表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギノヤカタ  作者: 蝟太郎
第一話
6/14

【5】敵を蹴散らし、戦車は暴れる




 甲高い音と共に、空を斬ったナイフを風香ちゃんが受け止める。

 それを見て、ナイフを振るった本人は残念そうな笑みを浮かべる。



「おや? 頬に掠った程度で、白い虎さんは殺れませんでしたか。残念ですね。後一歩近づいてくれれば、首を落とせましたが」


「なんだ、お前が中ボスって事でいいんだな?」


 当主を殴り飛ばし、苦笑する銀行強盗が振り下ろされた刃を、頭の上で掲げたそのメタリック色の右手で受け止めながら風香ちゃんはそう尋ねた。銀行強盗はナイフで、風香ちゃんの右腕と鍔迫り合いを行いながら苦笑交じりに答える。


「残念ながら、私はそんな絵に描いた様なヤラレ役ではありませんよ。私はあれですよ、何だかんだでラストまで生きている知性派の四天王の三番目ぐらいの立ち位置だと自認しています」


 苦笑交じりの風香ちゃんは小さく鼻で笑うと、右手に力を入れ受け止めていたナイフを弾き飛ばす。弾かれた威力を利用し、銀行強盗は大きく後ろに跳び距離をとった。



 再びナイフを構え直す銀行強盗に向って風香ちゃんは、拳を構える事もせずに小さく笑う。


「それは逆に瞬殺されそうな役所だと思うけどな。なら余計にやりがいがあるさ。なあ、スーパータイガー」


 意味ありげな目線を当主へ視線を向ける風香ちゃん。その視線に彼女に殴り飛ばされ、凶刃を避ける事が出来た当主は、頬から流れ落ちる血を舐め取りながらゆらりと立ち上がる。


 そして、当主は小さく口元を歪めた。


「ああ、そうだ。俺様を斬り殺そうとしたんだ。蹴り飛ばされる覚悟はできてるんだろうな?」


 射抜く様な殺気が男を貫く。野獣に睨みつけられる様な威圧感。常人には耐え切れる程の無い圧力。それは恐らく虎の怒りだった。


 自分を傷つけた事へと怒りか、それとも油断した自分への怒りか。どちらにせよ、空気を揺らす程の巨大な怒りの念が当主の中からにじみ出ていた。大人でも泣きながら逃げ出す様なそれを前に、しかし、それらを全て感じていない様に、男は小さく肩を竦めると、構えていたナイフを下ろす。


 そして、当主の血がついたナイフを玩びながらやる気の無さそうに答えた。


「そんなに恐ろしい顔を私に向けないで頂きたい。私は余りこういうのが得意ではないんですよ。それに四天王を倒すにはまず、」


 ハンカチを取り出し、ナイフの血を拭きとると、懐へと直した。武装を解除する銀行強盗に、当主と風香ちゃんは怪訝な表情を浮かべる。


 そんな二人に銀行強盗は小さく微笑むと、二人の背後を指差した。


「中ボスを倒さないといけませんよね?」


 その声と同時に、何かが立ちあがる音が聞こえた。


「くくく、お前らが馬鹿なんだぜ。馬鹿野郎がっ」


 痙攣する足で大地を踏みしめ、血を吐き出しながらリーダー格の銀行強盗は立ちあがったのだ。

 吐血し、目や鼻から血の混じった汁を垂らしながらも、男はまだ狂ったような笑みを浮かべ、目を怪しく光らせていた。


「この俺を怒らせたんだからな」


 おっと、これはヤバい感じだ。何かをしようとする強盗に画面の外で、僕は当主と風香ちゃんに今すぐ強盗を捕縛するように指示を送る。


「言われなくても分かってるよ!」


 指示よりも早く、風香ちゃんが男に向って駆けだす。当然、科学の粋を集めたスーパーヒーローのダッシュだ。

 相手が懐から何かを取り出す前に追いつき──、そうな場面でバク転!

 そんな風香ちゃんの足元に、ナイフが4本突き刺さる。


「おや、変身中は攻撃しないのがお約束ですよ?」

「そんなんもん知るかっ!」


 視線を向けると、当然そこには先ほどの銀行強盗。

 どこか嫌味たらしい笑みを浮かべる銀行強盗の言葉を尻目に、吐き捨てるように当主が突撃する。


 しかし、それよりも早く懐から何かを取り出すと、それを一切の躊躇なく飲み込んだ。

 滑り込みアウトで間に合わない。しかし、駆けた勢いのまま当主は飛び上がる。そして、そのままの勢いで男の顔面に飛び膝蹴りを入れた。


「おらあああ!」


 無防備な顔面にめり込む膝。吹き出る鮮血。

 ぐらりと倒れていく男を見て、今度こそ決まった様に思えた次の瞬間、男の体が鉛色の光に包まれ、その光が当主を弾き飛ばしたっ!


