教え方は単純に
「つまりだ、金剛も剛力も意識して使う事が重要なんだ。それが俺とカティアの岩割りの結果に現れている」
ジョーはそう断言するように告げた。
「エッ、それはどう言う事ですか、師匠?」
カティアは突然の指名に驚きつつジョーを見た。
「言ったままの意味だよ。カティアが岩を割れなかったのは肉体強化魔術を使っていなかった事だ」
「でも……魔力を集めたし……。それでも割れなかった……」
あの時の結果を思い出し、カティアはそう伝える。
「うん……。だが魔力を“集めた”だけだ。その集めた魔力を“使って”いない。ただ集めただけだ。正確には魔力の8割程も使われていなかった。使ったのは2割程だ」
1つ頷くと、ジョーはそう断言する。
そして――続けていく。
「いいか。カティアに限らす、フィフィもメリーダも強化魔術を使いこなせていないぞ。肉体強化魔術は訓練次第で伸びるが皆はそこまで極めて無いという事だ。
例として、膨大な魔力を持った者が拳に魔力を集めたとしよう。それはただ魔力を集めただけだ、全部使っていない。それを繰り出しても大した威力にはならないだろうな……。それだったら魔弾にして放った方が有効になる。
攻撃力とは単純に言えば『重さ』×(かける)『速度』だ。
重い武器を高速でぶつければ高威力になる。軽い武器を同じ速さで使っても重い武器より威力は弱い。こんな単純な話だ。
さらにいえば威力を上げるという事は、体重移動で重さを乗っける。剣先の速度を上げる事で威力が増す事になる。つまり、攻撃というのは身体全体を使って行う事なんだ。
筋肉の操作と身体の働きによって操作する事が重要になる。
剣を上手く振る。拳を上手く突き出す。これはつまり、脚からの力を腰で回転し、力を伝導しその力を使い肩と腕の連動によって速度を出している。それを可能にするのも基本で上手な型が必要になる。
その上で筋肉を使う。そう、肉体強化魔術の出番だ。腕、脚、腰その全ての筋肉を強化していくと――
『重さ』×(かける)『速度』×(かける)『魔力強化』という3つの要素が重なって更なる攻撃力が生まれる。
これが肉体強化魔術を使うって事になる」
「じゃあ、それが出来れば、すぐに威力は上がるの?」
カティアは前のめりでジョーに尋ねた。
「まぁ、そう言う事だが、少し事情が違う。ここからは更に難しい問題だが、威力を上げる攻撃に何故『金剛』と『剛力』が必要になってくるかという話しをする。
『剛力』は単純に言って、力のみをあげる、つまり筋力を強くする方法だ。魔力によって流れと筋を強靭に創り、筋力を強化させている。これは自然と無意識に行われているらしい。しかしながら、ソレは使うと意識することでさらに強く働きかける事が可能だ。
そして、『金剛』だ、これは魔力を圧縮して肉体を硬くする事でもっと詳しく言うと、皮膚表面だけでなく、関節、骨を硬く強靭にするという強化魔術だ。関節っていうのは柔らかく衝撃を吸収するように出来ている。まぁ、このおかげで肉体は傷つかなくて済むのだが……、この話は今度だな。関節を固めると威力が殺されなくなり、そのまま力が伝わるんだ。
――だが、ここで注意点として、骨まで強化しないと肉体の威力と攻撃後の反動で折れてしまうから気をつけろよ。――
そして、皮膚も筋肉も骨も硬く強靭にする事、全て出来て『金剛体』と南部では言う。
それが全て交互に出来て肉体強化魔術を極めた事になる。さらに高度な『軟翔体』という技法もあるが今はいいだろう……。
つまり俺が言いたいのは、金剛と剛力を同時に操り、さらに魔力操作によって武器に魔力を流し込み、綺麗な型で剣を振らないと予想した通りの攻撃力は得られないという訳だ」
ジョーはそこまで言って大体の説明を終えた。
長々しい説明であったが、身体を使う事、魔力を変換し有効に筋力を上げる方法を語る。
そうしないと上手く使えない上に、威力の高い攻撃の反動で身体が壊れてしまう事も指摘して、肉体強化魔術とは筋肉を強くするだけではない事も説いている。
しかし――そんな説明に対し話しを聞いていた弟子たちは――。
「師匠、分かんなくなっちゃった~」
「難しいんですねぇ~使えるかなぁ~」
「やるだけやってみましょう……」
と――ジョーの説明を聞いて意気消沈してしまう弟子たち。
明らかに表情に曇りが見える。
(あぁ、しまった……)
ジョーは思いだす。『誰でもできる、最強の弟子育成法』に書かれていた著書の中で『弟子に難しい言葉を並べてはいけない、余計に難しくなるから。そのような時は単純に出来るように励ました方が無難である』と書かれていた。
「ゴホン、ゴホン。……まぁ、簡単に言えば、拳を金剛で固めて、剛力の筋力で撃ち抜けば岩は割れる。つまりは難しい事でも簡単なんだよ。やってみれば出来る。いいか?」
ジョーはにこやかに問いかけた。
しかし――弟子たちの反応はイマイチであった。
「つまりね、ジョーが言いたかったのは“意識”と“集中”なのよ。散漫な心で剣を振るってもいい結果にはならないの。魔弾だってシッカリと魔力を集めて、集中して操作しているでしょ。やっている事は変わりないのよ。分かったかしら?」
サイリアは優しく問いかける。
「は~~い♪ 分かりました、サイリア師匠」と、カティアとフィフィは返事をした。
(なんか、長々説明した俺がバカだよな……)
呆気に取られる弟子たちの軽い返事。
――ジョーは人を育てる難しさをしる今日この頃。
「うん、そう言う事、なんどもやってみるとその内できるから、訓練だぞ」と優しく言葉を添えた。
***
「じゃあ、師匠。この燃えた木炭でも持てれば金剛が出来たと言っていいのね?」
カティアは確認するようにジョーに尋ねる。
「お嬢さま、それは危ないですのでおやめ下さい!」
メリーダは眼を見開き驚いてカティアを制止した。
「え~、止めないでよ。私も金剛できるようになりたいもん」
「ダメです。お嬢様、失敗したら先ほどのように手の皮が剥けてしまいますよ」
「いいのよ。もうメリーダの心配性が出た!」
カティアはメリーダから顔を背ける。
「まぁ待て、カティア。訓練も何もしないと出来る訳がない。メリーダさんの言う通り怪我をするだけだ」
ジョーは優しい言葉を並べて戒める。
「でも~、早く出来るようになりたいからぁ~」
「カティア、ダメよ。無茶をする事と無理をする事は違います。それよりも次の訓練を開始しましょう」とサイリアも我儘をいうカティアを諫めた。
「う~~~」と可愛く唸るカティアはフィフィにも慰められている。
親友のフィフィに慰められ、何とか憤りを抑える。
(まったく、カティアの勝ち気は弱点でもあるな……)とジョーはその様子を分析していた
「まぁ、そう言う事だ。俺とメリーダで剣術の訓練をするから、サイリアはカティアとフィフィに魔術訓練を教えてやれよ」
――ジョーの言葉で次の訓練が始まろうとしていた。
人にモノを教えるとは自分の中で理解していても言葉にすると難しいモノです。
それだったら単純に教えた方がいいかもしれません。
まぁ逆のパターンもありますから、色々と問題です。




