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夢と現実、虚構と真実

 毎度読もうとしていただき誠にありがとうございます。

 最近は暑いのか寒いのか分からない天気にヒーヒー言っております。はい。


 今回から、晴が逃げた先での話になります。

 それだけです。話が急展開になったりとか、可愛い女の子が出てきたりとか、晴の眠っていた力が目覚めるとかそんなことは一切ございませんのでご容赦ください。

 短い前書きですが面倒なのでここら辺で失礼させていただきます。


 それでは第10話、夢と現実、虚構と真実をお楽しみください。

 *


 不意に晴は目を覚ました。

 それが絶品の料理からでも香るかのようなこの匂いのせいなのか、それとも意図的に睡眠を妨害しようとでもしているかのような馬鹿でかい掛け声のせいなのかは分からないが、とにかく晴は何の前触れもなく唐突に目が覚めた。

 最初に目に入ってきたのは木目調の天井だった。そして、顔を照らしつける明かりに目を細め、顔を背けたところで見たことのあるような知らない顔が目に飛び込んできた。


「おう、起きたか」


 その見たことのあるような知らない顔は髭面に満面の笑みをたたえてそう言った。恐らく初老であろうと思える程度に顔にしわを刻んでいるのに対して、髪の毛や無精ひげは黒々としており、体はと言えば白いシャツがはちきれんばかりに筋骨隆々である。

 普段の晴であれば驚いたであろう。少し強面ともとれる髭面の男が、たくましいを3回ほど通り越した体で腕組みしながら目の前に現れたのだ、驚かない方がおかしいだろう。

 ただ、晴は驚くことをしなかった。不意に目を覚ました晴に飛び込んできたのは何も木目調の天井や髭面の男だけではない。あそこで見た人馬が、大軍が、まるで目の前に現れたかのように晴の頭に飛び込んできたのだ。無論、彼らの殺意も、威圧感も、胸を締め付けるような息苦しさも、全部一息によみがえってきた。

 そのために、晴は男を見る前から疲弊し疲れ切っていたのだ。例え目の前に死神が現れようとも、あまりの疲れに驚くことはできないだろう。

 案の定、男の第一声に対して晴は口を開くことはなかった。口を開くことさえも億劫だった。

 ただ、それでも、とりあえず礼だけでもと思い晴が体を起こそうとすると、骨がきしみ、体中に激痛が走った。痛みに顔をしかめて起き上るのをあきらめた晴は、寝たままの状態で、まださして痛くない首から上を男の方に向けて礼を言った。

 

