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わたあめ  作者: 天月 和宙 -sora-


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2/20

第2話:芯の熱


 お祭りの翌週。


 私は放課後の誰もいない家庭科室で、文化祭のために借りてきた古いわたあめ機を前にしていた。


 窓の外からは、部活動に励む生徒たちの掛け声や、夕暮れの乾いた風が吹き込んでいる。


 ステンレス製の丸い投入口に、静かにザラメを流し込む。


 スイッチを入れると、ゴトゴトと重く、どこか懐かしい振動を伴う音が室内に響き渡り、やがて熱せられた甘い香りと共に、細く白い糸を引き始めた。


 割り箸を手に持ち、私は中心の回転皿へとそっと近づけていく。


あつっ……」


 わたあめを作るという行為は、幼い頃に見たお祭りの楽しげな様子よりも、ずっと繊細で、どこか危うい。


 中心にある回転皿は、油断すればすぐに火傷しそうなほど熱せられ、激しい熱を絶え間なく放っている。


 その熱と静かに対話するように、少しずつ、少しずつ白い糸を絡め取り、塊を大きくしていくのだ。


 熱を恐れて離れすぎればまとまらず、近づきすぎればしぼんでしまう。


「器用だね、人間は」


 背後から、耳に心地よい静かな声がして振り返ると、いつの間にか彼――さくが窓際に佇んでいた。


 夕日に照らされた彼の輪郭は、先週のお祭りの夜よりもさらに淡く、制服のシャツ越しに見える背中が、どこか光に溶けて透き通って見えた。


「これ、中心がすごく熱いんだよ。油断したら、本当に火傷しちゃうの」


 私が割り箸を動かしながらそう言うと、朔はゆっくりとわたあめ機に近づき、その激しく回転する熱源をじっと見つめた。


「僕たちの命の生まれ方に似ている」


 彼はぽつりと、愛おしむように呟いた。


「僕らの世界の生き物はね、強烈なひかりの熱から生まれるんだ。熱くて、眩しくて、触れればすべてを消し去ってしまうほどの純粋な熱。そこから生まれ、その圧倒的なひかりを優しく包み込み、調和を保つようにして、僕らはこの白い羽を美しく大きく育てていく。熱をただの破壊にせず、命の輝きに変えるために羽があるんだ。」


 彼は寂しそうに微笑み、自分の少し透け始めた手を、そっとわたあめの熱にかざした。


「じゃあ……」


 私は割り箸を回す手を止めずに、彼を見つめた。


「あなたの羽が溶け始めているのは、その『調和』を失いかけているからなの?」


「いや、逆だよ」


 朔は私の一歩手前で足を止め、その澄んだ瞳で真っ直ぐに私を見た。


「人間であるきみに出会って、きみの手の温かさを知ってしまった。あの日、きみが僕の羽を美しいと言ってくれた瞬間から、僕のなかにきみへの想いが灯ったんだ。きみに触れ、きみを愛しいと想うたび、僕の芯にある熱が、今までになく激しく、純粋に燃え上がるのを感じる。……あまりにその熱が強く、尊すぎて、外側の羽が耐えきれずに、世界へ溶けていってしまうくらいに」


 その言葉が、私の胸の奥を激しく締め付けた。


 私と出会い、私たちが惹かれ合うからこそ、彼はその身体を削られていく。


 私が彼を愛し、彼が私を愛そうとするその優しさに呼応するように、彼の美しい白銀の羽が、役割を終えるように一枚、また一枚と静かにほどけ、光の粒子となって世界へ還っていくのだ。


「だったら、私は……あなたと離れた方がいいの?」


 私の声が、情けなく震えた。


 これ以上、彼を失いたくない。


 彼の羽を、存在を、私のせいで消したくない。


 そんな恐ろしさと戸惑いが、私の心を支配していく。


 けれど、朔はゆっくりと首を振った。


 そして、火傷しそうなわたあめの熱をかわすように、そっと私の手の上から、両手で包み込んでくれた。


「離れたくない。人間は、火傷しそうな熱さと調和しながら、こうして大きな、甘い塊を作っていくんだろう? 僕も、きみと一緒に進みたいんだ。この羽がすべて溶けて、ただの熱そのものになってしまうとしても。きみを愛する熱を、僕は手放したくない」


 彼の重ねた手は、お祭りの夜の冷たさが嘘のように、驚くほど熱かった。


 機械のゴトゴトという音の向こうで、彼の背中から、光る白い羽の破片がふわりと剥がれ落ち、わたあめのように儚く空間に溶けて消えていくのが見えた。

 

(第2話・おわり)


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