なんとなしの仮説
「そうか……、そうですか……はぁ~~~~~~」
ジョーは長い嘆息をつくと、ボーっとした様子で、机に肘をたて、顔をあずけた。
無言でエアハルトを眺めている。
ジィーっと見ていた。
ちなみにジョーはアッチの人間では無いので安心して欲しいところだが……、このままではボーイズラブな展開もあるように熱く見つめていた。
「……なんでしょうか?」
エアハルトは沈黙に耐えきれずに訊いた。
「……あんたは、どう思う?」
「と……いいますと?」
「俺の容疑をどう思う?」
「なにを仰っているか理解できませんが……」
「いいや、エアハルトさんはこっちの専門家だ。俺に懸けられた容疑は適切だと思うか?」
ジョーの、その言葉にエアハルトの眉がピクリと動いた。
「と、いいますと、ジョーさんはどうお考えですか?」
キラリと光る、眼鏡の越しの眼光がジョーに迫る。
「ん? 色々言いたい事は多いけど――不自然に尽きる。一時的な拘束なら理解出来る。でも、な~んかオカシイ。悪いけど茶番につき合っているようだな」
「茶番ですか?」
「あぁ、拘束されても拷問も無い、それどころか長い取り調べだけだ。はっきり言えば、それが不自然」
「拷問は王令により禁止されています」
「あぁ、そうなの……? でも、詰問のやり方もぬるい。仮にも、お姫様が誘拐されかけた訳だ、仲間は他にどこにいる? どこの誰からの依頼だ? どうやって侵入した? ……位の質問をしていいはずだ。違うか一応は容疑者な訳だろ? 質問もまどろっこしいし、死んだ奴の確認とかも長々やる事でもないだろ?」
「……では、ジョーさんは、どうお考えで?」
エアハルトの眼鏡がギラリと光った。
ジョーは、ひと息吐くと――姿勢を戻し、椅子に寄りかかった。
「まず、話したと思うけど……アブラートは俺達を追ってきた。そして『逃げないのか?』という質問に『問題無い』と答えた。この時点で何かが起こっていると感じたよ。
通常であれば、誘拐犯に限らず怪しい奴は、その場から逃げ出す、時間も迫っているからな。しかし“問題無い”と言って対峙してきた。この時点で追手か掛かっている事も向こうは認識していたはずだ。それに奴は玄人だった。という事は逃走経路にも“確実に逃げられる保証”があった訳だ……。
そう考えるならば、向こうは王都で安全な隠れ家を見つけている事になる。
考えられる事は結構あるけど、裏町の歓楽区とか倉庫街とか人気の無い所なんかが候補だな……でも、それは確実に保証されている訳じゃない」
「と――いいますと?」
エアハルトは眼鏡をクィッと上げた。
「考えてみれば“お姫様の誘拐”だ。王国兵士達はどんな手を使っても草の根を分けても捜索するはずだ。城壁に囲まれて巨大な牢獄が王都だからな。強引に店や民家を家探しして調べさせ、兵士でも何でも人海戦術のように使って、魔術で調べ尽くせば見つかるはずだ。それに王都だから命令なんてどうにでもなるからな。おっと、城壁に穴が開いているとか考えられるけど……それは無いな、それこそ誇り高い王族貴族が怒るってもんだ。民衆も安全に暮らせないからな」
「まぁ、城壁に穴などありません。検査と点検は毎月行いますから。それで……ジョーさんは、どこが安全だと思いますか?」
「それなら1つしか無いな。城下町でも、裏町でも無いなら……答えは『貴族の邸宅』だな。そこなら1番安全であり、もっとも見つかり難く。そして権力のおよばない場所だからな」
「ほぅ、ジョーさんはブリューシュ王国の中の貴族の、どなたかが犯人だとおっしゃりたいのですね?」
エアハルトは中指でクィ、クィッと眼鏡を直し、眉を動かした。
「犯人では無いな。あくまで“依頼人”って話、その誰か分からない貴族様って思っただけ」
「……その根拠は何でしょう?」
「そうだな……あまりにも、お姫様を誘拐するのが計画的で、なお且つ、手筈が整っていたらしいな。
仲間から得た情報だと、ざっとしか分からないけど……
一国の姫君の誘拐だぞ。武練会の準備で色々忙しかったにしても、誘拐する方は余程の手際が必要になるはず。そう考えると必要なモノがある。王城配置図、怪しまれない服装、逃走経路。警備兵の配置。簡単に考えるだけで、4つの情報を手に入れて無いと短時間での誘拐は不可能だな。
そして、この情報を得るには王城内部を詳しく知る人物と、ある程度の地位にある者が必要だな。王家の事を知りつくしていないと、この計画は成功しない」
「なるほど……実に理詰めに考えられている。しかし、誘拐団の単独犯行の可能性もありますよ」
「いいや、無いね。それこそ不自然だ。姫殿下の誘拐だ、それに国家反逆罪もついてくる。当然、捕まれば死刑。そして誘拐団では前に言った“王城の配置図”、“城内の制服”、“警備兵の配置や、それに関係する資料”、“逃走経路、さらに保証付き”を全て手に入れる事は不可能なんだよ。どっかから足がついてしまうし、なにより王城には警備兵や、それなりの罠魔術とかあるから、失敗の可能性の方が高い。
