選択権利
(さて……、どうするか……)
ジョーは2つに分かれる道に差しかかり迷いを見せた。
行き先に迷っているわけではない。
(右に行けば大通りに出る。左に曲がれば倉庫街で人は少ないだろう……)
と思っていた。逃げる方向の見当は屋根の上からつけている。
人通りに出れば撒ける可能性が高まる、倉庫街に出れば追いかけっこは継続され、捕まる可能性が高まる。
この場合は確実に“右”であるが――ジョーの迷いはソコにあった。
先ほどいきなり裏声を出し脅かしたが、アレは気を逸らす為にやったのではない。あくまで隠密行動をしているであろう誘拐犯が、どのような行動をとるか見ていたのだった{それならば裏声でもなくても良いが……}、あの時に誘拐犯であるアブラートがとった行動はすぐに追いかける事をした。それは任務遂行が第一ととれる行動だった。
それならば、ジョーが試しに大通りに出た場合に他人である市民に対しての投擲武器による攻撃がされ激しい斬り合いに発展する事も可能性の一部に含まれる。むしろ、被害を多くして混乱させその隙に強行する可能性の方が大きい。逃げる可能性も高まるが同時にあらぬ被害が出る可能性も高いのが右の道になる。
対して左の道は人が少ないと思える倉庫街、隠れる場所もあるのだが撒けなければ戦闘になる可能性は大きい。
ジョーもそれを理解しているので『2つの選択を迷っていた』。
【どうする、ジョー……】
「仕方ない、“左”に行くぞ」
ジョーは決断して左に曲がる。
ジョーが左に曲がり後ろを覗くと誘拐犯が追いかけてきていた。
(チッ 動揺もないのか……逃げ出せよ、そろそろ)
内心でそろそろ追いかけるのを諦めて王都から逃げ出せばいいのにとジョーは考えていた。
すると、左肩に抱えているお姫様の入れた大袋がモゾモゾと動きだしていた。
「あ――、くそ。まだ眠っててくれよ……」
【ジョー、倉庫街が見えたぞ、それにアレを利用しろ】
「あぁ、丁度いい所にちょうどいい物があるな」
目の前に大きな木箱が積まれた場所があった。
高く積まれている木箱の山は空箱なのかは知る由もないが、そのまま蛇腹刀を伸ばし、縄を斬り、木箱の下部分を切り裂いてバランスを崩した。
「ガラ、ガラ、ガラ、ガラ、ガラ、ガシャァ――――ン」
激しい音をたて、積み木崩しのように通路に倒れる木箱。その脇を通りぬけたジョーは最後に道の脇にあった木箱を、蛇腹刀を使い、器用に後方に投げ捨てる。
その木箱が宙を舞い、走り込んで来たアブラート達の手前に落ちて破裂するように壊れた。
――身をかわすアブラート達。そして前を向くと――そこにジョーの姿は無かった。
「分かれるぞ、探せ、遠くには行ってない」
素早く指示を出し、アブラート達は散開した。
そして、“追いかけっこ”から、今度は“かくれんぼ”に移っていく。それは命を賭けた遊びのようだ。
***
ジョーは静かに同じ様な倉庫が立ち並ぶ倉庫街の路地を巧みに抜け王城方面に向かっていた。
(やつらは……こっちに気付いてないな……)
“蛇眼”で敵の動きを確認しながらジョーはさらに奥まで進む。
すると――「ウン、ウン……」と左肩に担いだ大袋から声が漏れている。
【おい、お姫様が完全に起きたようだぞ……】
「わかってるよ、仕方ない……状況だけ知らせるか。大人しくしていて貰おう」
【それがいいだろうな】
「じゃあ、ソコの路地の所で話しますか……」
道の脇に木箱と雨宿りにちょうどいい屋根付きのいい場所を発見したジョーはソコに歩み寄る。
そして――木箱の上に姫君ルシアを座らせるとジョーは猿ぐつわをされ、動けず喋れない状態を確認する。
「いいか、これから縄を斬るから声を上げないでこっちの話を聞いてくれよ。わかったな」
