【5】首は落ちても、落ち込まず
「大丈夫だって、俺はこう見えても男でもあるから」
「むしろ余計に大丈夫じゃないいい!」
男だったら余計に大丈夫じゃないよ。私の顔を部屋にお持ち帰りしようとしてる男性に一欠けらも大丈夫な部分はないよ。とんでもない発言をする奈緒さんに、私は大声を上げる。その私の大声に風香ちゃんは可笑しそうに大声を出して笑う。
「そりゃ驚くのは仕方ねーよな。あの顔と髪で自称男なんだから」
「悪かったな。顔は生まれつき、髪は家の掟の所為だよ。この面の所為でナンパがし辛くて億劫になっちまうほどだからな」
「四日に一度はナンパしに行ってる癖に何言ってんだよ」
金髪を弄りながら嫌そうなため息を吐き出し愚痴る奈緒さんに、風香ちゃんが呆れたようにそうツッコミを入れた。というか本当に男の人なの?
繁々と奈緒さんの顔を見るが、どう見ても女の人にしか見ない。しかもランクで言えば超A級の美人さんだ。この人が男の人ってどれだけ神様はふざけてこの世界を作ったのだろうか。
悪戯が過ぎる神さまに私はちょっぴり絶望する。もう少しその悪戯を私の首ではなく、顔にしてくれないだろうか。世の無常を儚む私に、奈緒さんはニコニコと笑いながら小さく肩を竦めた。
「それよりも、生首ちゃんの名前は? 出来たらスリーサイズも教えてくれない。というか、あるのかなスリーサイズ」
そして男性を虜にする様な妖艶な笑みを浮かべて、奈緒さんはそんなふざけた事を尋ねてくる。こんなに凄い外見なのに中身がこんなに軽いなんて、もったいなすぎる。格好良いのに、格好悪いじゃん、畜生!
「名前は織戸利 夏海。今のスリーサイズは上から髪、鼻、顎ですよ」
現実のギャップに、少し八つ当たりの意味を込めて、私は少し意地悪をするようにふんっと鼻を鳴らすと言ってやる。
「へえ、夏海ちゃんか。随分と可愛い名前だね」
私の棘のある回答を華麗にスルーして、奈緒さんは小さく微笑むと私の頬を優しく撫でる。
「ふー、何をする!」
撫でる仕草が絵になるからって調子に乗るなよ! 悔しくなんか無いからね! 撫でてくる手を噛んでやろうと身体を揺らす私に、奈緒さんは苦笑を浮かべる。
「いやいや、首だけだってのに、随分といい女じゃないか。身体が無いのが本当に惜しいね」
「おう。夏海はいい女に決まってるだろ」
噛まれそうになる手を引っ込めて奈緒さんが小さく笑い、風香ちゃんもそれに同調するように頷く。あう、何でそんな話になってるの。その二人の屈託のない褒め言葉に何だか恥ずかしくなってくる。
「奈緒さんナンパしない。風香さん、仲良くならない。その人被害者」
ちょっと顔を赤くしている私に、そんな声が聞こえてきた。声の方へ目をやろうとしたが、身体が無いので動く事が出来ない。そんな私を風香ちゃんが気を使って声がする方が見える位置へ移動させてくれる。
すると、そこには薄い青色のパジャマを着込んだ、私をここへ連れてきた女の人が立っていた。女の人は私と喋っている奈緒さんと風香さんを見て、無表情に小さくため息を吐き出した。
「風香さん、奈緒さん、一般人と慣れ合わない。説明も最低限でいいと言った筈。秘密は厳守しなければいけない。その人の為にも」
そう言って眉に少しだけ皺を寄せ、怒った様な表情を浮かべる女の人。そんな女の人に風香ちゃんは無言で頬を釣り上げて小さく肩を竦め、奈緒さんも困った様に苦笑を浮かべる。
「相変わらず固い奴だな。クールビューティーは冷たさの中に一握りの温かさが無いと萌えないんだぜ?」
「萌えなくていい。説明もいい。その人にはただ寛いで貰えばいい。必要な事は私達がすればいい」
苦笑しながら言う奈緒さんに、女の人は小さく肩を竦めると呆れた表情を浮かべた。
「そう言うなって。息苦しい事ばっかり言ってても面白くねーだろ」
