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セイギノヤカタ  作者: 蝟太郎
首は落ちても、落ち込まず
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【3】首は落ちても、落ち込まず






「私は何で生首なんかになってるの?」


 そう、生首である。今の私には首から上しか無い。紛れもない一頭身の姿であった。


 何故こうなったのかと問われれば、銀行強盗の一人にナイフで首を斬られたからである、と答えよう。あの最後の乱戦状態の中で私は般若面の銀行強盗に一閃され、気がつけば私の身体は真っ二つ、首と身体が物理的にさよなら状態になるという惨劇である。


 普通なら十中八九どころか、100%の確率でその生涯を終える程の重傷を負ったのにも関わらず、私は何故か生きていたのだ。意味が分からなかった。


 やはりこれは夢なのかもしれない。首になった当初はそう思って、頬を抓ろうと思ったのだが身体はなく確かめる事は出来なかった。だが、身体から首が転がり落ち瓦礫の上に落ちた衝撃はとても痛かったので、あながち夢とは言い切れそうにない。むしろ、ここまで堂々と首だけで生きてるのだから、人間って首が落ちただけで死ぬ程、柔な生物では無いのではないかと感じさえする。


 とにかく、そういう訳で生首となってしまった私は、ヒーロー達に持ち帰られ、一端警察に預けられた後、先ほどの女の人に委託され、殆ど説明も無く、ここまで連れて来られたのだ。



 そして現在、私はポニーテール少女の風香ちゃんの前の硝子テーブルの上で、供養でもされる様に供えられていた。


「とりあえず、飴でも舐めるか?」


 いえ、お供えとかいいんで、生首になった理由を教えてください。

 ポケットから差し出された飴を黙殺して話を促す私に、風香ちゃんは小さく肩を竦めた。


「そう怖い顔するなよ」

「怖くもなるよ、生首なんだから。人間は首を斬られたら死ぬのに、何でか私は生きてるし」


 私の黙殺に、風香ちゃんは飴をポケットに直しながら、考えるように話し始める。


「うーん、何でと言われても詳しい原理は、私には全然分からないしな。理論で説明して理解できるモンでもないし」


 私の疑問にポリポリと頭を掻きながら、答えになっていない答えを困った様に述べる風香ちゃん。


 詰まる所、分からないという事だろうか。物凄くがっかりだ。こんなよく分からない場所に連れて来られたのだから、何か進展でもあるのかと思っていたけれど。


「まあ、そんなにがっかりすんなって。すぐに元に戻してやるから」

「はえ、どうやって?」


 大きくため息を吐き出す私に、風香ちゃんは簡単な事と言いたげに頷く。そして彼女は無い胸を張ると、自信満々にこう答えた。


「元の身体の上の載せればいいんだって」

「いや、子供の玩具じゃないんだから」


 真顔でそう答えてくる風香ちゃんに、私も真顔でそう答える。私だって仮にも脊椎動物で哺乳類である。取れたら載せて戻る程、簡単な構造はしてないつもりだ。だって、首って普通取れたら死んじゃう程の大切な器官なのだから。私の場合は何故か死んでいないけど。


「いやいや、本当だから。載せて捏ねたらすぐにくっつくから」


 呆れた表情を浮かべているであろう私に、風香ちゃんは小さく肩を竦めながらそう答える。でも、そんな小麦粉を練り合わせるように元に戻っても嫌だよ。


 それに仮にそんな調理法で元に戻ると仮定しても、私の身体は何故か銀行強盗によって持っていかれてしまっていて、どうしようもない。ついで、そもそも何故銀行強盗は私の身体を持っていったのか理解が出来ない。


 多分、強盗たちは多分私には興味無く、身体にしか興味無かったのだろう。女子中学生の身体を本人の許可も無くお持ち帰りとは何を考えているのだろうか。あれ、改めてそう考えると物凄く自分の身体の安否が気にかかってきた。えっと、大丈夫だよね?


 かなり危険な状態である自分の身体を改めて振り返えると、冷や汗が流れ出てくる。そんな焦りまくっている私の姿を見て、風香ちゃんは小さくため息を吐き出した。


「仕方がないな。始めから説明するよ」


 ごほん、と咳払いをして風香ちゃんは説明をし始めた。


「まず、この世界は二つの世界があるんだ」



「ごめんなさい、いきなり言っている意味が分からないんですけど?」


 突然訳の分からない事を言ってくる風香ちゃんに、私は思わず敬語を使って説明に割り込んでしまうが、風香ちゃんはぐっと親指を上げて言う。


「既に首だけの存在なんだし常識なんて気にすんな!」


 いや、そうだけどね。でもそんな爽やかな笑みを浮かべて言われても、世界が二つあるなんて信じられる筈がない。そんなとんでも説を信じるぐらいならサンタクロースを信じた方がまだ夢があるし。


