肉体強化魔術使用法
「師匠、出来無かった……」
カティアは寂しそうに崖登りの結果を報告した。
あれから何度も崖登りに挑戦し続けたカティアは身体に傷を負いながらも果敢に挑むが――結果として半分以上進む事は出来ない。どうしても90度を超える突き出し部分を越える事が出来なかった。
「そりゃぁ、初日に出来る奴は滅多にいないだろうな。まぁ、気にするな、この訓練期間中に出来るようになればいいぞ。『やれば出来る、いつかは出来る!』」
ジョーはここで、『誰でもできる、最強の弟子育成法』に書かれた内容の修行に失敗した弟子に対する言葉50選の内の1つを言った。
前向きにやらせる事で弟子の気力を削がない――と、注釈された言葉も忘れていない。
ジョーはフィフィやメリーダにも同じ様に言葉をかけていく。
そうして、傷ついた身体をサイリアが魔術で治療していき、昼までの訓練を終えた。
そんなこんなで――昼食をとっていく。
***
ジョー達は食後の一服としてお茶を飲んで身体を休めていた。サイリアとメリーダは川に使った食器と道具類を洗いに席を外している。
つまり暇なジョーとカティアとフィフィで焚火を囲っているのだった。
「カティア、フィフィ、言っておくが昼食などは本来、河原でとっては駄目だ。休憩も禁止する」
「師匠、どうしてですか?」カティアは質問をした。
「川ってのは、上流で雨が降るとすぐに増水するんだ、山の天気も変わりやすい。その為、中洲や河原などで休むと流される可能性がある。だから俺達の寝泊まりする洞窟は少し高い所に出来ているんだ。こういう細かい事を覚えているといいぞ」
と、ジョーは雑学を披露しながら弟子たちに冒険者の行動を教え込んでいた。
弟子達も返事をしていく。
――ジョーは出来るだけ戦闘以外の知識も身に着けさせようと奮闘していた。
冒険者にとって戦闘能力は必須だが、それ以外にも必要な事は山ほどある。サバイバル術、治療術、目利き、戦闘前判断、偵察術、逃走術。等々多数だ。しかし、その全てを教え込んでもスグに吸収出来るかと問われればそうではない。それは一部の天才であるとジョーは考えている。
カティア達は成長期であり、出来る範囲も出来ない事も限られているのだ。
よって、実戦形式で教え込む判断をした。それはその都度ある乗り越えるべき壁を、その時にあった助言で教えていく方が効率的だと感じたからだ。
「細かい事の積み重ねも大事だからな。事前の準備はしっかりと行うようにしとくんだぞ。同じ事を毎日繰り返すと自然と身に着くから意識しろよ」
「は~い♪」
「いい返事だ。何か他に聞きたい事でもあるのか?」
「ねぇ、ジョー師匠……、どうしたら上手く崖を登れるんですか?」
カティアは悔しいのかジョーに質問をした。
「なんだ、答えを知りたくなったのか?」
(カティアのいい所は素直に出来ない事を聞く所かな?)