カラコロと飴を舐めながら、なははと笑う風香ちゃん。その風香ちゃんに、女の人はムッとした表情を浮かべる。
「堅苦しくない。これが規則。守るのは当然」
そして、女の人は私の方を指差すと言った。
「必要な説明以外は全部忘れる。この館から出たら、全て忘れる。それが無理なら喋らない。これは約束」
有無を言わせずにそう言う女の人の圧力に、私はコクコクと頷こうとしたが、首が揺れるだけだった。しかし、そんな私の動きで理解してくれたのか、女の人は安心した様に大きく頷くと、風香ちゃんに話しかける。
「じゃあ、風香さん。後はお願い」
それだけ言うと、再びどこかへと歩いて行く。
「おーい、どこ行くんだ?」
「お風呂」
それだけ言い残して歩いていく女の人。彼女がいなくなったのを見て、女顔の奈緒さんが大きくため息を吐き出した。
「全くまだ肩の力が抜けてねーのな」
「仕方ないだろ。明日葉だしな」
その奈緒さんの言葉に、風香ちゃんも苦笑で返す。何だかよく分かっていない私は頭の上でクエッションマークを浮かべる事しか出来なかった。そんな私に、奈緒さんが気を利かせて教えてくれる。
「彼女は鎚宮 明日葉。融通が利かない所もあるけど、悪い奴じゃないから。キャラで言えば、眼鏡かけて無いけど委員長キャラって所かな。あー、でも微妙に一人狼なヤンキー成分も入ってるな。比率で言えば8:2ぐらいかな。後は優しい言葉をかければすぐにデレるっていう、一番簡単に攻略できるキャラでもあるかな。まあ、デレの部分はあんまり見せてくれないけど」
「あの、分かり易く説明してくれてるんでしょうけど、よく分かりませんよ」
逆に分かり難い奈緒さんの説明に、私はそう答える。そんな私を見て、風香ちゃんは小さく肩を竦めると言った。
「さて、それじゃあ。私もお風呂に行くぜ。明日葉待ってて、帰ってからまだ入って無かったしな。夏海も顔ぐらい洗いたいだろ?」
「あ、はい。お願いします」
正直、散乱した瓦礫の小さな破片やらで髪もパサパサだし、どうにかしたいと思っていた所だ。願ってもない申し出に私は即座に頷いた。
「よっしゃ、それじゃあ行くぜ」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい」
元気よく私を掲げて風呂場へと行こうとする風香ちゃんに、私は制止の言葉をかける。首を傾げる風香ちゃんに、私はずっと疑問に思ってタイミングが無く聞けなかった事を口にする。
「聞きたかったんですけど、そもそも、ここってどこなんですか?」
図書館から繋がっているよく分からないジャングル。そして、そのジャングルの中にある洋風な建物。疑問に思わない場所がないぐらいの違和感の生息地だ。
首を傾げようとグラグラ揺れる私に、風香ちゃんは小さく微笑むと言った。
「ここはセイギノヤカタだよ」
「いや、それが何なのか聞きたいんですけど?」
明日葉さんと同じ事を答える風香ちゃんに私はそう言うと、風香ちゃんは苦笑を浮かべ、奈緒さんは小さく笑って答えた。
「何と言われても、ここはセイギノヤカタ。一般的に正義の味方と呼ばれてるヒーローの住む館さ」
「へ、ヒーロー?」
首を傾げようとしてグラグラと揺れる私に、風香ちゃんさんは大きく頷くと言った。
「ああ、ヒーローさ。スーパータイガーにセンチュリオン。他にも数名な。変身する前の姿でこの館に住んでるんだよ。例えば、さっきの明日葉もそうだし。ここにいる私もヒーローだ」
え? えええええ!?
いきなりのトンデモ発言に私は大声を上げる事すら出来ない。そんな私の反応を見て、風香ちゃんは笑顔を浮かべながら、小さくウインクをして言った。
「ちなみに、明日葉はスーパータイガー。私はセンチュリオンだから。よろしくな」
なっ!? あまりの衝撃に私は風香ちゃんの掌から零れ落ちる。絨毯の上に落ちたけど痛い事に変わりはなかった。




