死を運ぶ騎士
宙を舞ったアブラートは、そのまま回転しながら地面に転がった。
「アブラート様!!」と――2人の部下が大声で名前を呼んだ。
その行動と悲鳴はジョーが勝利者であると言っていると変わらない。
ジョーは構えを戻し「ふぅ……」と小さく息を吐くと蛇腹刀に着いた血を軽く振り落とした。
雨が降る中で決着はつき。敗者の血が地面に広がっている。
アブラートの部下は武器をとりジョーと対峙する。
「クソッ」と言ってズルズルと後退して逃げる素振りを見せた。
だが――途中で様子がおかしくなり、その場に倒れ込む。
そして、地面に伏して、そのまま痙攣を始めた。
「おっ、ちょうど“毒”が回ったな……」
ジョーは剣を肩に担ぎながらその様子を見ていた。
「きさま……ナニを……」
状況が飲み込めないアブラートの部下は動けないでいた。
「なに、お前らが無知だから教えといてやるよ、“蛇”は牙に毒を持っているんだ“色々”な。例えば……暫くしてから動けなくする遅効性の麻痺毒とか……な」
ジョーは笑う。悪い笑みを浮かべている。
「な……んだ…と……」
部下の1人が困惑の声をあげるが小さく弱い。
呂律が回らないほど身体が硬直していた。
「驚くなよ。毒を使うなんて、お前らのような闇ギルドの専売じゃねぇんだから……自分だけなんて子供の考えだ」
と、ジョーがアブラートの部下に告げる。
その言葉が、もう届いているのかどうかさえ怪しいほど、部下は苦痛の声を上げた。
【まぁな、戦う相手が悪かったと思え。ケケケケッ……】
「おい、いきなり割りこむなよ」
【いいだろ、もう大勢は決まったようなものだ】
「まぁ、そうだろうな……」
ジョー周囲を見渡し、ぶった切られたアブラートと毒にやられ逃げる事も出来ず動けないままの部下2人。勝敗は誰の目で見ても明らかだった。
そんな時――ジョーの横でモノ音がする。
アブラートが上半身になりながらも生きていた。
「おいおい、しぶといな……」
ジョーは剣を構えたまま歩み寄ると、アブラートは死相がでた生気の無い表情で、怨むようにジョーを睨みつける。
[ヒュー……ヒュー……]と、薄く浅い呼吸音が漏れ、死は免れないだろうという状態だった。
「きさま……知っているぞ……噂にいた事がある……その喋る魔剣。……蛇のような瞳。……恐ろしい程の腕。 そうだな……消えたはずの……帝国の死神騎士『ジョー……――――』
――[ガシュッッ……]という音が響き渡る。
アブラートの最後の言葉を待たず――顔面に蛇腹刀の剣が伸び、――そのまま貫き割り裂く。
「知ってるか……死ぬ間際は余計な喋らない方いいらしいぜ。俺の国じゃ“エンマに舌を抜かれる”らしいからな……」
ジョーは、もう死んでいるアブラートに最後の言葉を送る。
そうして剣を戻し、ジョーは恐ろしい表情のまま生き残った部下の1人に近寄った。
「おい、お前、誰の指示で誘拐した? 話せ……」
ジョーは命令するように地面に仰向けに倒れている男に質問した。
「た、助けて……くれ。 何も……知ら…ない」
精一杯の命乞いをして答える。
顔を流れる水が涙かどうかも分からないほど濡れ、ただ、近くにある死の恐怖に怯え歪んだ表情をしている。
「そうか……。1つ言っておく、命乞いは“善良な奴”が言うモンだ。お前じゃダメだよ」
そう言って――ジョーは首元に剣をあてた。
「ひェッ……ゆ……しゅ…て……」
そう哀願する表情をして震えていた。
「残念だったな、お前が女性だったら逃がす事も出来たよ」
ジョーがそう告げると――辺りに血飛沫がとんだ。
そして――その隣にいる最後の生き残りにジョーは剣を向けた。
「おい、ギルド名はなんだ、答えろ」
ジョーは問う。
「ころ…せ……しゃべ…らん……」
地面にうつ伏せに伏している男は、震えるように首を動かしジョーを仇のように見る。
「そうか……それならいい」
「きさま……何人……何十…殺した。……我々と……同じ……血の匂い…がするぞ……化物……」
男は傍目でジョーを見ながら苦痛に顔を歪め――笑う。
最後に呪詛の言葉をジョーに吐いた。
「ああ、そうだな……俺とお前らは、かわんねぇよ」
ジョーはそのまま剣を上段に構え、首元に振り下ろした。
――静まりかえる倉庫街に雨音だけが聞こえる。石畳の網目に、赤い血が雨と一緒に流れ、道の脇にある排水溝に向かっていった。
【ジョー……監視していた奴等が逃げていくぞ】
「そうかよ、まぁいいや、追う事はしないから……」
ジョーはそのまま踵を返し、ルシアが隠れている路地にむかって歩き出す。
蛇腹刀を振り、血を落とし――背中の鞘に戻した。
路地に入ると、近くの木箱の影でルシアが震えて、しゃがみこんでいる。耳を手で押さえ静かに待っていた。
「おい、お姫さん! 終わったぞ」
ジョーが声をかけると――振動が伝わったのか気配で気がついたのか――ルシアは振り返る。
「アッ……」と言って――立ち上がりジョーの元に駆けだした。
そして――そのまま腰元に抱きつく。
「おい、濡れるぞ。それに血がつく」
ジョーの言葉に我を取り戻したルシア――そのまま離れると「ありがとう……」と小さく言った。
「あぁ、……別にいいよ」
その感謝の言葉にジョーは言葉を返す。
ブライドの高いお姫様のからの、もどかしい感謝の言葉だとジョーは思っていた。
「終わったの……どうなった?」
ルシアはジョーの後ろが気になる様子で見ていた。
「お姫様がみたらいけないモノが広がってから、路地からでたらダメだ」
ジョーは忠告する。そして頭をポンポンと押した。
「ちょっと。子供扱いしないで……」
「ああ、悪いな“癖”が出た」
「まぁ、それならいいけど……」
ルシアは少し嬉しそうに両手で頭を触る。
「それに、私の名前はルシア、『ルシア・ダーリーン=ブリューシュ』っていう立派な名前があるの。“お姫様”なんて呼ばれたくない」
解放感からか饒舌に喋りだすルシアにジョーは笑う。
(それが、子供ぽい行動だけどな……)
「これはご無礼を『ルシア姫』」――と、いいながら騎士のように恭しく敬礼をした。
その行動に――ご満悦の表情で頷くルシア。
「では、ルシア姫。わたくしは、これから仲間に連絡をさせていただきます」
と言って、ジョーは腰鞄から通信人形を取り出した。
そして――ヒュールと連絡を取り、近くにいる事を確認したジョーは。さらに持っていた烽火筒を使い、雨空へと合図を撃ちあげる。
ソレを合図にヒュール達も現場に到着する。
倉庫街は雨が上がり、大勢の馬車が駆けつけ、辺りは騒然となった。
そして――姫を救ったジョーは――そのまま、王室護衛騎士団に“拿捕”される事になった。
拿捕というか逮捕ですね。
その理由は追って説明する話を次回から。
とりあえず一区切りついたかな?
王国狂乱編とか書いた話でしたから、それなりに長くなりました。