 私は疑わしすぎる表情を浮かべる。そんな風香ちゃんは苦笑しながら小さく肩を竦める。


「まあ、話は最後まで聞きなって」


 そう言って、なははと笑うと説明を続け始めると、目の前にピースサインを前へと突き出した。



「いいか。もう一度言うけど、世界は二つあるんだよ。一つ目は、あんた達人間が住んでいる世界」


 もう一度話を振り出しに戻すと、指を一本折りたたむ風香ちゃん。そして、一本になった指をふらふらと揺らしながら、少し低い声で協調する様にこう言った。


「二つ目は人間が住んでいない世界。人外と呼ばれる生き物が住む世界だ」

「人外?」



 聞き慣れない言葉に頭の上にクエッションマークを浮かべる私に、風香ちゃんは大きく頷く。


「その通り、人間じゃない人間ぽかったりそうじゃなかったりする不思議な生き物。人の理の外に存在している、色々とはみ出ている生き物だから『人外』」

「はみ出るってどういう事?」



 要領の得ない説明にまた首を傾げようとするが、首が無い為にグラグラと揺れる。



「つまりは、人間の持っていない力を持った生物の事だ。人外と呼ばれる生物は不思議な能力を持っている。あんたも銀行でも見た筈だ。例えば、無駄にタフだったり、人間よりも数倍運動能力が高かったりする奴ら」


 その言葉で私はボコボコにされても立ち上がったダークヒーローや、緑レンジャー達の事を思い出す。確かにあの人達は人間じゃないと言われた方が納得できる。あの格好もそうだが、身体能力等全てが人間のモノとは思えないのだから。


「他にもいるぞ。一般的にも名前が知られているのは、例えば吸血鬼と呼ばれる他人の血を吸える能力とか、ろくろ首と呼ばれる首をぐっと伸ばせる生き物とか、後は──」


 うんうん、と銀行強盗を思い出し、納得気味に頷いている私に、風香ちゃんはそこで意味有り気に言葉を止めると私の事を指差した。その仕草に理解が出来ずにポカンと馬鹿みたいに口を開けるだけの私。



 そんな私に、風香ちゃんは言った。



「デュラハンと呼ばれる、首と身体が離れても生きている生き物、とかな」

「……え?」




 言っている意味が分からず首を傾げようとするが、身体が無いので首はまた軽く揺れるだけだった。ふらふらと揺れる私に向って、風香ちゃんは真剣な表情を浮かべると言った。



「つまり、あんたは人間じゃなって事だ。あんたは人間ではなく人外。正しくは人外の血が混じった人間と言った所だろうけどな」


 真剣な表情で彼女はきっぱりとそう答える。


 えっと……、いや、言っている意味分からない。だって、私が人間じゃないなんて信じられる訳がない。え、いや、そんな事有り得ないでしょ。そもそも、人外とか世界が二つあるなんて話も信じられる筈もないし。私は人間で中学生の織戸利 夏海でしかない訳で。なのに、人間じゃないとか信じれる筈がなくて──。

 心の中で大量の否定の言葉が次から次へと流れ始める。私が人間じゃないなど理解出来る筈がない。そう考えている私に風香ちゃんは言った。


「首になって生きている時点で、人間な訳ないだろ」


 ただただ淡々とした口調で、風香ちゃんは残酷にそう宣告した。


「それは……、でも」




 その言葉に私は口籠るだけで何も答える事が出来ない。




『人間は首を斬られたら死ぬのに、何でか私は生きてるし』


 自分自身が言った言葉が頭の中で反芻される。心の中が動揺で埋まる。否定したいけれども、否定の仕方が思いつかない。自分の根底が全て覆された様な気分だった。嫌な汗が体中から流れ落ちる。今朝の悪夢よりも、銀行での悪夢よりも最悪な夢を見ている様な気分だった。


 世界がひっくり返ったように思える。そんな私に風香ちゃんはポケットから飴を取り出し、手で弄びながら言う。



「まあ、人外と言っても人間と変わりねえよ。現に人間世界に永住して子孫を残している人外だって存在してんだ。それに昔は人間と人外の区別なんてもんもなかった。現在でも、その類稀な力を使わなければ人間と変わりはしない」


 袋をとり、飴を口の中に含み、カラコロと舐めながら風香ちゃんは説明をしていく。


「人間の世界と、人外の世界が交わる扉ってのがある。基本ガバガバな扉なんだけどな。その扉を抜けて、人間の世界に移住したのが、お前のご先祖様。あんたはそのご先祖様の子孫だよ」


 信じられる筈が無かった。でも、今の私の状況では信じる他に無かった。


 自分が人間ではない。たった、それだけの話なのに信じてしまえば、私は今まで見てきた全てが覆される気がしていた。よく物語の主人公が、お前は人間ではない、なんて語れるシーンを読んだ時、主人公の境遇を羨んだりもした。自分がもしも世界を救う勇者なら、どうやって世界を救って見せるかを妄想したりもした。



 でも、実際起きてみるとなんて事は無い。ただただ私の全てが崩れ落ちるだけだった。







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