第7話:熱狂の陰
「はい、わたあめ二つ、お待たせしました!」
文化祭当日の教室は、熱気と歓声で満ちていた。
私たちのクラスの「手作りわたあめ店」は大盛況で、廊下まで長い列ができている。
「おい、ザラメの補充頼む! あと割り箸が足りねえ!」
クラスのリーダーである遠野は、持ち前の行動力で右へ左へと大忙しで指示を飛ばしていた。
そんな喧騒の真ん中で、わたあめ機は朝からフル稼働を続けている。
ゴオオオ、と激しい音を立てて回転皿が回り、火傷しそうなほどの熱気が周囲に立ち込める。
その熱源の前に立ち、ひたすら割り箸を回し続けているのが、朔だった。
「朔、少し休む? ずっと代わってないでしょ」
私が心配して声をかけると、朔は額に汗を浮かべながら、ふっと柔らかく微笑んだ。
「大丈夫。人間のみんなが、僕の作った白い塊を食べて『美味しい』って笑ってくれる。それがなんだか、すごく温かく感じて嬉しいんだ」
そう言って、朔はまた器用に割り箸を回し、大きく白いわたあめを作っていく。
遠野は大忙しで周りを見て回っているけれど、さすがに個々の細かい異変までは気づけない。
そして私も、目の前の接客やザラメの準備に追われ、何より朔が「大丈夫」と笑ってくれるから、どこかで安心してしまっていた。
誰も、気づいていなかった。
フル稼働するわたあめ機が放つ熱量。
そして、人々の笑顔に触れて、愛おしさで激しく燃え上がる朔の「芯の熱」。
その二つの熱に挟まれて、彼の身体に限界が訪れていることに。
朔がわたあめを一つ、子供に手渡した瞬間だった。
彼のシャツの袖から覗く手首が、一瞬、完全に透明になって向こう側の景色を透かした。
(あ……)
朔は自分でそれを察し、慌ててポケットに手を突っ込んだ。
彼の背中からは、昨夜遠野が見たという「光の粉」さえ、もう出ていなかった。
溶けて、消えていくための羽が、もうほとんど残っていないのだ。
光を放つことすらできず、彼の存在そのものが、この世界の空気の中に気化するように消えかけようとしていた。
「遠野! 次のザラメ持ってきて!」
「おう、すぐ行く!」
遠野の威勢のいい声が響く。
教室の中は、今が熱狂のピークだ。
みんなが笑っている。
みんなが楽しそうに、口の中で一瞬で溶ける甘いわたあめを頬張っている。
その楽しげな世界のすぐ隣、私と遠野くんのすぐ目の前で。
朔はただ一人、静かに、この世界から完全に消え去ろうとしていた。
(第7話・おわり)




