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セイギノヤカタ  作者: 蝟太郎
第一話
3/14

【2】敵を蹴散らし、戦車は暴れる




「よっしゃあ、やるかぁ! 銀行強盗退治だ!」


 説明が終わると同時に、風香ちゃんはバンっと両手を叩き、力いっぱいにそう叫び、当主も鋭い表情で頷いた。二人ともやる気は十分ですね。



 では、ヒーロー管理局二十四地区ヒーロー補佐長・鎚宮 勝虎の名において、朝倉 風香、鎚宮 明日葉の両名の変身を許可いたします。存分に暴れて下さい。


「了解っ! 変身だ!」


 僕の言葉を受けて、風香ちゃんは強く頷くと、すぐさまポケットへと突っ込み、勢いよく銀縁で彩られたエメラルドのカードを取り出した。

 そして、その勢いのまま流れるような動作で、腰に巻きついている大きなベルトにカードを挿入した。



 ──、ライトアーム・チャージッ!



 カードを飲み込んだベルトから、限りなく電子音に近い声が響いた。次の瞬間、風香ちゃんの右手と顔面に紫色の光が渦巻き、指先から頭の先端まで全てを飲み込む。

 飲み込まれた体を締め付けるように光は小さくなっていき、反比例するように回転する速度は速くなっていく。


 風香ちゃんはその状態で強引に右手を天へと上げた!


 空へ上げられたその腕に渦巻く光は更に速度が増し、回転速度にまるで光が飛ばされるように、紫色の光が勢いよく霧散していく。光から解放され現れたのは、右手と頭はメタリック色の機械に覆われ、それ以外は黒い膜の様なモノで覆われている風香ちゃんの姿だった。


 小さく息を吐いて、薄い銀色に彩られた右手を何度か閉じ開き、違和感が無い事を確認すると、風香ちゃんは力いっぱい叫んだ。



「よっしゃ、変身完了だっ!」



 身長も伸び、元の可愛らしい容姿が想像も出来ないメタリックな姿になった風香ちゃんは、グルグルと両手を振り回し赤い目を光らせながら、やる気を漲らせる。まあ、姿は変わっても動きは風香ちゃんそのモノなんだけどね。


 今の彼女は、朝倉 風香ではなく一人のヒーローへと変身した。

 人間界の科学の粋を集めて作られた変身ベルトによって変身したこの姿は、『装甲戦士・センチュリオン』と呼ばれており、人間の数十倍もの性能を秘めているのだ。体つきも戦闘に特化したモノに変化し、声も風香ちゃんの声と電子音が混じった独特なモノへと変化していた。


 そんな姿に変身した風香ちゃんは、テンションを最高潮に高めながら、黙って風香ちゃんの変身を眺めていた当主に向ってびしっと指をさす。


「次は明日葉の番だぜ!」


 煩いぐらいの彼女の声に、当主は声に出さずに少し迷惑そうな顔をしながらも、静かな頷きで返事をする。そして、ゆっくりと目を瞑る。息を深くし始め、精神統一を始めた。



「……『世に平穏と安定を。笑うべきモノに笑顔を』」



 ぽつりと吐き出すように呟く当主。その言葉は凛と清まされた空気の中にゆっくりと溶けていく。


「それって明日葉の家の家訓だっけ?」


 首を傾げるメタル色をした風香ちゃんに、当主は小さく目を開くと頷き、僕も同意する。数ある家訓の中で一番まともで、一番面倒くさい家訓ですよ。

 そう答える僕を当主は軽く睨むと、呆れた様に小さく息を吐き出した。おや、どうやら精神統一の邪魔してしまったみたいですね。当主は、一度大きく息を吸い込み、もう一度深く目を瞑る。


 再び静寂な空気がその場を包む。


 その瞬間、突風が当主をなぞるように吹き抜けていく。風は僕達の服を靡かせ、束ねた資料をバタつかせる。強い風を感じながら、当主は首につけているチョーカーに電源を入れると、静かく染み渡る様な声で呟いた。



「猛虎大変身っ」



 キーワードが口ずさまれた瞬間、チョーカーから純白の眩い光が当主を包み込んだ。あまりの眩しさに僕たちは思わず手で目を塞いでしまう。しばらくして、爆発的なまでの光が止んだのを確認すると、僕たちはゆっくりと目を開けた。


 そこにいたのは制服を着た女の子ではなかった。そこには真っ白い衣装に身を包んだ虎のマスクを被ったヒーローだ。


「ったく、俺様の縄張りで暴れようなんて、命知らずな奴らだ」


 握った拳を一度振り回すと虎の衣装に身を包んだ当主は野獣のような獰猛な笑みを浮かべ、それまでとは明らかに違う雰囲気を醸し出していた。

 そんな当主を見て風香ちゃんは満足げにニッコリと笑い頷く。


「よし、明日葉の漢モードが入ったな」


「ふん、毎度毎度こんな事すんのは面倒臭せんだが、これも鎚宮家の掟だしな」


 どこか皮肉気に笑う当主に、僕は小さく笑う。



 鎚宮家家訓第一条『変身後は必ず、初代の性格を演ずるべし』



 我が鎚宮家のヒーローになる最も初めに教えられる家訓であり、今の当主にとって最も厄介でしかない家訓の一つだ。ふざけた家訓ではあるが、それでも鎚宮家にとって家訓は絶対。守り続けなければならないのだ。