それにアブラートの名乗ったヤツ等は玄人だ。確実に成功すると思わないと実行はしないだろうな。100回やって100回成功すると確信した時に実行するヤツだよ、多分。もしかしたら……80回でもやるかもしれないけど、なにしろ危険が高すぎるからな……」
「そのようですね……単独犯説は無い方向の方がよさそうだ……」
「ああ……そうだな」
この間にもエアハルトは書簡に文字を書き続ける。後ろの兵士も同様に記録をとっていた。
――沈黙の後で再度眼鏡をクィッとあげてエアハルトは尋ねた。
「では……、ジョーさんが思う、その貴族の依頼人の目的はなんだと思いますか?」
「さあね、貴族ってのは、“怨念赫灼”、“呵々大笑”、“背信不義”、“見栄虚栄”の坩堝みたいな世界だからな。俺みたいな『善良』な冒険者じゃぁ、わからない事だらけだ。
でもって、そんな連中の1番のよりどころであり、忠誠心の中心は何か?――と言えば『カネ』だろうな。身代金の何割かを貰うはずだ。値段は応相談ってことだろうよ」
「ほう、それは何故です?」
「あれだろうな、簡単に考えて、領地の借金で首が回らなくなった。騙された。何かにカネが必要、等々、もう本当に色々と考えられるから、それは想像する事じゃないな」
「なるほど……では、犯人は誰であると思いますか?」
「いや、知らないな。それこそ門外漢ってヤツだな。貴族の名前なんて知らないよ、善良な冒険者だからな」
ジョーはニヤリと笑みを見せた。
――お返しとばかりに。
その意味を察してかエアハルトは、初めて能面の笑みでは無く、ニィッと笑った。
「わかりました……。そうですね……――」
と言って、エアハルトは考え込むと――
「もう、いいんじゃないか? 茶番にはつき合っただろ? どうせ今まで話した事は現時点で分かっていて裏で捜査しているんだろ? すべて茶番!」
ジョーはうんざりとしている様子で彼を見ていた。
「おや、どう言う事ですか?」
「とぼけるなよ! あんな質問の仕方も無いだろうよ。……アレだろ? オレを捜査するフリをして囮にして裏でコソコソやってんだろ?」
ジョーは天井を見上げ――溜息を吐いた。
そして――再度、エアハルトを見つめる。
「――だから、期限まで逃げないし、言いふらさないし、大人しくしているからさ……仲間と連絡くらい取らしてくれよ。食事は味薄いし、薄暗い部屋で独りだし、暇だから……“差し入れ”が欲しい。本とか食べ物とか欲しい……」
懇願するようなお願いだった。
それほど、王城で出される囚人の食事は、味気なく、旨味もなく、食べ物というカテゴリーにギリギリ入る位の味付けを行っていた。
そして、取り調べ以外でヤル事と言ったら、寝る、起きる、訓練だけで、後は女性兵士との会話だけだ。
「……わかりました。善処しましょう」
エアハルトはそう言うと――ジョーは正面を見た。
「善処じゃなくて、確実な履行をして欲しいよ……」
ジョーは呟く。
「まぁ、今日の取り調べはココまでいいでしょう。それでは戻りましょう、……しばらく取り調べは無いので安心して下さい」
「そうですか……ありがたいです。 あぁ! そうだ、あの女性兵士は移動させないでくれよ」
ジョーは思い出したように、突然、お願いした。
キョトンとするエアハルトだったが、すぐに意味を察し。――眼鏡をクィッと動かし、キラリと光る。
「それは、権限外です……」
――そう言いながら、立ち上がった。
(あぁ、こいつは根っからの役人だな。サイモンを思いだすよ)
ジョーはベルンの町のギルド査定員、“サイモン=エヴェンリー”を思い出していた。
考察。
城壁に穴が開いていたら――この世界ではヤバい事ですよね。
基本的に城壁は敵を侵入させない事を目的で造られたモノです。
それは変わりません。
この時代は魔物や、魔獣が闊歩して危険な世界。そして王都がそんな安全管理も出来ないようでは”先が無い”と思われて住民も寄ってきません。
これが、作者の考察です。
敵対するヤツに簡単に突破される、魔法なんかに吹き飛ばされる。そんな城壁なんか、城壁じゃねぇ!
という思うがあります。
それに、基本城壁=住民プライドのようなモノです。
「ここ、壊れてる」
「ほっとけ、ほっとけ」
とか、そのまま開いたままでは、金もないのかよ、ダッセー国だぜ、とか思われ、設定上、プライドの高い王族、貴族は怒るはずと――ジョーは言っているのです。
考察2
誘拐とは組織的は犯行であると思います。
特に一国の王女の誘拐ならなおさら。
細かい所は次回に持ち越しです。
ジョーの処遇というか立場的な話をしていこうかと……。まぁ、説明の一種ですね。




