全てが回っている
「まったく……恥かいた、恥かいた、恥かいた、この、この、この、この……」
サイリアが杖でジョーの背中を突く、激しい連打をかましていた。
「イテッ、痛いよ、サイリア。借り物の服だぞ、破ける」
「あっ! そうだった。じゃぁ……」
今度はポコポコと頭を叩く。
「おい、なんだよ、まったく、止めろ!」
ジョーは鬱陶しそうに腕で防御した。
「ジョーの所為よ!」
サイリアは自分自身の失敗。『パンツ丸出しすってんころりん事件』の事をジョーの所為にしているのだった。
――まったくの冤罪であるが……。
「いいじゃないか、パンツじゃなくて長いズボンみたいな下着だろ?」
「それでも恥ずかしいのよ、コノ、コノ、何が『俺の真似』すればいいよ。とんだ失敗しちゃったじゃない。パンツを見られた事と同じでしょ!!」
【まぁ、そう言うな、『旅の恥は掻き捨て』だって聞いた事がある。ケケケケッ、いい経験じゃないか】
ジョーに背負われているスネークがそう言葉を吐いた。
「それはそれ、恥ずかしい事に変わりないじゃないスネークのバカ!」
「おい、いいだろ? スネークもからかうなよ。ほら、馬車小屋に着いたから早く帰ろうぜ」
ジョーは王城近くの馬車小屋を指さした。
「わかった……。でも、みんなには言わないでね……」
「ああ、そっとしておいてやるよ」
サイリアの本音が漏れ、ジョーもヤレヤレと言う風に了承した。
「絶対だからね」
「俺の口の堅さを信じろ」
「信じられない!」
「じゃあ、言うな!」
「これは脅しよ。言ったら宿屋で極大魔術の餌食にしてやる。寝ている時に……」
「おい、嘘でもそれは止めてくれ。寝られないじゃないか」
【宿屋も壊れて修理代がかさむな】
「それもそっか……。でもね、余計な事は言うんじゃないわよ。ジョー、スネーク」
「へ~い」、【わかった】
「ついでに衣装返したら食事にしましょう。最後に行ってみたい店があるの……」
サイリアはナニかを思い出したように言い出した。
「……へ~い」【……へ~い】
ジョーとスネークは飽き飽きしながら疲れたように声をだした。
そうして、ジョーのサイリアは王城を出て町中に消えていく。
***
「それじゃあ、ベルンの町に帰るぞ!」
オジュールの声が響く、ギルドの宿屋の庭で“翼陽の団”、“双璧”、“三槍将”、“双蛇”の面々が集まり、最後の会合を終え、帰路の着こうとしていた。
各々が上機嫌の表情をしている。
ジョーは王国から“褒美”を貰い、馬車に詰め込んでいる。
オジュール達も実は褒美を貰っていた。――宿屋の宿泊料金を王国持ちにしてくれたのだ。
――迷惑料と口止め料を含めての処置である事もオジュール達は理解している。
そんな訳でドレイク討伐の報酬とその他の報酬を手に入れた一行は意気揚々と王都を後にした。
***
ジョーとサイリアは帰還途中の道端で馬車にのり会話を楽しんでいる。
「――まぁ、それなりに楽しかったわね、王都は……。マリー姉にも会えたし、連絡先交換しちゃった」
「そうなのか……。俺は牢獄も味わったし、至れり尽くせりだったよ。“ある意味”」
「もう、そんなスネないの、良かったじゃない王家専用の『保存箱』が手に入ったのよ。超高級品よ。持っていっていいなんて太っ腹!」
サイリアは馬車の後ろに積んである大きめの箱、それもなめし革に表面加工を施し、黒と銀で装飾された最高級の『保存箱』を手にしていた。
買えば金貨何枚かは吹っ飛ぶ程の高級品である。
「まぁな、宿屋の件にしても、この保存箱にしても、褒美の額が少ないからなぁ~、なんとか埋め合わせに高級品にしたんじゃないか? 向こうの誇り(=体裁)もある事だし……。そう考えれば幸運だったな」
「えぇ、これで食材も長い間入れられるし、利用の幅か広がるわ!」
「まぁな……でも、金貨100枚っていっても良かったな」
「バカ、欲を出さないのが美徳だって、そう言ったのジョーでしょ……」
「でもなぁ~、今にして思えば惜しかったような……」
「ハイハイ、終わりよ、遅い! まったく、式典中にカッコつけていたくせに――――」
そんな会話をしながら何事もなくベルンの町に到着した。
***
ジョーは翌日にはカティアとギルドの酒場で会っていた。
「ジョー師匠、サイリア師匠、御無事の御帰還、弟子として嬉しく思います」
机を挟んでカティアはメリーダと一緒にジョー達と対面し、恭しく頭を下げた。
「うん、カティアも元気そうでよかった」
「お土産、ちゃんと買って来たわよ。服もね」