「全くどこの馬鹿だ。こんなふざけた家訓を創りやがったのは」


 こちらを向き、呆れ顔で当主は大きくため息を吐き出す。家訓を創ったのは初代だと聞いていますけどね。随分、破天荒な性格の方だったようですよ。


「ふん、迷惑甚だしいな。俺様は俺様のやり方でやりたいのによ」


 その分、情に厚い方だとも聞いていますけどね。嫌そうな顔を浮かべる当主に僕は苦笑する。


「どうでもいいな。それよりも、さっさと終わらせようぜ。こんなチンケな事件なんてよ」


 何度か地面を蹴り、自分の動作をチェックし終わった当主は吐き捨てるようにそう言うと、ゴキゴキと腕を鳴らした。


「やる気十分だな、明日葉!」


「やるからには、とことんやる。それが俺様だ」


 ぶっきら棒に言い切ると、当主に風香ちゃんはニカッと笑うと拳を当主に向って突き出した。それを見て当主も小さく笑うと、拳を作る。


「行くぜ!」


「ヘマすんなよ」


 ゴツッと拳を突き合わせると、二人はその場から力強く跳躍した。


 高く高く空へと跳び上がる二人。数メートルも飛び上がると、重力に従い速度をつけ、地面へと落下してきた。

 そして、その勢いのまま銀行の天井を力いっぱい突き破ったっ!


 轟音を立て、屋根に開けた穴の中へと入っていく当主と風香ちゃん。


 いつもながら派手な入場をみせる二人を見送ると、僕は素早く手持ちのパソコンにイヤホンを装着し、ボタンをいくつか叩く。しばらくすると、パソコンの画面の中には、崩れ落ちた瓦礫と半壊した男子トイレが映し出された。僕はその映像を見ながら二人に向けてメッセージを送信する。テストテスト、応答してください。


「おうよ、見えてるぜ!」


「ふん、こっちも問題ない」


 文字は問題なく送信できているらしく、イヤホンから風香ちゃんと当主の返答が聞こえてきた。こっちは正常に動いていますね。そっちの状況はどうですか?


「取り合えず、男子トイレに着地したぞ。凄い音がしたから、120%向こうにはバレてるだろうな」


 うん、その状況もキチンと画面に映し出されてますよ。そう答え、ヒーロー管理局から取り寄せた様々な情報に目をやりながら、風香ちゃんと当主に指示を出していく。

 とりあえず、風香ちゃんはトイレから出て人質が捕まってる筈のロビーに行って、当主は応接室と倉庫へ向かってください。地図を転送します。


 手早く画面上に地図を映し出し、僕はパソコンから二人にそれを送る。画面ではちゃんと地図を受けとったのか、すぐにトイレを出て壁をぶち壊しながらロビーに向う様子が映し出されている。いやいや、随分ド派手だね。それと今回は、風香ちゃんに名乗りをしてもらいます。



「よっしゃ、了解だ!」



 僕の言葉に少し嬉しそうな風香ちゃんの声が聞こえてくる。そんな風香ちゃんに小さく苦笑しながら、パソコンで今の状況や警察の状況などを確認する。

 警察は引っ込んでいるし、二人もやる気十分。まさにヒーローが現れるには相応しい状況。心の中でそう呟き、僕は一瞬だけ青い空へと視線を動かした。



 ヒーロー。そう呼ばれる者達が現れたのはいつの頃からだろうか。


 少なくとも日本には、平安時代よりも前からそう言った彼らは存在していたそうだ。そして、その存在は名を変え、質を変え、現在まで脈々と受け継がれ、今ではヒーロー管理局という一つの世界機関へと変貌していた。


 ヒーロー管理局とは一般の人間には知られていない特殊な世界機関。

 ヒーロー達を擁護し、束縛する機関の事だ。

 少し前まではヒーローたちは自分の意思で活動をしていたが、ヒーロー管理局が出来た今では定められた条約の中でしか活動する事が出来なくなった。人目を避ける事や、人間同士の争いに関わらない事など様々な条約がヒーロー達を縛り上げていた。最も、淘汰される筈だったヒーローがこういう形でも継続されているという事はある意味、僥倖でもあるんだけどね。


 とにかく、今ではヒーローとは、人間の手には負えない化け物が現れた時にのみに、人知れず秘密裏に活躍する正義の味方としてこの世界を生きているのだ。


 僕はそんなヒーロー達を補佐し管理する機関に所属している。行有無は、ヒーロー達の世話をし、今の様にヒーロー達の仕事を手伝う事。



 いつの間にか皮肉気に釣り上がっていた自分の口元を見て、僕は小さくため息を吐き出すと、パチンと一度両頬を叩き気合いを入れ直し、画面に向って集中する。

 今はそんな事を考えている場合ではない。画面の中にはヒーロー達を待っている人質がおり、僕の補佐を待っているヒーロー達がいるのだ。


 僕は自然と浮かんでくる笑みに、苦笑しつつ腕をまくった。



 さて、ヒーロー補佐長としての腕前、見せてあげますか。




連続更新いたしました。

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