「あの、ありがとうございました。助けていただいて」

「はは、気にするな。別に義理や人情で助けたわけじゃないし、そもそもお前みたいなのが来るって知っていたからな、大して苦労もしなかったよ」


 外見通りの野太い声で、目の前の男はそう言った。外では相変わらず馬鹿でかい掛け声が続いている。


「ここは……」


 晴はそう言ってあたりを首から上で見回した。晴がいるところは寝室のようで、特になにか飾りがあるわけでもなく、殺風景な部屋だった。

 晴の問いかけに男は少し驚いたような顔をした。


「お前は何も知らずにここに来たのか?」


 知らないも何も、自分は森の中の木の根元で寝ていたはずだ。それを相手が勝手に連れてきただけだ。

 晴は黙って首を振った。


「そうか、じゃあお前じゃないのか……。兄貴に何か言われなかったか?」

「兄貴?」

「ああ、ユリウス=アンダートンだ。今、ウエスターナで冒険者ギルドの総帥をやってるはずだが」


 そう言われれば似ていないこともないのかもしれない。ただ、言われて初めてそうかもしれないと思う程度だからそれほど似ていないのだろうとも思う。

 晴が頷くと、男は「そうか、そうか」と言って笑った。


「じゃあ、お前で間違いないということだな」

「それってどういうことですか?」

「ああ、それは後で説明するよ。とりあえず、しばらく動けないだろうから安静にしててくれ」


 男はそう言うと、立ち上がって部屋から出て行った。

 晴にはまだ聞きたいことがあったが、呼び止めるだけの元気がなく、またすぐに寝入っていしまった。


 *


 変な夢を見た。

 人を殺す夢だ。

 何度も、何度も、何度も。繰り返し人を殺しては、また殺す。それを延々と繰り返す。そんな夢だった。

 誰かは分からない。ただ、それは人なのだ。片腕をもがれていた人もいれば、両足を失っている人もいた。首から上がない人もいた。およそ人のカタチをとっていない人もいた。

 個々に様々で。それぞれが人だった。

 襲ってくるやついもいれば、命乞いをするやつもいた。ただ地べたに這いつくばって地にひれ伏す人もいれば、何かの上から見下ろす人もいた。

 各々に異なり、一様に人である。

 それを殺していたのだ、俺は。

 次々と現れるそれらを、俺は自らの意志で殺していた。殺したい、殺したくないなどではない。殺さなければならないのだ。殺さなければならないという意志が俺を突き動かしていたのだ。そして、目の前のそれは俺を憎み、睨みつけて俺に殺されていく。俺は知っていた。目の前ののっぺらぼうに隠された表情は全てが、俺に対しての憎しみや、憎悪や嫌悪などといった類の表情であることを。


 俺は剣を振るった。手の皮が破け、血が滲もうとも俺は剣を振るった。返り血で来ていたシャツが赤く染まろうとも、俺は剣を振るった。ただ殺さねばならぬという感情に従って俺は剣を振り続けた。


 いつからか、俺の目は色のない血で溢れかえっていた。目から溢れ、滑るように頬をつたい、顎の所で微かに躊躇いを見せ、地に落ちる。そんな血が俺にはたまらなく愛おしく思えた。なぜかは分からない。ただ、たまらないほどに俺はその血が愛おしかった。

 俺はその血が目から零れ落ちる限り、人でいられる。その血が透明である限り、心を失わずに済む。なぜかそう思えた。人を切るたびにあふれ出るその血だけが唯一の救いだった。


 どれくらい切っただろうか。奇妙な方向にひん曲がった片足を引きずりながら命乞いをする男を切り殺し、どこからともなく俺を殺そうと剣を振りかざした兵士が現れた時だった。

 俺は剣を手放した。

 枷が外れたかのように、指は一本ずつ剣から剥がれていった。そして、五本の指すべてが剣から剥がれると、持ち主を失った剣はカランカランという音を立てて地面に落ちた。

 腕が疲れたわけではない。落ちた剣が立てた音が語るくらいには剣は軽く、扱いやすくもあった。そうではなく、ただ俺は辞めたのだ。辞めることが出来たのだ。殺さなければならないという感情がいつの間にか消えていたのだ。それがいつ、どうして消えたのかは分からないが、少なくとも重石のようにのしかかっていたその感情はまるで初めからなかったかのように、気付いたら消え去っていたのだ。


 なおも目の前に俺を殺さんとする兵士が迫っている。


 それでも俺は剣を手放した。その時、俺にどんな感情が芽生え、どう思ったのかは覚えていない。だが、その時俺は、間違いなく何かを思い、剣を手放したのだ。

 俺はその場に倒れこむように跪いて天を仰いだ。

 この時見た空の色は夢から醒めたときにはもう覚えていなかった。ただ、どこか少しだけ懐かしいような気がしたことだけは微かに覚えていた。


 目の前で兵士が剣を振りかぶる。


 俺は躊躇うことなく後ろに手を組み、首を差し出した。

 これで終わりだ。人を殺すことも、殺すたびに響く胸の痛みも、これで終わりだ。やっと、苦しまずに済むのだ。

 俺の目から一滴の涙が零れ落ちた。と同時に、兵士の剣が振り下ろされた。

 俺はそこで目を覚ました。


 *


 背中がべったりと濡れていた。寝ている間に随分と汗をかいたようだった。

 晴は寝返りを打つように体を横に向けた。布団をはだけるように脇に寄せて背中に風を通す。汗をかいた背中がヒンヤリとして気持ちがいい。

 横を向きながら晴はさっき見た夢のことを考えていた。

 概ねはっきりと覚えている。俺が誰に何をしたのか、どう殺したのか。胸の痛みも、血のにおいも、人を斬る感触も。夢で見た光景が、目に焼き付いて離れない。目を閉じても、まるで瞼の裏に張り付いているかのように、はっきりと現れる。

