夜の見張りの時間は長い
「ジョー、わたしも寝るね……」
サイリアは自分なりのマッサージを終えるとジョーに伝えた。
「あぁ……」
ジョーは焚火の近くにある段差のある岩に座って持ってきた本を読んでいる。
「時間になったら起こしてね」
「わかっているから、静かに寝ろよ、おやすみ」
ジョーはそう言うと――
「うん、お休み……」といってサイリアはメリーダがいるテントの中に入っていった。
ジョーはこのまま砂時計の砂が落ちるまで外から襲撃に備えて見張りを行うのだ。
時間にして6時間ほどの長丁場だが、冒険者を続けているジョー達にとって日常茶飯事の出来事と言える。
冒険者は場合によって野営もする事が多い。それに対し魔物は夜に活動する種類がある。
その関係もあっての警戒は必然なのだが冒険者は夜になれば眠くなり、当然寝る時間をつくらないと次の日の仕事にさし障る。なので、野営中は交代で見張りに立つのだ。
今回の場合、ジョーとサイリアが交代で野営に立つ事になっている。メリーダ、フィフィ、カティアは経験も少なく、それに訓練で体力も無い。
だからジョーは独りで野営の見張りを行うのだった。
ついでに言えば、今回の野営は洞窟内部で周囲の入り口が1つと守り易い配置である為に極めて簡単な見張りだった。
そして――今回の見張りはジョーのみでは無い。
【今日は随分と張り切っていたじゃないか?】
ジョーの隣に立て掛けてある蛇腹刀が喋り出した。
「なんだよ、スネーク、張りきって無いって」
【偉そうに教えていたくせにか?】
「別に、偉そうにしてないから」
ジョーは読んでいた本を閉じてスネークに目線を送った。
【教えるとは偉くなくては出来ん、それに自然と教える側は傲慢になるもんだ】
「それも。誰かの受け売りか?」
【いや、経験からだ。長くこの姿でいるからな】
「…………」
ジョーはスネークの言葉に何も言えなくなった。
【物事を教える、技術を教えるとはそれなりに気を使うだろうが……。サイリアの時にようには教えるなよ】
蛇腹刀の柄にある眼がジョーを射ぬく。
「なんだよ、突然」
【いや、な、年端もいかぬ子が泣きわめく姿は見ていて気持ちのいいものではないからな……】
「やめろよ、オレが虐待しているみたいじゃないか」
【虐待とは心の無いヤツがヤル事だ。気持ちが入ってしまってヤル事を、なんて言ったかな……『モラハラ』というんだったかな】
「“もらはら”? 何だよ、それ? 受け売りの言葉か?」
【そうだ、昔に教えてもらった。意味は“常識の無いヤツ”らしい】
「俺に常識が無いって言うのか?」
【別にそうとは言って無い。だが、常識、常識とか言う奴ほど常識がないそうだ。それに気がついていないのが『モラハラ』の悲しい特徴でもある。まぁ、ジョーはどう思っているか分からないが、常に常識なんぞを装備している奴など、極少数だと覚えておけ】
「わかったよ、スネークが言いたいのは、余りやり過ぎるなという、常識か?」
【まぁ、そうだな、サイリアの時のように“非”常識な事はやるなよ】
「………」
(刀に常識を説かれる俺って……)ジョーは何故か寂しい気持ちになり、そのまま本を読みふける。
***
ジョーは焚火に燃料である薪をくべる。
随分と時間が経過している事がジョーの脇に用意してある薪の山から判断出来た。
パチパチと燃えだす火は、淡く洞窟内を照らし始めた。
そのまま静寂の洞窟に1つの変化が起こったのだ。
カティア達が寝ているテントからゴソゴソと物音がすると、カティアが独り目を細めテントから出てきた。
「し、しようぅ~?」
「カティア、起きたのか?」
「うん」
「便所か?」
「うん」
そのままフラフラとした足取りで洞窟の外に設置してある、布張りの簡易トイレに向かって歩こうとしていた。
「外は暗いぞ、ランプを持ってけ……」
ジョーは岩壁に掛けていたランプの中のろうそくに焚火の火を灯し、それをカティアに渡した。
「あいがとう、ししょう」
カティアはソレを寝ぼけ眼で受け取ると、そのまま洞窟外に出ていった。
そして――直ぐにカティアは戻ってきた。
「ししょう、暗くて怖いから……いっしょに来て」
「おバカ、大丈夫だよ。魔物は近くにいないから」
【気配も無いから安心しろ】
ジョーとスネークの言葉にカティアは「チェッ……」といって再び、外に出た。
しばらく、――ジョーは火の光で本を読むのを止め、火の近くに置いてあった金属製の鉄瓶を手に取ると湯気がたっていた。そのまま脇に用意してあった木製の容器に入れて、一緒に置いてある小さい籠から白い瓶から茶葉を適当に入れ、それを混ぜて飲んでいた。
ジョーが静かにしていると――外から悲鳴にも似た声が聞こえる「きゃあぁぁ―――……」とカティアらしき声が響いた。
(なんだ……)
ジョーはスクっと立ちあがり、そのまま蛇腹刀を手に持って急いで外に出ようとする。
(俺の気がつかない内に魔物が接近していたのか?)
