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セイギノヤカタ  作者: 蝟太郎
第一話
5/14

【4】敵を蹴散らし、戦車は暴れる



 うん、順調に行ってるね。


 パソコンの画面を見ながら、僕は小さく頷いた。画面の中では雨か霰かという程に銃弾が飛び交い、その銃弾を当主は針の穴を通すような隙を抜けながら銀行強盗を蹴り飛ばし、風香ちゃんは機械の右手で全ての鉛玉を弾き飛ばしていく。


 いやいや、何度見ても本当に凄い。風香ちゃんもあの右手以外で銃弾を受ければ貫かれるし、当主に至ってはどこに当たっても血塗れになってしまうのにも関わらず、あれだけの嵐の中を駆け抜けていけるんですから。


「いらねー事を書き込んでねーで、さっさとサポートしろ、ボケ!」

 イヤホンから聞こえてくる当主の声に、僕は苦笑しながらも画面の中に集中する。


 大量の黒い銀行強盗が統制のとれた動きで銃を発砲し、的確に二人だけを狙っていた。仲間で撃ち合っていない所を見ると、かなり訓練されている。でも、人質が無事なのは唯一の救いかな。結構ギリギリだったみたいだけど。



 現在の状況に目をやりながら僕は、キーボードで其々に指示を出していく。

 風香ちゃんは、窓の方へ大きく迂回して、当主は壁の方へ大きく迂回してください。中央にいる人質に流れ弾がいかないように、周囲から潰していってくださいね。


 二人共、てきぱきと指示通りに暴れまわり、大量に発生している銀行強盗を無力化していく。

 特に風香ちゃんの動きは洗練されており、一発の拳で3人以上を吹き飛ばしていく。


「この程度の質と武器と数で私達に勝てると思うな! いくぞ、超必殺の右ストレートォォォオ!」

 その一撃は、岩をも砕く。


 扉を吹き飛ばしたのと同じ威力の右ストレートが大量の銀行強盗を吹き飛ばしていく。そして、吹き飛ぶ彼らを見ても、風香ちゃんは油断などせずに、とにかく右ストレートをあちこちへと叩きこんでいく。


『弾丸の右ストレートォオ!』『神速の右ストレートォオ!』『根性の右ストレートォォォオ!』


 砂粒が風で舞い散るかのように、一撃一撃が銀行強盗たちを吹き飛ばしていく。

 まるで戦車がミサイル飛ばしながら狭いロビーの中を蹂躙していくような攻撃を見て、僕は画面の外で小さく笑う。流石に年季が違う。14年もヒーローやってるだけはあるよ。


「そっちだって私の二つ下じゃんか!」


 僕が送信する文字に、風香ちゃんは敵を殴り飛ばしながらそう答える。まあ、そうだけどね。風香ちゃんが年季入ってるなら、僕も大分入ってるよ。お互い年は取りたくないね。


「私はまだまだ三十路前だ。この若年寄がぁ!」


 文句を叫びながらも洗練された動作で次々叩き潰していく風香ちゃん。動きには一切の無駄がない。その点で言えば、当主はまだ荒い動きご様子。


 画面の中で動き回り、確実に強盗を一人ずつ無力化していく当主へ目をやる。

 その動きは確かに鋭く、威力は高いが、まだどこかぎこちなさを感じてしまう。まあ、スーパータイガーになってまだ半年ですから。しかし、それでも既に他のヒーローと比べても速度も威力も申し分ない。流石は名門の鎚宮家当主と言った所だ。



「さっさとくたばりやがれっ、ゴキブリ共が!」


 暴言を吐きながら、当主は恐れもせずに豪雨のような銃弾の中を、まるで射抜くように駆け抜け、次から次へと銀行強盗を蹴り飛ばしていく。蹴られた銀行強盗は数メートルも吹き飛び、地面に叩きつけられ、気絶する。それに目もくれずに当主は、更に獰猛に笑いながら、右足に力を込め、突き進む速度を更に上げる。感覚を鋭く研ぎ澄ませ、飛び交う銃弾を避けていく。


