カティアのお願い
ガヤガヤと賑わうギルドの酒場。その一画にジョーを始めサイリア、メリーダ、カティア、フィフィが依頼の薬草摘みと、はぐれ小鬼退治を終え、今日も仕事終わりに休憩に来ていた。
「ジョー師匠お話があります」
カティアはギルドの酒場の席でジョー達と向かい合って座っていた。
随分と神妙な面持ちをしている。
ナニかを訴えたいような意気込みを感じる。
「なんだ、どうした? 何か他のヤツが飲みたいのか?」
「違います、師匠! 不満があるのです!」
カティアは大声でそう言った。
メリーダとフィフィはその発言に戸惑う。
ジョーは何が不満か分からない。
サイリアも同様に首を傾げる。
「なんだよ、急に? 何が不満だ? 今日だって依頼を見て指導しているじゃないか?」
「その依頼が、毎回、毎回、ゴブリン退治、薬草摘み、ゴブリン退治、薬草摘み、ゴブリン退治、薬草摘み、ゴブリン退治……そして稀に畑の巡回警備! いつも同じ! 変化ない!」
カティアは手で単純作業のように繰り返し机の上でジェスチャーをして不満を訴える。
つまりカティアは同じ依頼は飽きたと言っているのだ。
「カティア……。ゴブリン退治だっていい戦闘経験になるだろ? それに薬草摘みだって立派な仕事じゃないか?」
ジョーは呆れた顔をしながらそうやって不満顔のカティアに伝える。
「そうよ、立派な冒険者の仕事じゃない。重要よ!」
サイリアのそう言ってジョーの意見に肯定した。
「お嬢さま、ジョー師匠、サイリア師匠の言う通りだと思います。冒険者とは地道な経験を積み上げてギルドランクを上げるモノですから……」
メリーダもカティアの隣でジョー達の意見に賛同して、諫めていた。
「でも、でも……。訓練とゴブリン退治、薬草摘みの達人になっちゃう。いつかはゴブリンも全滅させる勢いだわ。フィフィちゃんもそう思うでしょ? 同じ依頼ばっかりだと飽きるよね?」
カティアの左隣に座るフィフィはいきなりの質問に驚いている。
「え、えっとね……わたしは……、じっくりやりたいかな? ゴブリン退治もまだ慣れないけど……でもね。カティアちゃんの気持ちも分かるよ。同じ依頼だよね」
フィフィは否定と、一部肯定を繰り返し、曖昧な返事に納めた。
「ほら! 師匠! フィフィちゃんも“飽きた”と言っています! 違う依頼をしましょう」
カティアは真っ直ぐにジョーを見た。
困惑するフィフィを巻き込みながら。――フィフィはカティアと同意見だと勝手に解釈され強制的な物言いの発言に目を丸くしてしまった。
「カティア……フィフィは別に賛成と言って無いし、そもそも、Gランクはゴブリン退治と薬草摘み、稀にある子猪狩りや小害獣駆除の依頼しかないんだよ。そもそも訓練も見ているし『依頼に飽きた』なんて我儘だぞ!」
ジョーはそう言ってカティアに強い目を向けた。
たじろぐカティアだが―――再び、口を開く――
「でも、師匠が王都に行っている間は1月半のも間、自主訓練になっちゃうし、その間に何も依頼を受けなかったんですよ! ほったらかしにされたんです!」
(う、痛い所を突く)――ジョーが不当逮捕で何日か遅れた事は確かな事でもあった。
「……それは、色々と用事が重なったからで、お土産をちゃんと買ってきただろ?」
「それには感謝しています。 あれはいい服でした。好みにピッタリですが……ジョー師匠、サイリア師匠、それとこれとは違う話だと、弟子の立場から言わせてもらいます」
「おい、それは横柄な態度だと、師匠の立場から言わせてもらうぞ」
ジョーは即座に突っ込む。
「ウッ……、まぁ、そうかもしれませんけど……、まぁ、その、ほら、もうすぐ、アレが近いじゃないですか……“収穫期”が」
しどろもどろになりながらカティアは本当の目的を伝えようとする。
