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セイギノヤカタ  作者: 蝟太郎
第一話
8/14

【7】敵を蹴散らし、戦車は暴れる





 首元に当てられた冷たい鉄の塊に私は泣きそうになっていた。

 いえ、だって銀行強盗に捕まったと思ったら、よく分からないヒーローが登場して、強盗達に無双した挙句、強盗も変身して私を人質にしている何て状況に陥ったら、大抵の人は格好悪く泣きだしたくなるんじゃないかと思う。



 敬語で喋る銀行強盗にナイフを押し付けられ、私は涙目でロボットさんと白虎さんの方に縋る様な視線を向けるが、私が人質になっている以上迂闊には動けない様だ。


 ナイフを突きつけてきている強盗は、少しだけヒーローさんたちと距離をとると、白目を剥いて倒れており偽ヒーローを蹴りつけるようにたたき起こす。


「ぐっ、……何が?」

「お目覚めですか? いい感じで人質が取れてますよ。プランBですね」



 口から血を吐き、ぷるぷるする足で立ち上がる偽ヒーローに、強盗はそう答える。その強盗の言葉を聞いて、そして周囲を確認し、そして偽ヒーローは口をにやりと曲げる。


「くくく、そうかそうか。そりゃあ、最高の状況だぜ」



 現状を零れ落ちた血液を拭いながら、ヒーローさんたちへニヤニヤとした笑みを浮かべる。



「さあ、逆転だ。馬鹿な気を起すなよ? 俺はもう油断しねーよ? お前ら馬鹿みたいなんに足引っ張られるのも、ここまでだ。後は俺が華麗に金巻き上げて、てめーら馬鹿の悔しがってる顔を見て、大爆笑して、おしまいだ。馬鹿でもこれぐらい理解できるよな?」



 ヒーローと怪物の配合種みたいな気味の悪いダークヒーローがそう言って大笑いする。あれだけバカスカと殴られ、蹴られたのに全ての痛みを忘れたように、人質を取られ動けないロボットに向ってそう笑った。物凄くタフだ。


 先程までサンドバックの様に拳を叩きこんでいたロボットも、拳を下ろすしかなく。白虎の人も悔しそ

うに強盗達を睨みつけている。しかし、動く事は出来ない。


 先程の押せ押せムードが一瞬にして霧散し、形成は完全に逆転されてしまっていた。その原因はどう考えても私だ。上手い事して逃げ出せたら格好良いんだけど。


「動かないでください。首が落ちてもしりませんよ?」



 あ、無理だ。こんな状況から上手く逃げ出すなんて、物語の主人公クラスじゃないと不可能だ。少し動いただけで、微笑みを浮かべながら脅してくる銀行強盗に、私は全面降伏の意味を込めて両手を上げる。



 動くに動けない空気の中、再び軽快なあの音楽が流れ始めた。銀行強盗が持っていた携帯電話の音だ。さっさと出ろと歌い続ける携帯電話に、ダークヒーローにニヤリと笑みを浮かべた。



 何かがある。私がそう思ったその時、ロビーの天井に巨大な穴が開く。なんだ!? 爆発か!?


 その衝撃は強く、ロビーが、この銀行が音を立てて揺れる。驚く私の目に見えたのは、天井の穴から降りてくる縄梯子。スパイ映画のような状況だった。



「っちい、逃がすか!」


 振動による一瞬の隙をつき、白虎がそう叫んだかと思うと、いつの間にか私の隣で強盗のナイフを蹴りあげていた。ナイフが無くなった手を見ながら男は小さく微笑む。



「あらら、やっぱり私では10秒も持ちませんでしたか」

「いや、10秒持っただけで大したもんだよ! だから、さっさと眠りやがれ!」



 蹴りあげた足をそのまま力いっぱい落とす白虎。その一撃は物凄く力強いモノだったが、その踵が強盗の脳天に突き刺ささる事はなかった。

 何故なら、白虎の力強い一撃を強盗に当たる前に受け止めた人間がいたからだ。



 その男の姿は眩い蛍光色の黄色で、微かにゴムの臭いが漂ってきた。そして、男は白虎の踵落としを両手で受け止めながら、片言の日本語でこう喋った。



「危なイ、ジゃナイか」

 でたあああ、夢の黄レンジャーが出たああああ! 何で白虎だけじゃなく、黄色タイツも夢の中からテイクアウトされてるのよ! お持ち帰りした覚えないよ! 今すぐ夢の国へ帰れえええ! というか、お願いだから、帰ってくださいよおお!



