命を懸けた遊戯
「アッ……うぅんっと……ここで待つ」
ルシアは突然の質問に困惑しながら答えた。
「わかった、それでいいんだな」
ジョーが確認するとコクコクと頷く。
「よし、それならいい。だから……ここで大人しく待っていてくれよ」
ジョーがそう注文をつけるとルシアは、突然、ガシッとジョーの腕を掴み、「……ヤダ、いっしょにいく」と言い出す。
(お嬢様ってのもそうだが、お姫様ってのもわがままなモンだ……)
ここには居ないカティアの事を思いながらジョーは迷う。
しかし、敵は近くにいると感じる為に説得の時間も惜しい。
迷った末に息を吐くと――
「わかった、戦いが始まったら脇に隠れてくれよ。それと手を放してくれ。そのままじゃ寒いだろ……」
そういって2つある腰鞄から小さく折られた布を取り出す。
それを広げると――ルシアに被せた。
「一応は防水性だ。着ると少し暖かいだろ?」
極薄のコートのような服を着させる。あくまでも仕事時の雨対策の品、それなりに値が張る品で“尾白水蛙”の皮膜から作られている。
ソレを被せると――ルシアは「獣臭い……」と小声で言う。
(このクソガキ―――――!)と、ジョーは思うが一国の姫にゲンコツを落とす事はせずに我慢していた。
【ジョー、距離を詰めて来ているぞ】
小声でスネークが情報をくれた。
「まぁいい我慢してくれ。敵さんがこっちに来たみたいだ」
と言って、ジョーは半腰の姿勢から立ち上がる。
ルシアもピョンと木箱から降りると、ジョーの左手を握る。
「オイ……」
「握って……」
ルシアはお願いするように言う。
ジョーはすぐに勘づいた。ルシアの手が恐怖で震えている事に。
その為、何も言わずにそっと手を握っていた。
「じゃあ行くぞ。少しでも戦い易い場所の方がいい」
「うん……」
そのまま親子のように、ジョーとルシアは雨水が流れる路地を歩きだした。
***
王都に降る雨が少し弱くなった頃、ジョーとルシアは倉庫街の大通りに出て待っていた。
ヒュールとの連絡を済ませ、ジョーはその大通りの先を静かに見つめている。
「おい、出て来いよ……。居るのは分かってんだ」
ジョーがそう呼びかけると――路地の陰から3人の誘拐犯が姿を現す。
【ジョー……残りの2名は遠くに待機しているな……】
スネークからそんな小さな情報を小声で受け取る。
(やっぱり仲間がいたか……。そうだよな……倉庫街に向かっていたヤツらだ、準備するヤツくらい揃えているだろうよ……)
スネークの情報にジョーは納得する。
すると――1人の誘拐犯が前に出てきた。
「きさま、何を企んでいる……」
小さく、渋く低い声でジョーの行動を聞くアブラート。
「はぁ、別に何も……追いかけっこに飽きたんだよ」
ジョーはその一言で理解する。――(こいつら、随分とこちらの様子を窺っていたのは、そう言う訳か……慎重な性格だな)と。
先ほどは傍に出てこないのでジョーは声をかけた。それに反応して姿を現した。その事で相手は標的の様子をよく見る、典型的な暗殺者であり玄人だと判断する。
そして――突然、姿を見せて待っているジョーをアブラート警戒していたのだ。
特段に罠も何も準備していないジョーは不思議に思っていたのだ。
「それよりも……仲間に連絡している。もうすぐ兵士を連れてくるぞ。早く逃げないと門が閉まっちまうぞ」
ジョーは状況を見て、脅しとハッタリを言う。
「……問題無い。姫を確保出来れば、どうとでも出来る」
渋い声でそういうアブラートにジョーはハッとなった。
「そうかい、……おまえら“誰に”頼まれた」
「…………」
沈黙の後。アブラートは脇から短剣を構える。
「へぇ~、依頼人の名前は明かさないか……。玄人だねぇ~」
ジョーは軽く言い流し。蛇腹刀を背中から取り出し、右手に構える。
「お前らに言うよ。俺を倒せばお姫さんを連れてってもいいぞ。そのかわり丁重にお願いするよ。まぁ……言われなくてもそうするんだろうけど……。それに、いい事にお姫さんも大人しく捕まってくれるらしいぞ」
「……きさま、どう言うつもりだ」
「なに、まどろっこしい事は嫌いなんだ……。嘘だけど……。ほら姫さん、危ないからアソコの路地に行きな。こいつら投擲武器を扱うの下手だから姫さんに当たっちまうぜ」
ジョーは少しアブラートを揶揄する言葉を言いながら、ルシアの握っていた左手を離す。
そして手で合図をして、ルシアは一度ジョーを見た。
雨が滴り落ちる黒髪から敵だけを見ていた。
「ほら、行きな。すぐに終わるから大人しくしていてくれよ」
「……うん」
ジョーに言われた通り、ルシアは後方の路地に駆けていった。
その様子をアブラートの後ろにいる2名が動こうとする。
「おい! 待てよ! 下手に動くと斬るぞ。それにこれは遊戯だよ。楽しくやろう」
そういって牽制するジョー。
「お前達、動かなくていい。そこにいるようだ……。手は出すな……オレが殺す」
アブラートは静かに反時計回りに武器を構えたまま、ジョーの周りを歩き出し。距離を縮めていく。
「おい、3人掛りでも構わないぞ……」
ジョーがそんな事を言いながらアブラートの方を見ながら不敵に笑っていた。
両者が対峙して殺伐とした雰囲気がたちこめる中――突然、ジョーが構えを変え蛇腹刀の腹を右側面にかざし防御する。
2つの金属音が響き、――石畳にポチャンと落ちる。
アブラートの部下が吹き矢を手に持ち攻撃を加えていた。
「……へぇ、“色々”武器があるんだな……毒矢か。……よっ!」
ジョーは動揺した部下に向かい、素早く蛇腹刀を振るって剣を伸ばす。蛇行しながら来る剣筋に、アブラートの部下は避けるが――右手と左わき腹にそれぞれが傷を負う。
声を出しながら後ろに跳ぶが血が流れる。
すぐに警戒態勢を取るアブラートの部下達。
が――その間に距離を詰めようとするアブラート。ジョーは蛇腹刀を戻しつつ横薙ぎの一閃で間合いに入らせない。
飛び退き、跳躍しながら再度距離をとった。
「ほう……よくわかったな……」
アブラートは距離をとり、間合いの外から感心したようにジョーに話しかける。
「あぁ、いきなり決闘なんてする訳ないだろ……あんたみたいな小心者が、それに3人でいいと言ったよな。それが独りでいいなんて警戒はするよ、いきなり視線を切るように歩き出すから……」
ジョーは薄ら笑う。
「なるほど………。若いのに修羅場は潜っているようだな……」
アブラートはマントの顔部分を外した。
頭に布を巻いてターバンのようにしていた。顔は浅黒い皮膚にきれ長の目元が見える、そして口元に歪んだ笑みを浮かべていた。
「おい! お前達、“本当に”援護はいらん。独りで片付ける」
と――大声で命令しながらアブラートは静かに殺気を漏らし始める。