ジョーは腰から短刀を取り出し、そう説明する。
驚きながらも、コクコクと頷くルシア。
「よし……じゃあ、切るか動かないでくれ……」
と言って。ジョーは手と足を縛る縄を切っていく。そして、口元の縄を切った時に。
不意に―――
「キャアアアァァァァァァァ―――――!! 誰か助けてぇぇぇぇ―――!!」と、ルシアが騒いだ。
突然の轟音は辺りの倉庫街に反響して遠くに響いていた。
雨が降っているといってもそれをはるかに凌ぐ大きな音に暗殺者達も気がついた。
その声を聞いてジョーは思う。――(アッ、これ見つかったわ……)――と手で顔を抑えた。
***
ルシアは気不味そうな顔をしていた。
散々騒いだ後に目の前にいる黒髪の剣士が何もせず茫然と成り行きを見守っていた事で何か違うと感じる。
そして――騒いだ後で酷く落ち込んでいる騎士の様子を眺めていた。
そして、ジョーは蛇腹刀をしまうと――
「いいかい、お姫様。時間が無いから簡単に説明する。俺の名はジョー。さっきお姫様を助けた者だ。あんたは誘拐され、現在、俺に助けられた。そこまでは理解してくれるか」
何かを諦めたかのようにジョーは説明する。
オドオドして状況がイマイチ飲み込めていないルシアに向かって。
「……はい」
彼女は返事をする。その時に自分の置かれた状況を何となく理解する。
記憶に残るのは部屋の中で不意に見た事もない男性2人組に襲われ、布で鼻と口元を押さえられた後に意識は無く、起きたら目の前に誘拐犯と違う黒髪の騎士が居ると言う事で助けられたのだとわかった。
「それならいい。それと現在、逃げ出してる途中だった。周囲には誘拐犯達がいる。そして……いまの悲鳴で気がつかれたから、こっちに来る」
「……あっ」
そこでルシアは理解した。
自分の声で誘拐犯を呼んでしまった事に。
「そこでだ。……これから君は選択をしなきゃいけない事がある。1つはこのままココに居て待っている事。2つ目は逃げ出して王城まで駆けていく事だ。どっちにしろ『危険は無い』」
ジョーはそう言ってルシアに言う。
彼女はその選択権の余地に危険が無い事を理解していない様子だった。
「なんで、一緒に来てくれないんですか? 危険は無いって……?」
震えた声でジョーに質問していた。
「あぁ、そこの説明を省いちまったな。犯人は分かっているだけで3人いる、それぞれが玄人だろう。そこでだ……、相手と俺は対峙する、このまま駆けても逃げ切る可能性は半々だからな。どっかで対決しないといけない。そこで姫さんに選択権があるって話だ。
まず―――
1つ目:俺の勝利を祈りココで待つ。
2つ目:俺が足止めする間に現在こっちに向かっているヤツらに保護してもらうように逃げ出す。
そのどっちかだろう。ここで待つなら俺が倒れた場合に誘拐犯が来て、また捕まるだけだ。逃げるなら他にいるかも知れないヤツらの仲間に捕まる可能性がある。3人だけとは限らないからな。……そして、どちらの場合も姫さんに危害は無い、だって目的は姫さんの確保とその後の身代金が目的だからな、殺すような真似はしない。分かったか……」
ジョーは2つに絞って説明した。どっちも現状でルシアに被害は無いと言って。
その説明にはまだ“省略された部分”があったがソコは言わないでおいた。
「さぁ、どうする、お姫様……」
と言ってジョーは選択を迫る。
考察
ルシアがすぐに騒いだのは王室ならでは緊急回避術です(裏話)
現代日本での痴漢不審者にあったら騒ぐと良いらしいです。
しかし恐怖で声が出ない事が多いので訓練?しておきましょう(その訓練で警察を呼ばれても作者は関係ありません)