 晴が横を向いていると誰かが部屋に入ってきた。背中越しに近づいてくる足音が聞こえる。


「盛大に汗をかいたな」


 足音の主はそう言うと、ベッドの近くにある椅子に座った。木製の椅子が少し軋んだ音を立てる。


「ああ、別にそのままでいい」


 晴が足音の方に体を向けようとすると、声がそれを制した。

 声の感じからして夢を見る前に話しかけてきたのと同じ人だろう。ユリウス総帥の弟だという人だ。

 晴が言われたまま男とは反対の方を見ていると、少しの沈黙のあとゆっくりと男は喋り出した。何か重大なことでも話す時のような、重々しい口調で、そのくせ男はただの独り言であるかのように喋り続けた。


 晴はただそれを黙って聞いた。口を挟むことも、相槌を打つこともしなかった。ただ、ひたすらに耳を傾けた。


 正直、男の話が事実なのかどうかは晴には測りかねた。事実のような気もするし、事実ではないような気もする。男の話を1から10まで信じることはできないし、仮に男がごく親しい人間だったとしても1から10を信じることはできなかっただろうと思う。それだけに男の話は現実味に欠けていて、まるで誰かの空想や妄想を都合のいいように現実に当てはめたような、そんな感覚を覚えた。

 ただ、その一方で、真実ではあるだろうと晴の直感が告げていた。それは男の口調からかもしれないし、男が作り出した重苦しいような、それでいて少しの希望が差し込んでいるようなこの場の空気のせいかもしれない。もしくは、ただ単に男の存在が――ユリウス総帥の弟という存在がそういう気持ちにさせているだけなのかもしれない。それでも、やはり男の告げた話が真実であるように思う。そこには根拠も道理もない。ただ、役に立つのかさえ分からない直感というやつが、男の話は真実であると晴に告げていた。

 どちらにしろ、曖昧だったのだ、男の話は。酷くどっちつかずだったのだ、全部が。重々しい口調で、真実味に欠けた妄想論とでもいうべき暴論を男は吐いた。さも重要なことを話す口調で、現実味のない話を男は晴に話したのだ。それゆえに曖昧で、分かりづらく、どっちつかずだった。だから晴は測りかねたのだ。直感を今一つ信じ切れずにいるのだ。


 晴は男の話を黙って聞いた。何か特別な使命感に掻き立てられたわけでも、底知れぬ疲労感が残っているがゆえに口を開けなかったわけでもない。男の口調が口を挟むことを拒んでいたのだ。


 男は少しの沈黙の後、大きく息を吐き、ゆっくりと、慎重に言葉を選びながら話始めた。「運命」と言う単語から始められた曖昧で、容易には受け入れ難い男の話は部屋をほのかに照らすロウソクの火が消えても止むことはなかった。

 お疲れさまです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 お暇な方はもう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。


 今回は晴の夢の話をメインにさせて頂きました。この夢がこの後どんな意味を持つのか、持たないのか。多少は考えてありますが、大したことないので「ああ、そんなのがあったな」程度に覚えておいてください。


 次回はユリウスの弟(まだ名前はつけてないです…)の話す話の話になります。この話で明かされるかもしれないこと、この話が指し示すかもしれない未来、大変曖昧な表現になってしまいましたが、是非次回も足を運んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。


 また、私自身大変気分屋な性格で、次回からこの長ったらしいタイトルの方を変更させていただきます。その点についてもご容赦いただきますようお願い申し上げます。


 それでは次回は来週の金曜日掲載の予定です。あくまで予定なので早まることがあるかもしれないです。


 後書きはこの辺にさせて頂きます。

 気が向いたらでいいので来週も足を運んでいただけたら幸いです。

 作者の稚拙な文にお付き合いいただきありがとうございました。

 それでは失礼します。

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