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わたあめ  作者: 天月 和宙 -sora-


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10/20

第10話:永遠へ共に


 視界が涙でぐしゃぐしゃに歪み、立っていることすらできなくて、私はその場に膝をついた。


 遠野くんが焦ったように私の肩を支え、そして私の目の前に、そっとあの白銀に輝く雲のようなわたあめを差し出した。


 夕暮れの教室の隅で、絹よりも繊細な糸をまとったわたあめ。


 言葉なんてなくても、それが朔の残した最後の温度なのだと、痛いほど伝わってきた。


 私は涙を拭うことも忘れて、震える手でそれを受け取り、すがるように口へと運んだ。


 一瞬だった。


 私の口内で、それは優しく、包み込むような温かさを持って、跡形もなく溶けて消えた。


 胸の奥に直接流れ込んできたのは、言葉にならないほどの優しい熱。


 私と出会えたことへの感謝、私を愛おしいと思ってくれた、朔のどこまでも温かく純粋な「想い」そのものだった。


「……っ、うあ……ぁ……っ」


 その熱があまりにも優しくて、胸を刺すような寂しさが激しさを増す。


 こんなにも愛してくれたのに、どうしていなくなってしまうの。


 あふれ出す涙は熱く、頬を濡らしながら零れ落ちていく。


 彼の想いを感じれば感じてしまうほど、彼がもうどこにもいないという現実が、容赦なく私を打ちのめす。


「……ありがとう、朔……っ、ううん……行かないでよ……っ」


 感謝と、溢れ出す引き止めたい思いがぐちゃぐちゃに混ざり合って、声にならない嗚咽になった。


「……行くぞ」


 遠野くんがかすかに声を震わせながら、私の肩をポンと叩いた。


 その目は少し赤かった。


「あいつが遺した特等席の雲……見に行ってやろうぜ」


「……うん……っ」


 私は何度も目元を拭いながら、立ち上がり、遠野くんの後を追って夕焼けが広がる校庭へと出た。


 空を見上げると、燃えるような夕焼けの向こうにあった真っ白な『記憶を蓄える雲』が、夕暮れの風に揺れていた。


 朔が遺した、最後の記憶の破片。


 ただ風に吹き飛ばされて消えてしまわないように、私は涙で濡れた両手を、そっと空に向けて掲げた。


(消えないで……私の中に、いて……)


 祈るように強く願うと、風に解けかけた白い雲の粒子が、夕空の光を纏いながら、まるで私の差し出した手へと引き寄せられるように、ふわりと舞い降りてきた気がした。


 目に見える姿は風に溶けていっても、そこに込められた朔の感情や愛おしさは、空へ逃げていくのではなく、私の身体の中へ、胸の奥へと確かに吸い込まれていく。


 悲しくて、胸がちぎれそうで、涙はちっとも止まってくれない。


 これから先、一人で歩く道で、甘い匂いを嗅ぐたびにも、きっとこの胸の痛みが消えることはない。


 だけど、朔が遺してくれた記憶も、想いも、最後の熱も、全部私が私の中に抱きしめて生きていく。


「……バイバイ、朔。……ずっと、大好きだよ」


 空に溶けていく雲と、私の中に満ちていく熱を感じながら、私は涙で霞む視界の中、深く息を吐いた。


 吹き抜ける風には秋の涼しさに交じって、昼間の熱気を残したぬくもりが少しだけ含まれていた。


 泣きじゃくる私の胸の奥と、どこか似ているその風を感じながら、私は彼から受け取った確かな記憶の熱を抱きしめていた。


(第10話・おわり)

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