第9話:お酒
周りには村の人たちがまだたくさん残っている。会話の内容までは聞かれてなかったはずだけれど、盛大にキスをしていたら、嫌でも目に入るわけで……。
「アレルお坊ちゃんとリアお嬢ちゃんが!」
「唇と唇で!」
「キスしているだって!?」
そんな声が聞こえてくると途端に恥ずかしくなって、そっと唇を離した。
リアは苦笑いを浮かべている。
勝手に盛り上がっている村人を見かねたのか、父さんが皆の前に出てきた。父さんはちょっと変わり者だけど、この村を治めている貴族なのだ。きっといい具合に事態を鎮静化してくれるに違いない。
「みんな聞いてくれ。この度、うちのアレルとリアが結婚することになった。祝福してほしい! ……と、そういうことで今日は二人の婚約祝い! ……とついでに魔王撃退祝いの宴をやるぞおおお!」
「おおおおおおおお!!」
「さすがはシリウス様だ!」
「ヒューヒュー!」
……と、思っていたら余計に凄いことになってるんですけど!
っていうか、村の人たち歓迎ムードなのな!?
「……なんか注目されちゃったな」
「でも、反対されるよりはいいかも」
「それはまあ、そうだな」
村人の中には俺たちの結婚を良く思わない者もいるだろう。形だけでも喜んでくれるのは、父さんが村人から慕われているからに他ならない。
こんなに注目されるのはしんどいところもあるが、リアの言う通り反対されるよりはずっといい。
俺はリアと手を繋いで、宴の会場まで歩いた。
◇
うう……気持ち悪い。
この世界では十五歳で成人を迎える。成人になると、お酒が飲めるようになるのだが――俺は酒が弱かったらしい。
飲んだのはコップ一杯のビール。
正直苦いだけで美味いとは思わなかった。コーラの方が絶対に美味しい。
砂糖を入れたら甘くなるのか? ……と思ったが残念ながらこの場にそんな便利なものはなかった。
「アレルぅ、もう飲まないのかぁ?」
父さんが酒瓶を片手にお代わりを勧めてくる。
うぜえ、いらねえ。まったく、これだから酒飲みはいけない。
無視しておくことにする。どうせ明日になったら忘れてるから問題ない。
「アレル、私がもう一杯注いであげようかしら?」
隣に座っていたリアが酒を勧めてくる。
「もちろんだ。よろしく頼む」
「やれやれ、仕方がないわね。感謝なさい」
そう言って、リアがコップ一杯のビールを注いでくれた。
ゴクゴクと味わって飲んだ。
「うまいっ!」
リアが注いでくれたビールは、コーラよりも美味かった。
「うおっアレル飲んでるじゃねえか! 俺の酒は飲めないのにリアの酒は飲むってのかぁ!?」
父さん、めちゃくちゃ悪酔いしてる。
「当たり前だろ!? 父さんの酒とリアの酒なら迷うまでもねえ!」
あ、俺も悪酔いしてるわ。
「カァーッ、お前やっぱり俺の子だな!」
父さんは嬉しそうに叫ぶと、母さんからまた酒を注いでもらってさらに上機嫌になった。
完全に泥酔した俺はいつの間にか意識を失っていた。
◇
目が覚めると、すっかり外は暗くなっていた。昼から飲み会をしていて酔いつぶれたので、起きても朝にはなっていなかったようだ。
とはいえ、まだ完全には酔いが醒めていない。
俺は自室のベッドで寝かされていたらしい。
「アレル……起きたの?」
「リア?」
俺の婚約者であるリアの声がした。なぜか彼女は俺のベッドに潜り込んでいたらしい。
「アレル、これは夢なのよ。あなたのしたいようにしなさい」
「俺の……したいようにする?」
「そうよ。私はあなたの婚約者……ほら、触っていいのよ。胸とか」
夢の中のリアは、胸を触っていいのだという。
確かに、普段のリアなら絶対にこんなことは言わない。俺の妄想の中のリアはなんというか……えっちだった。
まったく、俺はなんて夢を見てるんだよ。……ナイスすぎる!
夢なら迷惑をかけることはないと確信し、俺はリアの胸を弄った。
そして、その後の記憶はない。
なんかとても気持ち良かったような気がする。……良い夢だった。
朝、目が覚めると隣にリアはいなかった。
やっぱり夢だったんだという虚しさが半分、夢で良かったという思いが半分だった。
ただ、朝食前にリアが言っていた「ちゃんと責任とりなさいよね」の意味だけがわからなかった。




