第10話:素振り
朝食を摂った後は、リアと一緒に庭に出た。
空は晴れていて、空気が澄んでいる。稀にみる気持ちの良い朝だった。……二日酔いさえなければだが。
『頭痛が痛い』と重複表現したくなるくらい辛いのだが、日課の素振りをこなすことにした。
昨日は色々とあって素振りができなかったが、実戦の連続だったのでやったも同然だ。……そう思わないと、連続記録が途絶えたショックから立ち直れそうにない。
いつもの日課と違うのは、今日は隣にリアがいるということである。
「さて、朝からリアを連れ出したのは俺と一緒に素振りをやってもらうためだ」
「素振りってアレルが毎日やってるアレのこと?」
「そうだ。これを毎日続けることで攻撃力を鍛えられる」
「本当に、冒険に出るのね」
俺はリアと約束した。リアが十五歳になってスキルをもらったらこの村を出て、一緒に冒険をしようと。普通結婚をしたらどこかに腰を据えて家庭を築くものだ。だが、そんな常識を捨ててでも、俺は冒険をしたいと思った。
外の世界を見てから、もっとこの世界のことを知りたいと思った。俺は転生してから、村を出たのは昨日の一日しかない。
リアにも外を――広い世界を知ってほしい。この村だけで一生を過ごすのではなく、二人で色々な場所を巡って、絆を深めていきたい。そう思った。
「もちろんだ。リアは死んでも俺が守る。……でも、俺はリアとずっと一緒にいたいから。そのためにはリアにも強くなってもらわないといけない」
「私がアレルを守ってあげればいいのよね?」
「俺がリアを守るんだから、リアが俺を守る必要はないよ」
「いいえ、それはおかしいわ。私だけ守ってもらうのはおかしいわよ!」
「ええと……でもリアは女の子だしさ」
「は?」
リアが珍しく怒った顔になった。眉間にしわを寄せて、腕を組む。
え? なんか俺おかしなこと言っちゃった?
「男とか女とか関係ないでしょ。アレルは私のことをパートナーって言ったよね。パートナーに男女の区分けはあるのかしら?」
「……ないです」
「そうよね。つまりどういうことかわかる?」
「俺がリアを守るのは間違ってるってこと……だよな?」
「全然違うわ」
リアははぁと溜息をついて、
「私のことはアレルが守って。その代わりにアレルのことは私が守ってあげる。それがパートナーってものでしょ?」
男女の間には生まれ持ったステータスの差があるのだから、同じ責任を負うのは無理がある。男らしいところ見せようとしたのになんで怒られてんだろう……。
でも、文句言ったらまた怒りそうだしな。
「おっしゃる通りです」
「そうよね。……というわけで、早く素振りを教えて頂戴」
「えっと、じゃあ俺が素振りを教えたらパートナーのリアは代わりに何か教えてくれるってことか?」
「もちろんよ。掃除のやり方とか食器の洗い方とか、私に教えられるものはたくさんあるわよ」
「それ教えたら俺にやらせるつもりなんじゃないのか!?」
「パートナーなんだから家事も分担するのが当然でしょ?」
「……おっしゃる通りです」
自分が情けない。これではまるで典型的な嫁の尻に敷かれる旦那じゃないか。もっとこう、威厳がある旦那をやってみたかったんだが、俺には無理そうだな。
なぜこうなった……。
「えーとじゃあまず素振りの姿勢は――――」
リアが自分で素振りをできるように教えつつ、俺も日課のノルマを消化するのだった。




