第三話 ②
「ハアハア…」
正直今私はすごく後悔してる。
メイお姉ちゃんの安い挑発に乗って、一対一の勝負を受けてしまったことをだ。
この前、身体能力では私に敵わない…
私が普通に使える分身の術も使えないって聞いた時は冗談だと思ってたけど……
さっき少しだけ一緒に走ったメイお姉ちゃんは本当に私についてくるのがやっとのレベルだった。
だから私は調子に乗って少しメイお姉ちゃんをおちょくってしまった。
もちろん本気じゃないし、いつもの軽口のつもりだったんだけど…
それでメイお姉ちゃんが怒っちゃって…
いや今思えば、あのバテバテ姿も私を勝負に誘い込むための演技だったかも…
そうして今、私とメイお姉ちゃんは
木がいっぱい生えたこの山の中で忍者同士としてやり合っているところなんだけど…何で!?
私間違いなく気配を消してるはずなのに…
少しでも立ち止まると足元にメイお姉ちゃんのクナイが確実に飛んでくる。
それに私と違ってメイお姉ちゃんは
気配の消し方が雑で、消えたかと思ったら簡単に感知できるぐらいにはダダ漏れになったりしてるのに……
それでいて居場所が全く掴めない。
何だろう?
全力で走ったさっきよりすごい疲れてきた気がする。
そんなに時間が経ったのかとスマホをポケットから出してみて、
私は驚いた。
「嘘!?まだ10分も経ってない…」
こんなに息が切れて汗もたくさん出てるのに?
「どうした?もうバテたのか?」
すぐ背後からメイお姉ちゃんの囁き声が聴こえた。
私は慌てて振り向くけど、
そこにメイお姉ちゃんの姿もないし、気配も感じられなかった。
なにこれ?
本当にどうなってるの?
私は必死にその場から大きく跳んで、そのまま山の中を駆ける。
(どうする…どうしよう)
ヤバい…全然考えがまとまんない。
その時に、
私の進行方向のちょい右方向にメイお姉ちゃんの気配を感じた。
(こうなったら!)
私は覚悟を決め、立ち止まり、
その気配に向かって全力で手持ちのクナイを全て投げる。
そして投げ終わると、
その背後にメイお姉ちゃんがクナイを手に現れて、それを私の首筋に当て
「手持ちの武器全て使い切るのは愚策だぞ…」
と勝ち誇ってる。
(かかった!)
昔おじいちゃんが教えてくれた。
「勝ちを確信した時こそ人はいちばん油断する」
って!本当にその通りだ。ありがとうおじいちゃん。
メイお姉ちゃんに背後を取られた私の姿が歪んで消える。
それはさっき出しといた分身だよ。
私はその様子を木の上から確認して、
そのままメイお姉ちゃんに飛びかかった。だけど…
「『勝ちを確信した時こそ人はいちばん油断する』親父殿の口癖だったな。」
ううう…本当にその通りだ。
メイお姉ちゃんは全部わかってて、
上から雑に飛びかかった私はあっさりかわされて、
今地面に組み伏せられてる。
「なっ?そんなに時間かかんなかったろ」
いつもの優しいメイお姉ちゃんの笑顔だ。
「うん。私の完敗だよ…やっぱりメイお姉ちゃんはすごいなあ」
私は負けを認め、メイお姉ちゃんに笑顔を向ける。
「デヘヘ…そうだろう、そうだろう。お姉ちゃんはすごいんだぞ」
デレデレの顔で私への拘束を緩めてくれるメイお姉ちゃん…
バカめ!相手が負けを認めたぐらいで勝った気に…
「『負けを認めさせたぐらいで勝った気になるな』これも親父殿の口癖だ」
メイお姉ちゃんは体を反転させて反撃しようとした私の喉元にクナイを突きつけて、
笑顔のままそう言った。
本当に完敗だ…
「今度こそ参りました…」
そう言って私は両手を上にあげた。
「うん♪」
にっこり笑顔のメイお姉ちゃん。
「ねえ、バテバテになってたのも演技?」
山を出て、近くのコンビニで買ったスポーツドリンクを2人で飲みながら、
私はメイお姉ちゃんに聞いてみた。
「いやいや、本当にあさひについてくだけで精一杯だったよ。
あんな動けるなんてあさひはやっぱりすごいな」
そう言ってくれるけど、
それだと勝負で全く手も足も出なかったのが余計に不思議に思えちゃう。
「この前も言ったけど、私にはあさひや姉さん、ましてや親父殿のような才能はないんだ。
だけどさっきみたいにやりようはあるのよ。」
私が納得いかないって顔してたのか、
そう言いながらメイお姉ちゃんは頭を撫でてくれる。
「でも何で?さっき私はちゃんと気配消してたのに、メイお姉ちゃんはあんなに簡単に私を見つけられたの?」
「ああ、それな。私らの組織だけが使える最新の位置情報システムがあってさ。もちろん詳しくは言えないけど、それ使えば対象者のスマホの位置情報がミリ単位でわかるんだ」
そうやって自身のスマホ画面に映し出された地図アプリみたいなものを見せてくれた。
「は?そんなのズルじゃん!?」
私は思わず文句を言ってしまったが、
「そうだな。かなりのズルだけど、忍者なんだからそれぐらい当たり前だろ?」
涼しい顔でまあ抜け抜けと…
「じゃあ、気配を察知しても全然違うところにいたりもなんかズルしてたの?」
ちょっとムキになってさらに聞いちゃった。
「いや、あれはお前がマヌケなだけだよ」
そう言われて私はムッとして口をへの字してメイお姉ちゃんを睨みつけた。
「そう睨むなって。説明してやるからさ。理屈は簡単。
あさひは気配感知もかなり優れてるけど、
でも大きな気配を感知すると、そこに意識を全て向けちゃう癖があるだろ。
だからわざと感知されるように一瞬だけ気配遮断を解くんだ。
そしたらあさひはそこに意識を集中するから、
また気配遮断してさっきみたいに背後に回り込むってわけ。」
簡単に言ってるけど、それってすごくない?
やっぱり次期当主は伊達じゃないってことか。
…見た目は平成初期のガングロ女子高生だけど。
「さて、そろそろ戻るか。
澄夏ちゃんとのデートに遅刻しちゃうわけにいかないだろ?」
メイお姉ちゃんはそう言って私に手を差し伸べてくれた。
私はその手を掴むと…
そのまま全速力で走ってやったさ!
後ろから
「ちょっと…ムリムリ、そんな引っ張っちゃダメだって!足がもつれるぅ!」
とメイお姉ちゃんの焦った声が聞こえてくる。
フフフ。
これで一勝一敗だ。




