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私達、冒険者として生活します!  作者: あきら・たなか
第4章; 王国狂騒編
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謁見3

 まったくもって動こうとしないサイリア。ただ平伏するだけだが、顔は赤くなり瞳は挙動不審者を遥かに凌駕するほど(うつ)ろだった。

 場違い度が限界を越え、頭が停止モードに入っている。


 そんな事は、お構いなしにルシアは近寄る。

「どうしたのだ? サイリアとやら?」

 そして――不意に手を差し出した。


 その手を突然握り出すサイリアは――「手の甲にキスする、手の甲にキスする、手の甲にキスする……――」と壊れたおしゃべり人形のように繰り返す。

 そして、唇を突き出し、震わした。


「エッ、ちょっと何っ?」

 ルシアも突然の行動に呆気にとられている。


 周囲の兵士も何故か手の甲にキスしようとするサイリアを止めようと動き出した。


「おい、サイリア止めろ。手にキスするのは男性だけ。女性はそのまま、お辞儀しろ」

 ジョーはおかしな行動をしているサイリアに向けて声をかける。

 

 彼女はその声に反応して、ハッとなる。

「エッ、そうなの? ジョーが真似しろって言ったじゃない!?」

 サイリアは困った様子でジョーを見る。


「違うから、女性は軽く立ち上がってドレスの端をもって会釈するだけでいい。それが礼節なんだよ」


 ジョーの言葉にサイリアは周囲を見渡した。

 宰相は――そうです、そうです――という風に頷き。周囲に居る親衛隊も小声で「それが正解です」と教えていた。


 サイリアは急いで手を離し、立ち上がり。

「これはご無礼しました。王女殿下もお元気そうでなによりです。私の名はサイリア=ヨキ。未熟な魔女でございます」と訳のわからない挨拶をして――頭を下げ、再度上げる――そして不幸が襲う。

 緊張のあまり足がもつれ、着なれない靴にドレスの裾を踏みぬき、そのまま2、3歩下がり、まさに後ろに『ズッコケる』。

 ある意味――お笑い教本通りの対応に周囲の者達は度肝を抜かれ動けない。

 転んだ拍子にパンツまで見えてしまい。


 ――ここに『ドジっ子魔女』は完成した。


 ジョーは――あちゃ~――という風に手で顔を押させ下を向き。


 ルシアは声を出して笑い。他の親衛隊は笑いを押し殺していた。

 王族達はまさかの出来事に目を見開いていた。


 まさに――どうしようもない空気が流れる。

 

 サイリアは立ち上がり、服を直し、羞恥にまみれた表情のまま姿勢を戻した。


「ルシア、笑ってはいけませんよ」と王妃が(とが)める。

「はい、お母様」

「挨拶はよろしいでしょうから、席に戻りなさい」

 

 式典の変な空気はどうにか元に戻った。それぞれが席に着き。何事も無かったかのようになっている――表面上は。

 始めの頃に比べると緊張感が緩和している事は式典に出席している者なら誰もが気づいている事だった。

 それほどに、『ドジ魔女っ子パンツ丸見え事件』は衝撃だったのだ。


「国王様。仲間のご無礼、真に申し訳ありません」

 ジョーは謝罪する。

「何を言う、ジョー殿。『無礼』とは礼を知らない者の事ではありません。礼を知っていても行動する事が無い者をさすと私は考えています。サイリア殿の出来事は偶然の出来事ですので非礼ではありません」

 国王は静かにジョー達が安心する言葉を伝え。動揺しているサイリアに気づかいを見せる。

 

「そう言って頂いてこちらも安心できます」


「ホホホッ、いいのですよ。それよりも宰相殿、話しを進めましょう。『褒美』の話です」

 国王は優しくほほ笑み、宰相の目線を送った。


「ジョー殿、国王はルシア姫殿下を救って頂き真に感謝しておられる。よってブリューシュ王国は貴殿の望みを叶える用意がある。なんなりと願いを言って欲しい」

 