(んッ? 収穫期とカティアは関係ないだろ? 領主の娘だろ?)――と、ジョーは心の中で思うが、カティアの態度からナニかを察する。
「収穫期とカティアは関係ないじゃない? どう言う事なの?」
とサイリアが直球の質問をぶつける。
「サイリア師匠、あのですね、冒険者学校は収穫期が近づくと、なが~い休みに入るんです。それも7日後に」
カティアは笑顔でそう言う。
この時期は何をするのかと言えば、農家の収穫期には人手がいる。その為に冒険者学校に通う者の中にも手伝いに借り出される人が少なからずいる。それに庶民が多い関係で冒険者学校を休みにした方が人手不足も解消されやすい傾向がある為、その期間は里帰りの者を含め、休みを取るのだ。
「あ~、なるほど……。カティアは長い休みの間になにかしたいということか?」
ジョーはカティアの浅はかな考えを見抜いた。
始めの態度からオカシイ感じはした。カティアはジョーとサイリアに本来の目的を伝える為に演技をしたのだ。
「おぉ! そうです。さすが我が師匠です」
「それで、何をして欲しいんだ? 無茶な依頼をやりたいとかそんなんじゃないだろ?」
ジョーは本心を話せ――と言う風に笑みを浮かべる。
周りの者達はイマイチ、ピンときていなかった。
「そのとおりです。私の目的は1つ。町から出て『特訓』したいんです。冒険者合宿をしたいんです。そこで強くなって、ババーンと技能を上げ強くなりたいんです!」
(まぁ、長期休暇ならそうだろうよ。カティアは町を出た事が無かったからなぁ~。この前の王都も凄く食い下がってきたし、向上心と我儘さを併せ持ち、虚栄心というか見栄を張りたい年頃か……)――などとジョーは冷静に分析する。
そのまま麦酒を飲む。
その間にメリーダは「お嬢さま、外は大変危険です。おやめ下さい」と反対意見を出し。
フィフィは「カティアちゃん、合宿って野宿するの? 町の外で? 村とかで?」と困惑していた。
「ジョー、どうするの?」と隣にいるサイリアが訊いてきた。
「あ~~、まぁ、カティアの浅はかな考えに……“のってやろう”かな」
と、ジョーは答えた。
「本当! 師匠!」
カティアは嬉しそうに声を上げた。
「いいんですか? ジョー師匠、サイリア師匠?」とメリーダは断って欲しいような顔をしてジョー達を見ていた。
「まぁな、現在、懐は暖かい。無理に依頼を受ける事もする必要も無い、それに俺らもそろそろ外で強化鍛錬するにはいい機会だったからな……経験積む事も大事だし、いつかはやらないといけない事でもあるな……」
ジョーは独りで納得の表情を浮かべた。
「でも、ジョー、場所はどうするの?」
サイリアは訊く。
「“あそこ”だよ。いつもの所……」
ジョーはサイリアにそう言う。普段、町の周りで使えない魔術や訓練をする時に使う秘密の場所があるのだった。
「ああ、“あそこ”か……」――サイリアも納得する。
「そう言う訳で、強化合宿をやることにする。フィフィも家の都合とか大丈夫か?」
ジョーは目線を向けると――「は、はい、家はパン屋なんで収穫期はあまり関係ありません。いけると思います」と返事が帰ってくる。
メリーダは訝しげにジョーを見て、少し機嫌が良くない様子だった。
ジョーはその気配に当然のように気がついている。
彼女はカティアを危険な目に会わせたくないと少しだけの付き合いからも理解していた。
「大丈夫だよ、メリーダさん。そんな危険な所で宿なんてとらないから、それなりに安全な所だ」とジョーは優しく伝えた。
彼女は意味を察したのかコクンと頷いた。
「それでだ……。その前に準備をするから明日の昼からみんなで買い物いくぞ」とジョーは宣言した。
すると、カティアは「オォ――!!」と嬉しそうに返事をする。