 縄を伝って次々と降りてくる大量の銀行強盗の中に紛れてやってきた黄レンジャーに、心の中で大絶叫を上げる私。



「おイ、取リ合エず、アノ二人をヤれ」



 しかし、そんな私の絶叫など露知らず、黄レンジャーは再び繁殖した大量の銀行強盗に向ってそう指示を出す。



「っちい、また増えやがった! 雑魚も集まればうっとおしい!」

「うだうだ遊んでる時間はもうないな!」


 舌打ちをしながら、白虎は襲ってくる強盗達を蹴り飛ばし撃退しつつ、人質の安全を確保し始める。それに同調するように、ロボットも次から次へと湧いて出てくる銀行強盗達に右のストレートを叩きこみ、狂った様に嗤うダークヒーローや群れて襲ってくる強盗達と戦い始める。



「ぎゃはははは、死にやがれ、馬鹿が!」

「遊んでる時間はねーって言ってるだろうが!」



 ロボットに向って突進するダークヒーローもどき。そして、それを拳で迎え打ちカウンターを叩きこむロボット。更には夏場に大きな石をひっくり返すと出てくる虫達の様にワラワラと銀行強盗が現れ、白虎達に向って行っては弾き飛ばされていく。



 ロビーの中は一瞬にして大混乱状態に戻ってしまう。



「えっと、あの、何で仲間がこんなに死屍累々してるのかな? というか、現在進行形で何が起きてるのか理解できないんだけど?」



 そんな中にキツネ面をつけた緑レンジャーまで空から降りてきた。

 これであの黒い服を着た人さえ出てくれば、ワースト一位の悪夢の登場人物を全てコンプリートしてしまう。夢が現実になるとしても、もっといい夢があったの筈なのに! もっと、夢とか希望とか少女の妄想がキラキラと散ばされた夢を現実にしてくれた方がいいのに!



「何があったと言われても、勇者が中ボス戦に挑みに来たといった所ですかね」



 100人以上いた銀行強盗達が折り重なって倒れている姿を見て、軽く引いている緑レンジャーに、ニコニコと微笑みながらナイフを持っていない銀行強盗がそう答えた。でも、そんなRPGみたいなわくわくドキドキのイベントは無かったよ。あったのはもっと暴力的な出来事だったよ。



「あれ、えっと。ごめんね。言っている意味が、えっと、分からないんだけど?」



 首を傾げて頭の上にクエッションマークを浮かべる緑レンジャー。その反応に銀行強盗はくすくすと笑いながら答える。



「どっちにしても、このまま帰った方がいいって事ですよ。お金も仲間も諦めましょう。例の物は手に入れましたし、こちらとしては目的を果たしていますし」



 あっさりとそう答え、戦意を失ったように落ちていたナイフを拾うと懐へと直す。未練も何も無さそうに武器をしまう男に、私は微かな希望を抱く。もしかして、これって助かるんじゃないの?


 このまま人質を置いて逃げかえってくれるなら、それほど嬉しい事は無い。後はもう今日は厄日と嘆きながら、ベッドに転がれれば、それで充分だ。ほっと安堵のため息を吐き出す。


 その時、私はふと何かを感じ視線をそちらに向けた。すると、こちらをじっと見ているおかめを被った黄レンジャーと視線が合った。



 え、何でこっち見てるの? 何で芽生えたくない何かを芽生えさせようとしている様な濃い視線でじっとこっちを見てくるのよ。じっと私の方を見てくる黄レンジャーに、私は因縁をつけてきたチンピラから視線を避けるように明後日の方角を凝視する。



