収監
ルシア姫誘拐未遂事件の発生から2日ほど経ち、王室関係者等が慌ただしく事後処理に勤しんでいる間に、事態はむりやり収束されていく。
ジョーは王城にある地下牢に幽閉されることになった。
地下牢と言う事で薄暗く、鉄格子と頑強な岩壁に囲まれた部屋で呻き声のような音がする。
「フッ…グッ…、フッ…グッ…、ガッ…グッ…、フッ…フッ…、フッ…グッ…、ガッ…ガッ…―――――――」
という、ジョーの声が響き渡っている。
激しい苦痛に歯を食いしばっているような声だ。
金属音と革が軋む音が連続して聴こえている。
※※※
――(同時刻、王城、城門前)
ブリューシュ王国の王城の城門はそれなりに大きい。
門は高さ4メートル程あり、横幅もそれなりにあった、どんな貴族の馬車でも通るように設計されていた。
ある意味、通常どおりの平凡な城門と言える。
そんな城門に厳つい門番の門兵が居る事は、ある意味、お約束だと言える。
「ちょっと! いい加減に通しなさいよ、なんで、中に入る事も駄目なのよ!」
サイリアは人見知りと言う事も忘れ、城門にいる門兵に喰ってかかっていた。
怒りの表情を向けている。
――完全に、お門違いなのだが――
サイリアはジョーが捕まっていた事を宿屋に帰ってから知った。通信人形等の魔術具は一切持ってこなかったので、遅くまでマリーと喋り倒し、お茶会をしていたのだった。
そして、ヒュールから、あらかたの事情を聞き。驚き、狼狽して、それからジョーの解放に向けて、王城に通い詰めているのだった。
「無理だ、現在は非常警戒中だ。誰も通す事はできない」
門兵達は短槍程の長さの銃剣を構えて立ちはだかる。身なりは制服で、それなりに派手な服装で自己主張していた。
だが、自己主張が激しいのは服だけであり、本人達は無表情のまま情報だけを伝えてきた。
その行動は職務に忠実である、しかしながら似合わない服を着る事も職務なのだろうか? と、疑問をぶつけたくなってくるほど、兵士の顔とミスマッチしていた。
「無理だって言ったろ? 帰って待てよ、サイリア」
ヒュールはサイリアの後ろから、声をかける。
呆れた様子でヒュールは、かったるそうにしている。
「ちょっとヒュール。ジョーがタイホよ、誤認タイホ! 許せないでしょ。お姫様助けたのに捕まるって!」
クルリと振りかえり、サイリアはヒュールに興奮気味に言う。
「まぁね、それもどうかと思うけど、事情があるんだよ。その件に関して俺なりの見解を述べるから、ギルドの宿屋に帰ろう」
「でも、拷問とか、厳しい取り調べとかあるのでしょ? それなら助けないと!」
「おいおい、それって、お前は王城に忍び込むのか? 堂々とこんな場所で言うなよ。……それにジョーなら大丈夫だよ」
「でも……だって……」
「心配するなって……これも“事情”があるのさ」
ヒュールは平然としながら、そんな事を言って全ての事情を理解しているような口ぶりだった。
サイリアは、その言葉の真意がわからずに首をかしげる。
ヒュールは目で合図を送ると、門兵に歩み寄り、持っていた紙を差し出した。
「すいませんけど、今回の件の責任者に渡して下さい。面会できるようになったら、また来ます。ギルド宿舎にいるので、“翼陽の団”って言えば繋がりますから……」
ヒュールは二カッっと笑いそう言った。
「了解した。これは渡しておこう」
門兵も受け取る。深く頷き了承した様子だった。
「いえいえ、どうも。それじゃあいくぜ、サイリア」
と、いってヒュールは踵を返しもと来た道を戻っていく。
「アッ、ちょっと、ヒュール!?」
サイリアも追いかけていった。
「ちゃんと宿に帰ったら説明してやるから……」
そして、そのまま口笛を吹きながら道に止めた馬車に戻っていく。
※※※
ジョーが収監されている部屋を、看守の役割をしている女性兵士の1人が眺めている。
「ちょっと声が大きいので、静かにお願いします」
と、若い女性兵士は告げた。
張りのある声で、よく室内に反響する。
「あぁ、悪いね。流石に2日間も何もしないで、寝て食事だけだと身体が鈍りそうで……」
ジョーは囚人が繋がれる手錠の金属盤に革帯を足に通してぶら下がり、『吊るし式腹筋』をしていた。
「それは分かりますが……、他の方もいますので……」
看守の女性兵士は申し訳無さそうに言う。
「エッ、いるの? 俺の他に?」
「はい、7日前、酔って王城の侵入した間抜けな奴がおりまして……最奥の独房に入っています」
「あぁ……だから奥から泣く声が聞こえていたのか。まったくアホな奴だな……」
ジョーはそう言いながら革帯から足を外し、地面に降りた。
上半身裸で汗だくになっていた。
腹が8つに割れ、見事な肉体美を披露していた。
「まぁ、色々あるみたいですよ、その方も。で、そのぉ……服を着て下さい……」
「あぁ、ごめん、暑くってね。ほら、激しい運動をしているから……さ」
ジョーは、これみよがしに腹筋と胸筋をピクピクと動かした。
それを見て、さらに顔を赤らめる女性兵士。
(おっう、反応良いなぁ~、うぶだな~)
などと――能面のような面をしているが――内心は破顔していた。
すこし気品ある顔立ちの茶色がかった髪の女性兵士を、筋肉で悩殺しようとしているのだった。
「あ、汗をかかれているようなので、お湯を持ってきます。身体を拭いて下さい」
そんな事を言って女性兵士は門の前から姿を消した。
「いや~、ガン見していたな……。訓練、頑張ろう……」
小声で気持ちを新たに、決意を述べる。
それは気持ちのいい言葉であり、前向きな言葉だったが――完全に腹黒い感情が混じっていた。
しかし――その時、遠くから[ガチャン……]と音が鳴り響き、足音が聞こえる。
そして――ジョーが収監されている鉄格子の前に煌びやかな制服に身を包んだ男性兵士が立ち止る。
「おはよう、ジョー=カバライ殿。取り調べの時間だ」
キビキビとハッキリ通る声で男性は言う。
「は~い、わかってます。でも、身体拭きますから、それまで待っていて下さ~い」
と、ジョーはだらしなく、やる気無さそうに返事をした。
ジョーの筋肉について反論する事はないです。
冒険者で重い鎧、大きな剣をもって走り回ってますから、それくらいは……
扱いの“ゆるさ”についても今後書いていきます。




