サイリアの魔術訓練
「では、いいかしら。これからカティアには次の段階の魔術訓練をしてもらいます」
サイリアは元いた河原から場所を移動し滝よりの崖沿いに来ていた、カティアとフィフィを前に彼女は少し緊張した面持ちで言葉を伝えた。
しっかりと、装備を整えているサイリアを始め。カティアもフィフィもお気に入りの武器を持っている。
「「は~い、サイリア師匠!」」と気持ちのいい返事が2人から返ってくる。
これから始まる新しい訓練を前に気力は充実しているようだ。
特にカティアは目をギラギラとさせている。
しかし対照的にオドオドとしている感じの者がいた。――サイリアだ。
サイリアにとって2人に教えるのは初めての訓練ではないが、人前で教える時に始めは必ず緊張する性格であった。
1つ言葉を語り終え、サイリアの緊張が解れてきた。
「じゃあ、ちょっと準備するから待っていてね……」
彼女はそう言って腰鞄から石筆を取り出して、崖の開いている場所に、どでかい☓(ばつ)印をつけた、それも10メートル程の間隔で3カ所。
そして、カティア達の所に戻り――
「いい、これから壁沿いを走って“魔術の矢”であの的を射ぬいていきます。やる事は的当て一緒。でもそれに走る事が加わる訓練です」と、優しく教えた。
「それなら、簡単な訓練ですね!」と、カティアは強気の姿勢で言い放った。
「カティアちゃん、結構難しそうだよ……」と、フィフィは対照的に少し弱気だった。
(う~ん、カティアは強気過ぎで、フィフィは弱気過ぎなのかしら……)と思いながら、「じゃあ、一度手本を見せますから2人は見ていてね」
カティアはそう言って、印の付いている崖から水平に10メートル離れた場所まで歩いていく。そして、杖を持ち直し、そのまま駆け足を始めた。
「……魔術の矢」と杖を突き出し、詠唱の短縮を行う。
サイリアにとって慣れ親しんだ魔術。その為に――魔韻の省略など朝飯前で、素早い魔力操作を行える。
すぐに杖の先に魔術陣が出来上がると、周囲に魔力が集まり形を成していった。
そして、3弾出来あがると、そのまま狙いを定め――放つ。
魔弾はサイリアから左前方にある壁の☓印に上手く命中した。
速度を落とさず、すぐにサイリアは再詠唱を始める。
「……魔術の矢」
そう唱えると同じ様に魔弾が形成され、2つ目のバツ印に3つの魔弾が放たれ、そして曲線を描きながら的に当たっていく。
――そのまま駆け足を止めずにサイリアは同じ様に3つ目の☓印を射ぬいた。
結果、3回3弾ずつ、合計9発撃って駆け抜ける。
「はぁ、はぁ……」と軽く息が乱れ、サイリアは弟子たちの所に戻ってきた。
「見ていたかしら……こう言う風にやるのよ」とニッコリ笑いサイリアはカティアとフィフィを見比べる。
「わかりました。簡単に出来てみせます」と素早く返事をするカティア。
「え~~と、こうだったかな?」と、フィフィはイメージを固めていく。
「じゃあ、カティアからやりましょうか? 私が始めに居た場所に移動してやってみて」
サイリアはそう命じると、「えぇ、任せて下さい。全弾当ててみせます」と力強く言って、そのまま河原を駆けだした。
カティアは準備を終える。――愛剣のレイピアを手に持ち。すでに成功したように、事を終えた顔をしている。
「じゃあ、始めてぇぇ!」とサイリアは大声で始まりを伝える。
カティアはその声が聞こえると駆けだした。
走りにくい河原の小石道などものともせずに――、そして、すぐに剣を構え「…射ぬけ、魔術の矢」といつものように魔韻を唱える。
剣先に魔術陣が出来上がる辺りでカティアは――己の過ちに気が付いた。☓印に向かって、垂直方向にあるのに魔弾の準備が出来ていなかった。そのままでは不味いと思い速度を下げる。そして――魔弾1発が出来上がると殆ど止まるように――歩きながら発射した。
印より大きく外れる魔弾。「あぁッ」と声を上げるが次を撃たないといけない。
また、走り出すと次の間隔から半分ほど行ってしまっていた。
(これじゃあ、撃てない……)と思い、カティアはまた歩き出す。サイリアの様に駆けだす事も出来ない自分に焦りが出てくる。
「…射ぬけ、魔術の矢」と唱えるが――魔弾の魔力形成が上手くいっていないと自分でもわかっていた。
焦るカティアは、そのまま魔弾を撃ってしまう。
印から外れた上に少し岩壁にヒビが入った程度で消滅してしまった。
3つ目の印はゆっくりと歩いて、殆ど止まるように魔弾を撃った。
最後は印に当てるが――カティアも失敗と分かっているのか、訓練を終えトボトボとサイリアの元に戻ってきた。
「カティア、何が出来無かったか、わかってる?」
サイリアは、すぐに尋ねた。
「はい……止まっちゃいました。最後なんて只の的当てになっちゃった……」と、カティアは落ち込んでいる。
散々な結果による。とても普通な行動とも言えた。
「そうね、でも一番いけないのは2回目の発射の時に雑に魔弾を創った事よ。前から何度も、何度も言ったけど魔弾の魔力形成はしっかりとしなさい」
サイリアは窘めるようにカティアに伝えた。
「はい、サイリア師匠……」と――バツの悪そうにカティアは答えた。
「カティアもフィフィも言っときますけど、止まるのは禁止よ。歩きながらでも当てなさい。まずはそこから始めましょうね。そしてもう1つ、1弾1弾、集中するのよ、魔力量の移行をしっかりと行い、魔力密度あげるの、移動しても的に当てるまで操作性を失わないでね。歩く動作でも走る時でも基本は忘れない事。何度もやれば出来るから。これは反復練習よ」
サイリアはそう笑顔で伝える。
しかし、魔術を行使しながら他の行動を行うのはそれなりに難しい。今までは1つの場所に立って的当てで練習してきたカティアとフィフィであったが、他の動作を加え、さらに10メートル以内に――
魔弾の《魔韻に詠唱》→《魔力量の移行》→《魔力形成と密度》→《発射と操作》
――と、簡単に分けて4工程をこなしつつ、その間の集中力も維持しなければならない。
その工程をこなしつつ、約3秒以内に発射をしないと☓(ばつ)印が通り過ぎてしまう。
その他に肉体を使って走る事も連続して行わないとこの訓練は成立しない。
簡単に見えてかなり難しい訓練に変わっていた。
その事はカティアも実戦してわかり、フィフィは様子を見ていたので難しいと感じている。
「ほら、どうしたの? 次はフィフィがやってみましょうね。的は1つ目と3つ目の2つでやってみましょう。歩きながらゆっくりとやってみれば感触が掴めてくるはずよ」と、ニコヤカに言うが、内心、サイリアも焦っていた。
(あぁ~、どうしよう、落ち込んじゃっている……)と内心、弟子以上に不安に陥っている。
訓練内容は流鏑馬の駆け足バージョンでしょうか?
けっこう難しい事です。
それに連続発射とは集中力を要するものんだと思います。