「くっ、おい! 何を飲みやがった!?」


 弾かれた衝撃をいなしながら、地面に着地した当主は驚いた様にそう叫ぶ。その問に光に覆われた男は気味の悪い笑いを零した。


「しらねえよ、馬鹿が。だが、馬鹿みたいに身体が軽い。随分と具合のいい薬みたいだな?」


 男が紡ぎ出した光は、球体になり男の全身を包み込む。

 それは徐々に彼の体にフィットする形へと変化していく。


 そして、光が男の体と重なった時、その光は衣装となり、その男を覆っていた。

 鉛色のマントにベルト。体は黒いタイツの様なモノに覆われており、顔はまるで覆面を被った様で相手の顔を窺う事ができない。


 全てが異物で覆われている。それはまるで、ヒーローの様だった。

 ただテレビに映っても子供達には人気のなさそうな怪人とヒーローを足して二で割った様な姿をしているけど。どちらかといえば、ダークヒーローよりだろうか。


「けど、間違いなくヒーローなんだろ?」


 僕が書き込んだ言葉に、風香ちゃんがそう尋ねてくる。


 うん、本物のヒーローだね。

 もうちょっと詳しく言えば、能力が向上する事の出来る特定の変身能力を有する知的生命体。「|効率的な強化生物に孵化させるアイテム《Hatch in Efficient Reinforcing Organisms》」を使用した生命体の事だね。


 だから、僕達が普段使う意味のヒーローとは、少し違った定義の意味でのヒーロー。

 単純な強化者ってところかな。


 向上する能力はそれぞれ違いはあるけれども、共通して言える事は生身の状態よりも数段潜在能力が上昇する事。恐らく、あのヒーローも人外の力を更に向上させている筈。


「おいおい、問題はそこじゃねーだろ」


 風香ちゃんの言葉に僕は頷く。その通りで問題は何故ヒーローに変身する事が出来たのかという事だ。変身する為には、三通りの方法がある。


 一つ目は、風香ちゃんや当主の様に道具を媒介にして変身する方法。

 二つ目は、一切の道具を使わず、己の中にある特定の感情を媒介にして変身する方法。

 三つ目は、肉体を改造し、遺伝子レベルから変身させるという元に戻れない一回きりの方法。


 今回の場合はおそらく三つ目の変身。

 薬で身体を変化させ、身体を遺伝子レベルで作り替えた様だ。


 ほかの方法よりはある意味お手軽な方法。

 変身に耐えられる身体能力があれば、例外なく強制的に身体を作り替える薬物。つまり、素体さえ揃えれば強化人間を大量に生み出せるという、現在の軍隊や警察組織に革命を起こすような薬なのだ。まあ、変身後の人体への影響を無視すればなのだが、


 分かりやすく言うと、強化人間製造アイテム。飲んだ人間が強くなる魔法の薬だ。

 だが、そんな変身能力を得れる薬は当然秘密裏に管理され、一般に流出する事などありえない。


 当然、ただのギャングが偶然で手にできない──、筈なのだが。


 これは、流石に見過ごすことができない出来事だ。

 一体どうなっているのか。


 僕は急いで画面内に映し出された変身シーンのその性質を解析していく。

 当主達につけられたカメラからは、多くの情報がパソコンに与えられ、その情報から僕は、正しい答えを読み解いていく。


 その間にも変身を終えた男は、その場で何度かジャンプをし、自分の調子を確かめる。


「ほお、へえー」


 何度か男は自分自身を確かめるように動くと、先程以上の自信たっぷりで、嫌らしい笑みを浮かべて、高笑いを上げた。


「ははは、馬鹿みたいに体が軽いぜ! こりゃーすげー。冗談半分で貰った薬だが、こんなにも効果があったなんてな」


 自分の体の変化に得意げになると、男は当主の方へ視線をやり笑みを浮かべる。

 そして親指を突き出すと、勢いよく下へ向けた。



「じゃあ、第二ラウンドだな?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