「はい、このようなお菓子を買って下さりありがたき幸せ!」
机の上にはカティアが所望した王都のお菓子の一部が並んでいた。
「なぁ……、その喋り方どうしたんだ? 何かあったのか?」
ジョーは敬うような態度であるが普段と違い過ぎるカティアに疑念を抱く。
「さすが師匠です! よくぞ見抜きました!」
カティアは納得の笑みを浮かべた。
((いや、分かるから!))――ジョーとサイリアは同時にそう思う。
「それで、どんな事があった」
「はい、実は、冒険者学校で友達ができました」
カティアは、はにかむように答えた。
「おぉ、そうか! 出来たのか!」
ジョーは少し声を張り、驚いている。
「はい、ジョーさんとサイリアさんのお陰だと思っています」
メリーダは隣で涙目になりながらジョー達に頭を下げた。まるで母親のようである。
カティアはジョーが遠征に出かけている間にフィフィと友達になっている、そして何名かのクラスメートと昼食を共にする中になっていた。(※幕間の話)
メリーダは今迄の経緯を知っているので“友達”が出来て感動している、ジョーもサイリアも暖かい気持ちをもって見守っていた。
三者面談のような内幕がその場所で展開されている。
「それでですね……、ジョー師匠、サイリア師匠にお願いがあります」
カティアは突然熱い瞳を向ける。
「なんだ……?」
「はい、フィフィちゃん。こっち来なさい!」
カティアが突然遠くに座っているフィフィに声をかけた。
先ほどから、ギルド酒場の柱の影でチョコチョコとこっちを見ていた赤茶髪のおさげをした少女だと、ジョーは気がつく。実を言うと、始めからずっと気になっている存在だった。
彼女は恥ずかしそうに杖を持ってジョー達の傍に来た。
カティアは立ち上がり彼女の近くに行くと、ジョーに宣言する。
「師匠、私はフィフィと冒険者チームを組む事にしました。ですのでフィフィも“弟子”にしてあげて下さい。お願いします!」
「お願いします!」
カティアとフィフィは同時に頭を下げる。
「よし! いいぞ! よろしく、フィフィ!」
ジョーは即断で答えを言う。力強く頷いた。
「エッ、いいの? ジョー?」
サイリアはあまりの即断即決に驚いている。
「師匠、本当ですか? 嘘じゃないですよね」
カティアもフィフィも直ぐに決まって拍子抜けしてしまい、間抜けな顔で見ていた。
「騎士に二言は無い! さぁ、フィフィよ、今日から君は俺達の弟子だ。椅子を持って来て、一緒にお菓子を食べるのだ」
と、ジョーはカッコよく言う。
「きゃぁー♪ さすが師匠! ありがとう!」
と、カティアはお礼をいい、フィフィと盛り上がっている。
「もう、いいの? 本当に?」
隣に座っているサイリアはあまりにもジョーらしくない行動に思わず真意を確かめる。
「いいんだよ。野郎(=男性)だったら追い返していた所だが……“女の子”だしなぁ~」
ジョーは思い出していた――
カティアと待ち合わせ前、ギルドの受付で“王都のお菓子”を差し入れしたのだ。王様から頂いたお菓子があまりに大量である為に、カティアに上げる分はとっておいて、その一部をあげることにしたのだった。
その行為に――アリアを始めとする受付嬢の女性陣は大層嬉しそうな声を上げる。
「きゃあ~、本当にいいんですか?」
「あっ、これって王都の最新のお菓子じゃないですか!」
「高いヤツですよね。わぁ~うれしい!」
「あぁ、食べたかったヤツだ。ジョーさんありがとうございます」
などと、久しぶりに会う彼女達は約一ヶ月半前に起こった『セクハン事件』の件も帳消しになる位に喜んでいた。
あの日の蔑む瞳は無くなり、甘い物、それも高級品の菓子類を見て瞳が輝いていた。
その様子にジョーは確信した、一気に罪が消え、喜ぶジョー。完全に有頂天になっていた。
その時――思い出した。マリーの占いを『女性に優しくする事で上手くいく』と――。
なので、ジョーはフィフィを受け入れたのだ。せっかく上手くいった占い結果は信じて見たくなる。
それに期限はどこまでかとは聞いていなかった。
そんな迷信じみた経緯もあり――ジョーはフィフィを新しい弟子と認めたのだ。
その後、ジョーとサイリアはドレイク討伐の話や起こった事件の事を話し、カティアも学校で起こった生活やこれまでやってきた修行の話を続け、お菓子を頬張りながらお喋り会を続けていた。
これで、この章はこの話で終わりです。
変化として【フィフィが弟子になった】事くらいでしょうか?
既定路線というか新弟子ですね。素朴タイプのおさげ女子枠?という新設定?(嘘)




