第9話:Magical Pacific Case2
第9話:Magical Pacific Case2
私はもう飲み慣れたコーヒーを飲み込むと、同時にパソコンのファイルから魔砲妖精から提供された魔砲構成生命体の各種実弾及び魔砲銃の有効ダメージ割合を示したグラフを見せる。
国岩一等陸佐も承知のはずだが、仮にも自分が対機甲戦闘をする歩兵部隊の指揮官ならより上の指揮官に最終確認を行うのが道理であると思う。
「……まぁ……お前の言いたいことは分かる。想定される戦力は対抗勢力の管理を行う技術者と指揮官しか分からないが……空挺作戦に反対なのだろう?」
「対魔砲構成生命体との戦闘はより長時間により大火力を撃ち込むのが鉄則のはずです。ご存知でしょう?」
国岩一等陸佐はこちらに画像ファイルを送ってきたので開くと今回参加する全部隊の歩兵に至るまでの弾薬計画数が示されていた。その内容が事実なら機甲部隊は通常の半分の弾薬で戦う計算だ。
「一等陸佐……失礼ながら敵の総数が最悪の100と想定しても倒せるのはせいぜい半数かと……」
「君たちの限界を試す演習でもある。そして現在の極東アジア管区の戦力の困難な試金石としても」
「なら土日の作戦立案時までに妥当性のある作戦の再検討と緊急補給支援網の確立を要求します」
国岩一等陸佐は「承認する」とだけ返す。だが正直な話、魔砲少女戦力は一個小隊、8名しかいない。それに加えてカロライナ……正確には米政府と魔砲少女の確執もあるのは間違いない。即ち上を信頼できない演習となるわけだ。
「小隊リーダーはカロライナか?」
「それなんだが、アメリカのJSOC(統合特殊作戦コマンド)伝いでカロライナが今回の演習は君に任せたいと言っている」
ったく……彼女らしい。信頼が揺らいでる今、最も信頼できる人間と国家に全体の指揮を任せるつもりか。
「なら現場主力小隊長から言わせてもらおう。魔砲少女が1名でも戦線を離脱したら戦線を5km下げる。それがたとえ聖域を失う可能性があったとしても」
「5kmの根拠は?」
「ヘルファイア対戦車ミサイルと120mm滑腔砲の有効射程の間だ。戦力空白地帯を残さずなおかつ継戦的にダメージを与えれる最適距離と判断いたします」
国岩一等陸佐は図上の駒を少し動かしたりしながら、考え、今日1番重たいと思われるため息をつく。
「わっかった……はぁ……魔砲少女小隊の撤退作戦時の距離について承認する……山岩陸将にも伝えるが問題ないな?」
「指揮幕僚課程をクリアしたあの人なら大丈夫でしょう。多少リアリストな点は不安ですが……」
「それが戦闘というものだよ。感情ではなく、理性を武器に戦った方がダメージは少ない」
私は「同意です」と返し、作戦会談は終了する。
私が小隊長か……それに桜も参戦させるとなると適切なタイミングと指揮が不可欠か……
翌朝、陽の光が寝室に入り、目が覚める。
昨日という今日の深夜にした作戦会談がまるで夢物語だったかのように、平和な朝を雀が歌う。
実を言うと私は寝る時は下着とシャツ1枚で寝ている。理由は単純、血行が良くて暑がりだからだ。意外かもしれないが魔砲少女というのは魔力というものも流れてるため、血液循環量と血液が運ぶものも多くなる。故に血行が良くなり、暑がりとなるわけだ。そのため、裸で寝る魔砲少女も少なからず居る。
ちなみにカロライナは寝巻きらしい。知った時は3度聞きしてしまった。
睡眠時間が短い時の筋トレは事故を起こしかねない。なので今日の日課はお預けだ。
学校の制服に着替え、リビングへ向かうと、桜さんが朝ごはんを作りながら挨拶をしてくれる。
「おはようございます!弥生さん!今日は筋トレしないと思ったので炭水化物控えめです!」
「おはようございます、桜さん。その配慮助かります。私が夜起きていたのを知っていたのはもしかして……」
「はい、今朝スマホに国岩一等陸佐から次の演習の作戦内容が伝えられました。分からない所は朝月三等陸佐に聞けとも……」
一等陸佐はやはりと言うべきか、私を信頼してくれてるのか。
自分で言うのもなんだが見る目がある上司で助かる。
「私でよければ、しっかりご指導させてもらいます。それでは朝食いただきますね」
サラダチキンとフルーツヨーグルト、市販のプロテインバー2本。炭水化物控えめなのはありがたいが今日は学食が楽しみになりそうだ。
桜さんと登校中、後ろから車の音がしたので、脇に寄ると見覚えのあるベンツSクラスが停車する。
「朝月さん!三永さん!よろしければ一緒に登校しませんか?」
ララさんか、厄介ストーカーや敵勢力じゃないだけ良いが、何故普段通らない道を?
「ララさん、この道は初めてなのでは?」
「実はですね!銀行の時間外特別営業だけ済ませてここを通ったんです。普段は土日にするのですが自習レポートの件で土日は勉強したかったので……もし嫌なら……」
「弥生さん!私乗りたいです!日本の高級車しか乗ったことないので!」
桜さんが言うなら、やむを得ないか……そしてこれまた断るのも無作法というもの。
警戒だけしておけば問題はないだろう。いざと言う時は……
「では、お言葉に甘えさせていただきます。右側からお乗りしますね」
そう言うとドアが勝手に開き、私達3人が後部座席に乗っても少し余裕がある広さだった。
「ララさんは将来どんな職業に着きたいのですか?私でよろしければお話してくれると嬉しいです」
「これが……友達との会話なのですね!実は実家が太すぎて誰も声をかけてくれなくて……こういう会話が憧れでした……私は昔から空に憧れがあって、本国に帰ったら防空管制部に入ろうと思ってます。お兄様が連邦国防省作戦事務次官なのでSAFの面接でも有利かなって……」
SAF……スイス国防軍の略か……それにしてもうちの高校、軍人に憧れてる女性多すぎるだろ……まぁ、いいか。
国防意識を持つことは良いことだ。何事も突き詰めすぎるのは良くないが将来の目標くらいなら褒められると私は思っている。
「Target 32T MT 332 559.Heading3-2-0.Angel28.Mach2.3(標的ベルン(軍用方眼地点指示方式)機首方位320°高度28000マッハ2.3の意)」
「あっ!祖国の首都上空に東から戦闘機が来た想定ですか?」
「流石ね、MGRS(軍用方眼地点表式)をほぼ暗記しているとしたら重宝されるわよ」
「えへへ……朝月三等陸佐に褒められて嬉しいです!」
桜さんもスマホで調べながら、MGRSの座標を調べてるようだ。私自身暗記してるわけではないが、主要地域は大体頭に叩き込んでいる。あくまでも地域であり、都市部や細かいエリアまでは把握しきれない。ただ魔法特殊作戦コマンドは性質上日本国内に限定されるため英語を含めた6桁程度で足りてしまう。
「ドライバーさん、ドリンククーラーから……ヴィヴィコーラ(スイスのコーラ。天然素材にこだわってる人気品)を3本お願いします」
「かしこまりました。お嬢様、もうすぐ停車しますのでその際に」
「ララさんいいの?ヴィヴィコーラって結構高いイメージがあるのだけれど……」
「普段は一人で飲むので余るくらいですから、全然いいですよ!桜さんもぜひ私の祖国の味を知ってください!」
そして停車後にコーラが渡され、3人で乾杯し、普通の登校日なのに特別な日に感じた。




