寝る前に……2
「――それじゃあ、次にいくぞ、いいか? 冒険者とは町に住む人々となんら変わらない。当然、町中では色々な制限を設けている。魔術の使用の禁止。戦闘の禁止などだ。つまり、喧嘩や争い事に他人を巻き込む可能性のある行為は禁止となる。“常識”という事だな。その常識は皆も知ってのとおりだ。悪い事したら警備兵に捕まり、他人の物を壊したら弁償だ。そして冒険者として町で生活する上で必要なのは、修行音といわれる魔術の使用時の音での問題などの配慮が課題となる、なので、俺達はこのように遠出して人気の無い所で訓練を行う……―――」
ジョーは講義を止め、カティアとフィフィを見た。
2人共眠そうにしている。コックリ、コックリと頭を動かしていた。
(こりゃぁ、これ以上は無理だな……)
ジョーはソコで石筆を置いて、黒板の文字と絵を布で消す。
「よし、ここまでだ」
ジョーがそう言うとカティアとフィフィは起きた。
「え、えっ、もう?」
「うにゃぁ~」
眠気でボーとした時間を過ごしている。眠気で思考も追いついていない様子でジョーを見ていた。
「だって、眠いだろ? それにもう遅いし、明日も早いから」
ジョーはそう言って気を使った。
「そうね、カティアとフィフィも歯は磨いたでしょ? 早く寝た方がいいわ」
サイリアも同意する。
「お嬢さま、フィフィちゃん、寝床は作ってありますから早く寝て下さい」とメリーダもそう言って2人に寝るように進める。
「うん、それじゃあ、寝ます……」
「は~い」と2人は今も寝る寸前まできていた。
「あぁっと! その前にヤル事があった!!」
ジョーは何かを思い出したように洞窟内に響き渡る大声を上げる。
フィフィもカティアもその声に目を開いた。
「なに、突然、どうしたの ジョー?」
サイリアは心配そうにジョーに尋ねる。
ジョーは忘れていた。今日の内にやらないと明日にはカティア達は地獄をみることになる。師匠として、それだけでは避けないといけない事だった――。
「いや、現在の内に整体をしないと、明日、辛いぞ」
そう、真剣にジョーは伝える。
***
「し、師匠、あまり足の裏を持たないで下さい!」
カティアはそう、声を荒げた。眠気など、マッサージが始まればどこかに飛んでしまった。
それほど今の体勢はカティアにとって恥ずかしい。
うつ伏せに寝そべり、脚の裏をジョーにほぐされ、ツボを押され、グリグリと足首を回されている。
「こうしないと、明日が辛いんだ。特に走り慣れていない道は普段使わない筋肉を使う。一晩寝てしまえば、筋肉が張って固まるぞ(=筋肉痛)。それに、こっちも、だ……」
ジョーは足のマッサージを終えると、場所を移動して、今度は背中の肉を引っ張るように押さえる。
「ふにゃぁ~う~。し、師匠、それはセクハンです」
カティアも乙女なのでジョーの容赦ない背中のほぐしに声を上げ、気持ち良さそうな顔と、それに反発するように乙女の気持ちが全面対決してしまい、頬を紅くして抗議したのだ。
「たくッ、これがセクハンか、よっと!」
肩甲骨の筋肉周りのツボを押す。
「あ~~~、師匠、ソコぉぉ、ダメぇぇ~!」
色気は無いが気持ち良さそうな声をあげる。
「ほれ、ほれ、これじゃあ、明日は身体中、軋んでいくぞ。今のうちにほぐしておくのがいいんだ」
首回り、肩、肩甲骨の骨周り、腰周りを押してコリをほぐしていくジョーだった。
サイリアはフィフィの身体を施術して同じ様に声を上げさせていた。
「よし、次だな」
ジョーはそのまま臀部とフトモモの付け根のマッサージに取り掛かった。
「アッ、師匠、そこは、間違いなく、問題点です。法例違反、セクハン警報です!」
ジョーがその部分を揉みだすと、カティアは身体を起こし抗議する。
「アホッ、何がセクハンだ。町じゃないから問題ありません」
「あります、乙女のその部分(=シリ)は禁忌です。師匠と弟子でも問題です!」
顔を真っ赤にしてカティアはいうと、ジョーのそれもそうかという疑念にかられた。
「ジョー師匠。私が揉みますから……」と、メリーダはそっと近寄り、助け船を出した。
「そうか、まぁ、そうだよな……」
ジョーは揉むのを止め、離れていった。
(やばいなぁ~、カティアとの距離感の問題か……)
ジョーは改めて女弟子との距離感に悩む事になるのだった。
***
「師匠、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
カティアとフィフィはマッサージを終え、虫よけネットをまくり上げ寝床のある天幕の中に入っていった。
「あぁ、おやすみ」
「カティア、フィフィ、お休みなさい」
ジョーとサイリアは声をかける。
「では、私も先に寝る事にします」
片付けを終えたメリーダはジョー達に頭を下げた。
「いや、まて、メリーダさん。整体を終えてないだろう……」
ジョーはそういって、茣蓙を指さした。
「で、ですが……、恥ずかしくって……」
「恥ずかしがる事は無い、さぁ、早くうつ伏せになるんだ」
「ですが……」
「師匠命令だ。さあ」
ジョーはいつになく真剣であった。
その表情にはエロさは微塵も出ていない。気配すらなかった。
メリーダは迫力に押されて静かに茣蓙の場所にうつ伏せになった。
「メリーダ、これらかする事は全てやましい事でも無い。あくまで施術の一環であり、師匠として弟子の管理も立派な仕事だ。これも君を思っての行動だと心に刻んでくれ……」
ジョーの静かな目線に、メリーダは顔を赤らめて頷いた。
ジョーの手がメリーダの肩口に伸びかかった。正確には脇にはみ出ている、押し潰された胸元部分の近くに手を伸ばそうとしている。
しかし、それより早くサイリアの杖がジョーの頭に伸びていた。
「ジョー、茶番はそこまでよ」
冷たく、殺気をこめた声でサイリアはジョーに警告した。
「おい……サイリア、なんだよ、急に……」
ジョーはピタリと動きを止めた。
「カティアの時はいいとしても、メリーダのマッサージはダメでしょ」
「いや、まて、サイリア。冒険者の世界は男女の境目が曖昧だ。それは、1つの巨大な敵に集団で立ち向かうからだと思う。そこに性別の垣根があってはダメだと俺は考えている。そうだ、男女とは平等であるんだ。そう考えれば、師匠である俺がメリーダの整体をしてもなんら問題無いように思える。平等という事はそう言う事だ。そして、お互いに労わり合う存在こそ、真の冒険者だとは思わないか?」
ジョーは振り返りサイリアに尋ねた。
サイリアは小さく頷いて。――「まったく思わないから、退きなさい!!」と更に杖をジョーの額にくっつけた。
「それに、男女平等なら、女性がやってもいいはずでしょ、なんで男が出しゃばるの?」
と言葉を並べ。――
「やるなら、脚だけやりなさい」と睨みつけるようにジョーを退かした。
そして、泣く泣くジョーはメリーダの足の裏を揉んでいき、サイリアは背中の部分を担当して。ジョーの楽しみは秘かに崩れていった。
***
「では、ジョー師匠、サイリア師匠、おやすみなさい」
メリーダは一礼して、他のテントの中に入っていった。
「おやすみ、メリーダ」とサイリアは返事をして、ジョーは手だけ振っていた。
真の男女平等とは……。そんなモノはありません。by作者




