
始めは両手でゆっくりと――徐々に力を強くしていく。
「メリーダ。もっと強く押してくれ……」
「は、はい」
ジョーの要求にメリーダは答える。
そして、ゆっくり身体全体を使って押し出した。
ジョーの身体は傾かない。――そのまま抵抗しているようだ。
45度で止まっている。
メリーダは唸り声をあげて懸命に押した。そう――胸をくっつけて。
(キタぁぁぁぁぁぁぁ!!)と、ジョーは心の中で歓喜する。
しかし、顔は真剣そのものである。
懸命に背中に意識を集中している。魔力操作はしていないが、それ以上の集中をしていた。
「ジョー師匠、これでもダメですか?」
「いいや、まだだ。もっと強く!」
ジョーはそう要求する。
この幸運を出来るだけ長く味わいたかった。
しかし――「メリーダ、もう寝た方がいいわよ、遅くなったから」と、サイリアが笑顔で制止した。
(チッ、なんだよ、サイリアの奴)と心の中で文句が出る。
「後はやっとくからもう寝なさい」
「ですが……」
「いいの、いいの、早く寝た方がいいのよ。明日も早いし」といって、急いでジョーからメリーダを引き剥がした。優しくではあるが――。
「で、ではお休みなさい」とメリーダは急かされるように寝床に入った。
その出来事を全て確認してサイリアは振り向いた。
「さッ、ジョー、どう言う事?」と笑顔のままだ。
「ん? なにが? いや~身体が楽になったよ」
ジョーは当然のようにトボける。
「何がじゃないでしょ。なに、あの屈伸。あんたもっと身体が柔かいでしょ」とサイリアは素早く“魔術手”を発動してジョーの背中を押しつける。
グニャリと曲がり、地面にへばり付いた。
「おいおいおいおい、痛いぞ、やめてくれ」
「ほら、こんなにも曲がるじゃない」
「夜中だから静かにしよう……な」
「なによ、あの茶番は」
「いや、曲げる準備だよ。負荷が必要なの」
「いつだって独りでやってたでしょ。ジョーのアホ」
「ほら、怒るなって、カティアもフィフィも起きちまうぞ、早くどけてくれよ」
「どけない、朝までそうしてれば」
そんなやるとりが続いて――壁に立て掛けてある魔剣は【なんだ、痴話喧嘩か】と呟いた。