カティアの様子を見ながらジョーは考える。彼女は分からない事はスグに聞こうとする姿勢があり、なにより勝ち気だ。
男まさりと言われればそうだが成長に貪欲と言える。
――カティアは2度頷く。
「そうか……。じゃあ答えを言おう。カティアもフィフィも『肉体強化魔術』使い方が足りていない」
「エッ、でも、師匠は、肉体強化魔術はおまけだって、魔術操作だけで登るって言ってた!」
固い表情でカティアは強い口調で反論する。
ジッと見つめ。私は間違っていないという目線を送っている。
(まったく、やれやれだな……)
「俺の肉体強化魔術とカティアの肉体強化魔術は練度が違う。カティア達は魔力を効率的に使えて無い。俺が同じ魔力量で100使えているとすれば、カティア達はいい所5から10程度しか使えて無い感じだ」
ジョーはさらりと告げる。
「え~、そうなんですか……」
カティアは落ち込んだ。
「しょうがない……少し、コツを教えてやるか……。カティアもフィフィも良く聞いておけよ。肉体強化魔術は簡単に言えば力だけを底上げする魔術ではない。肉体を操作する魔術に近い。普段使っている肉体だが、突き詰めればその能力の3割程度しか使って無いと言われている。そこに魔力で肉体を活性化させ能力を解放させる。これが『魔力活性』と呼ばれる一時的な能力の底上げの正体だな。しかし、まだこれは入口の段階だ、その後がある……」
「「その後?」」カティアとフィフィは同時に声を出した。
「あぁ、肉体強化魔術も幅広く応用力のある魔術だよ、その前に……サイリア達が戻って来たから、修行を始める前に全員に説明しておこう」
ジョーはそう言って調理器具を運んできたサイリアとメリーダに目線を送った。
***
「じゃあ、いいか? 肉体強化魔術の分類として『金剛』と『剛力』について説明する――」
ジョーはみんなを見渡して静かに告げた。
「師匠、“こんごう”と“ごうりき”は南部の言葉?」
「あぁ、そうだ。俺の国ではそう言っている。こっちだと……“グイト”と“スレン”とも言うが……。済まないが使いなれた言葉で言わせてもらうぞ?」
ジョーがそう言うとカティアは頷いた。
「まずは『金剛』からだ。簡単に言えば肉体を硬く強靭にする技術でもある。そして――」
ジョーはそのまま目の前で燃えている焚火の中で木炭になったモノをそのまま鷲掴みにして引きだした。赤く煌々(こうこう)とした燃え盛る木炭はそれなりの温度を示している。
通常であれば、そのまま火傷することは間違いない。
――その行動にカティア、フィフィ、メリーダは同時に驚く。
「し、師匠、熱く無いの!?」
思わずカティアは大声を出した。
「大丈夫だ。これは俺が“金剛”を使っているからだ。この程度の温度だったら問題無い――」
ジョーはそう言って木炭を元の場所に戻した。
そして、掌を見せるがどこも火傷はしていない。
それをカティア達は確認していく。
「いいか、『金剛』とは高密度の魔力を鎧のように纏う技術だ。所謂、『魔力圧縮』と呼ばれる技法だな。それを掌と腕全体に纏う事で熱を遮断し肉体を強くしたんだ。それじゃあ次は――『剛力』だな。」
ジョーは近くにある河原の石を掴んだ。
そして、ソレを目の前に差し出し――力を加えていく。
「見ていろ……。ゆっくりやるから……」
ジョーはそう言って石を握っていく。腕は青筋を立て、筋肉が肥大しているのが分かる。すると――[パキッ!]と乾いた音がしたと思ったら[ゴリゴリ]と音がして、掌から砂が零れていく、そして、開くと小さい石になっていた。
ジョーはその石を捨てる。
そして―――辺りから握手が起こった。
「すごい、すごい、師匠そんな事も出来たんだ」と、称賛の声がカティアから聞こえ。
「わぁ~、手品みたい」と、フィフィは感想を言う。
「凄いですね」と、メリーダは頷きながら褒めていた。
(おぁ~、なんか予想外に良い反応だ)と思い、顔をキリッとさせて「フッ、こんな事、たいしたことではないよ……」とジョーは格好をつける。
すると――「ジョー、次を説明しなさい」とサイリアが呆れた顔をしながら、ジョーを叱った。
前回から『技術』ついての考察話です。
どの程度強く、そして話の見えない部分で魔力を使っているかという地味な話ですね。
簡単に威力を上げる話ではなく、体の使い方。魔力の使い方という話です。見えない所を説明する話と思ってください。
例として膨大な魔力を込めた剣を振うと書いても。
それがなんで威力があるのか――とか。
重い剣をなんで振れるの――とか。
体の強さどうなってんの――とか。
筋肉ブチ切れて戦闘不能だろう――とか。
作用反作用、物理法則を加味して、どう動いたらいいんだろう――とか、作者の独自の考察と魔力でその部分をどう補う方がいいのだろうという基礎的な話になります。
それが地味修行編でもあり、弟子と師匠の成長の話でもあります。