 その動きは野性味に溢れ、もはや人間ではなく、野獣と呼ぶべき姿だ。

 既に強盗は4分の1程まで減っており、今も次々と削れていた。刻一刻と変化する状況を読みながら、僕は指をキーボードの上で走らせる。

 当主は人質の元へ行って守ってあげてください。風香ちゃんは、そのまま強盗の殲滅を。


「了解だぜ。馬鹿正直に、人質を一か所に固めておいてくれて助かったよ!」


 僕の指示に、風香ちゃんはそう言いながら更にスピードを上げて銀行強盗を叩き潰していき、当主も無言で頷き、人質の元に向い流れ弾が当たらないように守る。


 本当に人質を一か所に固めてもらえて助かりましたね。これが変にあちこちに人質が分散されていたりしたら面倒だったんですが。まあ、その為にヒーローを二人用意した訳ですが。

 これならすぐに解決できそうだと、安堵する僕。しかし、それがイケなかったろう。僕の耳に二人以外の声が聞こえてきた。



「おいおいおい、調子に乗ってんじゃねーぞ、おら!」



 怒りを孕んだ大声に銀行強盗達の動きが止まった。風香ちゃんが声の主へと視線を向ける。

 そこには、一番始めに銀行強盗達に命令を下していた男がいた。恐らくあの男がリーダー格の男なのだろう。男は自信たっぷりな口調で当主たちを嘲笑った。


「ったく、何だその格好? 変な格好はあいつらだけにしてくれよ。何それ? お前、馬鹿じゃねーの? いや、馬鹿だろ。ヒーローごっこでもやってるつもりかよ。糞野郎ども」


 侮辱の言葉は止まらない。男は大きく肩を竦めると、ゆっくりと風香ちゃんへと近づき、足元に転がっていた強盗達を数人まとめて蹴り上げる。蹴り上げられた強盗達は天井をぶち破っていく。それを見ながら、男は口元を歪ませた。


「そんな馬鹿みてーな、遊びしてるから、こんな目に合うんだぜ?」


 男はゆっくりとした動きで風香ちゃんの目の前に立つ。風香ちゃんはその男を迎え打つように、男から視線を外さない。



「やってみな」



 あえて挑発的に相手に喧嘩を売り、右手を握りしめた風香ちゃん。そんな彼女に向って男は軽い笑みを浮かべながら、親指を下に向けると、言った。



「とりあえず、死んどけや。馬鹿が」



 その瞬間、男はその場を飛び上がり、風香ちゃんの方へと飛びかかった。その動きはまさに刹那であり、素人目には飛び上がった瞬間にその姿が消えたように映った筈だ。


 一つの弾丸の様に突進する。そして強盗は拳を握りしめると、風香ちゃんに向って振り下ろす。しかし、その程度の速さでヒーローである風香ちゃんに敵う筈がない。



「激昂の右ストレートォォォ!」


 戦車の砲撃の様な一撃が男の顔面にカウンター気味に突き刺さった。

 悲鳴を上げる間もなく、地面へと叩きつけられる男。



「中ボスかと思えば、また雑魚じゃないか。お前と遊んでる暇はないんだよ。こっちはボス戦ひかえてるんだぜ?」


 綺麗に殴り飛ばしたのを確認すると風香ちゃんはそう言って、男の方へと視線を向ける。男はまるでリング上で倒されたボクサーのように大の字に倒れている。

 どこからどう見ても戦闘不能状態である男。開始数秒で泡を吹いてKOされてしまった男だったが、その口は余裕がありそうに小さく笑みさえ浮かべていた。

 そして、何よりその眼はまだまだ生きている。


「へん、やるじゃねえか。ヒーローごっこするだけはあるって奴か?」

 叩きつけられた男は、ほとんど痛みを感じていない様子で立ち上がる。


 口の中に溜まった血を吐き捨て、絶対の確信を持った余裕の笑みを浮かべる。そして、手元にあった大きなソファーに手をやり、ボールでも持ち上げる様に軽々と持ち上げた。


「さあ、馬鹿で間抜けな馬鹿ヒーロー。こっからが本番だ、この馬鹿がァァ!」

 満面の笑みを浮かべ、重そうなソファーを投げつける!