ジョーは焦る。
これは自分のミスだと。
高位ランクの魔物ほど気配を消せる。それに慎重に狡猾に近寄り一瞬の内に獲物を食べる事を。
【カティアの声だったな】
「あぁ……」
ジョーは慌てて外に飛び出した。
「大丈夫かぁぁぁぁ――――! あっ……ぁぁ!?」
初めに威勢のいい声が響き、状況を見て、すぐに間抜けな声を出す。
カティアは居た。ただ、空を見上げていたのだ。
満天の星空を見て感激しているのだった。
「アッ、師匠。見て下さい。星が綺麗。すっごくいっぱいにある。ほら、あそこなんて、さっき光って落ちたんですよ。ほら、ほら!」
指で夜空を指さし、ランプを揺らし、カティアは飛び跳ねている。
ジョーは溜息をもらし、静かに蛇腹刀を背負うとカティアに近寄った。
そして、カティアが指さしている方向には星が宝石のように散りばめられ。すぐ近くにあるように思えた。
ある種の芸術作品のような『夜空』を眺め――
それに追奏するかのように周囲から虫の音が響き、華麗にその光景に音付けしていた。
「カティア、綺麗なのは分かったが、夜中だからな……。用事がすんだら早く帰ってこい」
「でも、でも綺麗ですよ。町ではこんなに綺麗に見えないのに……」
「それは町の灯りもないからなだよ、山の麓だから町よりも静かで雰囲気が違うんだ……。よし、終わり、戻るぞ」
「アッ、待って下さい。手を洗わないと……」
カティアは馬小屋近くにある樽に駆けだしていった。
ジョーはそのままカティアを待っていた。
***
ジョーは洞窟内部に戻っている。
なぜか、カティアが傍に座っていた。
「カティア……。もう、寝ろよ」
「いいえ、目が覚めました」
「じゃあ、頑張って寝ろ。明日、寝不足になるぞ」
「ですが、師匠は起きています」
「俺は見張りだっていったろ? それにカティア達は警戒行動が不慣れだから任せる訳には行かないの」
「えー、すこし、喋って下さいよ」
カティアは夜空の星に目を輝かせ一時的に興奮状態に陥っていた。
ジョーはその言葉に溜息で反応すると立ち上がる。
「まったく、大声出すなよ」と言いながら。棚に置いてある新しい容器を取り出し、鉄瓶にあるお湯を入れて差し出した。
「えへへ、やった♪」
と、言いながらカティアはその容器を受け取る。
「ソレ飲んだら、寝ろよ」
「でも、白湯だけですよ」
「身体が温まればいいんだよ」
「師匠はお茶飲んでいるじゃないですか?」
「眠気覚まし用のお茶だよ。お子様には早い」
「師匠、子供扱いしないで下さい。もう13才ですよ」
「俺の国では15才からが大人なんだよ。それまで子供扱いでいいんだ」
「それって、不公平、不公平です」
「いいから、だまって湯を飲んで静かにしてなさい」
「えー。お話しましょうよ。そうだ、師匠の故郷の話しを聞かせて下さい」
突然にカティアは尋ねてきた。