 何とか視線を合わせないようにしようとする私。しかし、黄レンジャーはしばらく思案顔であったが、ふと思い出したように私を指差すと言った。



「オ前は、織戸利 夏海だナ」



 何で思い出してるのよおおお!? 私の事を指差してくる黄レンジャーに、私は心の中で泣きそうになる。もう帰ってくれていいじゃない。何で私だけがこんな非現実的な出来事に巻き込まれてるのか分からない。もはや、これも夢な気がしてきた。目を覚ましたら『まだ私の休日は始まったばかりだ !』的な感じになる筈な気さえしてきた。



 しかし、そんな私の現実逃避気味な思考など気にする事もなく、黄レンジャーの言葉に緑レンジャーが驚いた様な声を上げる。



「あの、えっと本当だね。これはラッキーでいいのかな? でも、この子に取ったら運が悪いって事だよね。えっと、ごめんね」



 何故か私に向って謝ってくるキツネ面の緑レンジャー。え、私達は助かるんじゃないの? このまま帰ってくれて事件終了しないの? ポカンと馬鹿みたいに口を開けている私に黄レンジャーは小さく肩を竦める。



「アあ、そウダな。取リ合エず、こイツハ連レて行クぞ」



 何でえええええ!? 突然の言葉に私は驚きを隠せなかった。頭では逃げようとしているのに、身体が反応せず腰が抜けた様にその場から動けない。そんな格好悪い私に、黄レンジャーの丸太程もある巨大な腕が私に向って飛んでくる。恐怖で声もあげる事が出来ない。



「やらせるかああ!」



 そんな強盗達の異変に気がついたのか、周囲の銀行強盗を弾き飛ばしながら白虎が私の下に向うと、すぐに黄レンジャーの腕を蹴り飛ばす。数メートル程飛ばされた黄レンジャーは、吐き捨てるように白虎へ叫ぶ。



「まタオ前ガ邪魔をすルンダな」

「昨夜は取り逃がしたが、今度は捕まえてやるよ。黄色おかめの変態仮面!」



 白虎が蹴りを放ち続け、その蹴りを黄レンジャーがガードを固め、耐えきろうとする。何とか助かった事に私は安堵するが、今度は緑レンジャーが手を伸ばしてくる。



「えっと、それじゃあ、僕が」



 拳銃をこちらに向けてくる緑レンジャーに、どこからか瓦礫が飛んできた。その方向に目をやると、そこにダークヒーローと戦いながら、ロボットが落ちている瓦礫を投げ続けてくる。



「人質には手をださせない、緑のキツネは赤くなって出直してくる事をお勧めするよ!」



 次から次へと瓦礫を連投し続けるロボットの弾丸に、緑レンジャーは慌てて避けまくる。右手で瓦礫を投げ、左手でダークヒーローの拳を捌きくという凄まじい忙しさをするロボット。



 飛んでくる瓦礫が邪魔をして、こちらに来る事の出来ない緑レンジャー。そんな緑を見て安堵する。そんな様子を眺めながら、あの敬語の銀行強盗は小さく苦笑を吐き出す。



「どっちもこっちも色々と手いっぱいの様ですね。手が空いているのは私だけですか。まあ、私は目的を達しているので問題ないのですが」



 諦めたような声を出す銀行強盗。

 これは助かるかもしれない。強盗の言葉に、本日何度目かの安堵の表情を浮かべる私。そんな私に、銀行強盗はニコニコと笑うと、胸元から般若の仮面を取り出した。

 緑レンジャーのキツネの面や、黄レンジャーのおかめと同じ様な仮面。それを強盗マスクの上から顔へ装着する。あれ、何で変態レンジャーみたいになってるの?



「それでも私はこう見えても四天王の三番目ですから、やる事はやらないといけませんね」



 驚きで口をパクパクと動かす事しか出来ない私に、男はしばらく顔に着けている仮面を調節しながらそう言うと、懐から再びナイフを取り出した。



「さて、今回はこれだけで我慢しましょうか」



 ナイフが一閃される。一体、何が起きたのか分からなかった。痛みは感じない。血が吹き出る様子も感じとれない。ただ、何か大切なモノが私の身体から零れ落ちたのを本能が理解していた。





 その時、私の首が転がり落ちていた。











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