 その速度はまるでプロ野球選手が投げる様な速度。ソファーのような重く歪な形の物をそれだけの速度で投げるという事は到底人間業では出来る筈がない。僕は油断なく画面を見つめながら考える。


「ピッチャーライナーの右ストレートォォ!」


 画面の中では剛速球と化したソファーを、風香ちゃんが右手で打ち返していた。打ち返されたソファーは先程以上の速度で男にぶつかり、轟音を轟かせる。


 見事に顔面でソファーを受け止めた男は、ソファーに弾き飛ばされ、また地面へと倒れ込んだ。二度もバウンドし、地面へ叩きつけられる銀行強盗。今の攻撃は効いたのか、倒れた身体は動くのを拒否するように軽く痙攣している。


 今度こそ仕留めたか? 画面の中で危ない感じで震える男に目をやりながらそう考える。


 だが、男は覆面で顔を滲ませながらも、立ちあがった。生まれたての小鹿のような足取りだが、風香ちゃんの攻撃を二度も受けて立ち上がれるとはね。


「ふ、ふざけんなっ。くそくそくそっ! ふざけんなよ、くそっ!」


 強盗が怒りの形相で走りだす。既に身体の痺れはないのだろうか。

 ソファーを蹴り飛ばし、目を見開いて、男は怒りを剥き出し、風香ちゃんへ向けて走った。先程までの余裕はもはや消え失せ、彼女の前へ来ると、まるで子供のように、蹴りや突きを考えなしに放っていく。


 怒りでダメージも消し飛んだのか、その一撃はおそらく、防弾ガラスでさえ突き破る程の威力を込めた攻撃だ。しかし、そんな蹴りや突きを風香ちゃんは、簡単に避け、隙間を縫う様に拳を相手の身体へめり込ましていく。


 人間では考えられない速度、筋力、耐久力。どうやら、こいつが『人外』か。


 僕は画面の中で攻撃を続ける男を見て、僕は男の正体を確信する。

 この男は人間ではなく『人外』。人間とかけ離れた潜在能力を有する存在であり、数多の不思議な能力を有する異なる存在であり、この世界に存在していてはいけないとされている存在。それをヒーロー管理局では『人外』と呼んでいた。


 ある意味では、人間側ではなく、ヒーロー達の存在に極めて近い生き物。


 その生態は多岐に分岐しており、人間と同じ姿をした者や、動物や鉱物に近い者など様々。その存在は一部の人間には昔から認知されており、日本では妖怪と呼ばれ、海外ではモンスターとも呼ばれていた。

 まあ、つまりは火を吹いたり、雷を操ったり、他人の血液を取り入れたりと様々な能力を有する人間と同等の知能を持った生き物。


 それが人外という存在だ。


 一度その力を使えば、人間など簡単に挽肉にする事が出来る奴らだって多い。故に人間に紛れて暮らしている人外は、その圧倒的な力で人間を屈服させようとする奴らも当然出てくる。


 当主達ヒーローは、この『人外』が事件を起こした時のみ無条件で『ヒーロー事件』として活動できる権限を持っているのだ。まあ、つまりは何が言いたいのかと言えば、厄介な奴らだから早めに倒しておきたいという事だ。



「必殺の右ストレートォォォォオオ!」



 風香ちゃんの叫び声と共に、右手を思いっきり米神へと叩きこんだ。

 先程よりも桁外れに威力を込め、その攻撃力を一切外へ逃さないように撃たれた右ストレート。吹き飛ぶ様な派手な現象は起きない。だが、その分全ての衝撃が男に突き刺さる。

 逃がされない衝撃が男の身体を駆け回る。


 流石にそれには耐えられる筈がない。意識を手放し、男はその場に崩れ落ちていった。周囲を見渡せば、他の銀行強盗もあらかた駆逐できたようで立っている銀行強盗は十人程度しかいなかった。


 当主、彼らに降伏を勧めてください。


「おい、てめーら。さっさと武器捨てろ!」


 指示と同時に、当主が残りの銀行強盗に向って威圧し、投降を促した。

 その迫力と、先ほどの風香ちゃんのやり取りを見てか、強盗の一人が怯えたように拳銃を捨てる。恐怖が伝染したのか同調するように、残りの強盗も同時に銃を放棄した。

 全員が持っていた拳銃を捨て、降参したように手を上げている。


「これでやっと事件解決だな。あー、疲れたぜ」

 そんな銀行強盗に、当主はニヤリと口元を歪ませ、足元に落ちた拳銃を拾い上げようとする。その当主の行動に、僕は慌ててキーボードの上に手を走らせる。油断したr──、


 その瞬間、風香ちゃんが駆ける!

 そのまま当主を蹴り飛ばす。いきなりの味方の攻撃に、弾けるように当主が転がり、



 そして、一瞬前まで当主がいた場所に、一閃が走った。






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