 宰相はジョー達に伝えてきた。


 仮定の話しとして、王女の誘拐が成功してしまった場合。身代金として何千、何万の金貨が要求される場合もあるので、ジョーはその損失を救ったとも言える。


 ――“王家として出来る限りの事はさせていただきます”とそんな風にいいかえる事も出来た。


 ジョーはこの言葉を聞いて即座に答える。事前にサイリアと褒美について打合せをしていた。


「それでしたら、私共が抱えている問題を1つ叶えて頂きたいのです。知識も無く、途方にくれてしまいまして……」


「なんでしょうか? 王室で出来る事でしたらなんなりと……可能な限りの願いを叶えましょう」


「はい、実はですね。私たちには女弟子がおりまして。その子との約束で『王都のお菓子』と『最新の最先端の服』が欲しいと言われまして。しかしながら私共は、それに関する知識も無く、華やかなドレスを選ぶ感性もございません。王都の事を知らず、田舎者でございます。その為にどのような王都土産を授ければいいのか困惑しているのです」


「なるほど……褒美は『王都のお菓子』と『王都で流行している服』でいいという事ですか?」

 宰相は確認の意味を含めてもう1度聴いた。


「はい、そうです。間違いございません」


 ジョーの褒美は予想外にカネのかからない褒美だった。

 金貨で言えば100枚以上は渡す事も可能である。それほどにルシアの救助の功績は大きい。

 だが――ジョーはその選択をしない。なぜなら余計な事に首を突っ込みたくはない。それにガメツク要求する事もしない。カネを貰えば可能であるが、探す時間と作業時間、様々な手間をとり、オジュール達にこれ以上の迷惑は掛けられないのだ。先に帰って貰うにしても道中の危険が増すので一緒に帰った方がいいという判断だった。


 カネよりも仲間の時間と事情が絡まりそのような願いに落ち着いた。


「わかりました。その褒美を与えましょう。細かい事は後ほど宰相に話して貰いましょう」

 国王はニッコリと笑い了承する。

「ありがとうございます……」

 そのまま頭を下げる、ジョーとサイリア。


「それでは、その他の話をさせてもらいます」

(んッ……もういいんじゃないか?)

 ジョーは頭を下げたまま、オカシイと感じる。式典としては褒美の話が済めば殆ど終わりだからだ。


「宰相、アレを持って来なさい」

「はい、国王様」


 宰相は付き人に合図を送ると、付き人は絹のような高級な布を張った盆の上に何かを置いて運んできた。

 そして、ジョーの前に止まり、「どうぞ……」と言って、そっと盆を前に置くと去っていった。

 盆の上には短剣と小さな皮袋に入った何か。それと印璽を施した巻紙が1つ置いてある。


「ジョー殿、それは不逞な輩が持っていた装備をこちらで買い取らせて頂いた物です。短剣は魔剣の類である為に売る事はせずに貴方方(あなたがた)がお持ち下さい。そしてその巻紙は『ブリューシュ王国』内でしか効果を発揮しませんが、国王様自らが書いた『助免書状(プレミアムイプル)』になります。冒険者であるジョー殿とサイリア殿の助けになることでしょう。内容はある程度推測がつくと思いますが町の領主などに見せれば力になってくれるはずです」


 宰相は差し出された者の説明をした。

 それを聞いたジョーは驚愕する。『助免書状(プレミアムイプル)』は力になってくれるというが実質強制力が大きい。ほとんどいいなりに出来る品だった。


「国王様、このような品まで……真にありがたき事です」


「ホホホッ、いいのです。受け取って下さい。ジョー殿のように礼節を弁えた騎士は信用に値します。冒険者である事も承知しています。その領分も行動も意義も十分理解していますよ」

 国王は優しい笑みを浮かべたままジョーとサイリアに告げる。


 ブリューシュ王国は冒険者に頼っている事が多い。その為に決して(ないがし)ろにせず、今回のような場合はジョーがアブラート達を退治したので、その武器防具の所有権を明確にしたのだ。うやむやにせずに正確な処置を行った。

 そして『助免書状(プレミアムイプル)』は式典の態度から送られた品物だとジョーは理解する。悪事を働く者ではないと判断された証でもあった。


――こうして、式典は粛々と終わりを迎えた。


 


考察と説明。

ドジっ子魔女はトキメキの要素(嘘)ですが、話の流れで書いてみました。

サイリアは礼儀に関して若干疎いです。キスすればキスするしかありません(笑)


助免書状(プレミアムイプル)』はアレです。黄門様の『ひかえ~い、ひかえろ! この印籠が目に入らぬか」の印籠の劣化版の効果を発揮する品です。

決して見せて『はっは~」と一斉に土下座させる効果も無いのです。ご安心を。

効果として『まぁ、ちょっと協力してよ』みたいな。現在のいい方に帰ると『忖度書』と言い換える事もできます。国家の最高権力者の御言葉です(笑)

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