第10話:Magical Pacific Case3
第10話:Magical Pacific Case3
土曜日まではあっという間だった。ララさんとの会話に慣れた桜さんはクラスの皆とも話すようになり、放課後はララさん邸にお邪魔したが私の家がうさぎ小屋に思える大豪邸だった。東京都やや郊外に3万坪の大豪邸を建て、土地だけで240億円したとか。スイスフラン換算で大体1.2億スイスフラン。だが流石に親御さんも娘のためにここまでデカイ家を建てたわけではない。将来的な土地価格の高騰が望めるから投資も兼ねているという話。抜け目ない親御さんだと思わずにはいられなかった。
金曜日の放課後は鈴木担任と校長先生揃って、私と桜さんは明日からのマジカル・パシフィックの激励と日本の為に戦う私達の為に自習レポートは学校が作成し、最高評価の夏休み2ヶ月を約束してもらった。
そして土曜日……朝から市ヶ谷駐屯地第1会議室には、極東アジア管区第1魔砲防衛大隊の主要メンバーが揃っており、我々魔砲少女小隊総員と大隊指揮官の国岩一等陸佐、大隊副官ジェームス・ロジャー統合少佐、第1機甲中隊中隊長の栗川浜石三等陸佐、対戦車ヘリコプター中隊中隊長ラインハルト・ロメリッヒ少佐、特殊作戦歩兵中隊中隊長の神長悠真三等陸佐兼対魔砲作戦参謀副官。さらに今回は追加戦力としてF-2支援戦闘機3機と在日米軍基地のF/A18Eエクストラ・スーパーホーネット3機が航空支援として参加し、それ誘導するJTAC(統合末端攻撃統制官)として宮口一等陸尉、ネルソン大尉が会議に参加していた。
「定刻だ。会議を始めようと思う。では、現在入ってる斥候の情報を統合する」
国岩一等陸佐の合図で、神長三等陸佐が資料を全員に配り、全員分のノートパソコンにもデータが表示される。
「現在今演習地A地区では魔砲構成生命体20体規模を確認し、住民の避難誘導は完了済み。現場近くの駐屯地部隊は抵抗を続けているが壊滅を確認。またB・C地区にはそれぞれ30体規模の魔砲構成生命体を確認しており、同時に全域に魔砲妖精による広域偵察及び敵部隊の情報伝達も実施していると思われる」
全員が重い責任という空気を吐き出し、パソコンと資料、ホワイトボード前で解説する神長三等陸佐との視点を行ったり来たりする。
「ミスター神長、質問いいかな?」
カロライナが挙手し、神長三等陸佐も応じる。
「現在の戦況はあまりにも敵が分散し過ぎてる。そして予定降下地域のポイントアルファに最も近いA地区だけ数が少し少ない。斥候の偵察を疑う気は無いが、少し妙に感じる」
「それは私も同意だ。本演習地域は『ターニングポイント』想定での戦闘という状況下で魔砲構成生命体の数がやや少ない。魔砲構成生命体の攻撃エネルギーの人の欲望がまだ豊富にあると考えられる以上はあと20〜30体はいても不思議ではない」
するとノートパソコンの画面が更新され、神長三等陸佐もタブレット端末を改めて見直す。それは最悪に近い状況に他ならず、最初の一手で地獄か深淵が選べる戦況だった。
「A地区後方にランチャークラス10体、キャノンクラス20体……」
ランチャークラスは対空榴弾を得意とする個体で、キャノンクラスは205mm榴弾砲クラスの砲撃を6km先までお届けするめちゃくちゃ厄介な個体だ。だがこれで敵総力が判明したと言っても過言では無い。
「誤報であって欲しいな……」
ラインハルト少佐の最後の願いは、神長三等陸佐の「ドローン偵察で確認しました」で打ち砕かれた。と同時に少なくとも近接防空に特化したランチャークラスを排除をしない限り、対戦車ヘリコプターの支援は受けられないという事だ。
だが接近を探知された瞬間にキャノンクラスで機甲部隊すら壊滅する。つまり少数精鋭かつJTACを護衛しながら、航空支援を得られる状況下を作らない限り、機甲空挺部隊も対戦車ヘリコプターも接近不可能。
つまるところ我々魔砲少女しか選択肢が無いという選択肢は当初想定していた撤退という選択肢も不可能な作戦へと変貌した。
「朝月三等陸佐、ランチャークラスの排除は可能か?」
国岩一等陸佐の言葉に私は一瞬詰まったが、妙案を思いつく。自分なら指揮幕僚課程をクリアできるんじゃないかと思ったほどだった。
「敵の後ろを狙いましょう。秘密裏に」
「敵側の攻勢主導及び敵の保全の原則が課題だろう」
「だからこその後方奇襲です。西浜辺は衛星画像、ドローン画像見る限り手薄です。というより敵はいません。理由も明確です、機甲部隊展開の為の輸送機は高度の問題で気が付かれ、対戦ヘリ中隊もほぼ同様。だからと言って魔砲少女だけでは奇襲戦力が足りないと向こうは考えるはずです」
国岩一等陸佐の次の質問は予想済み。ここが私のターニングポイントだ!
「魔砲少女小隊の戦力が足りないのであれば奇襲の効果の意味が無いのでは?」
「その為の軽迫撃砲です。88mm軽迫撃砲なら野戦リュックに分解し詰め込み可能で、なおかつ砲弾も比較的軽い。そして我々魔砲少女小隊がJTAC2名を護衛しながら観測班としても行動する。ですが問題が無いわけではありません。迫撃砲要員の特殊作戦歩兵中隊の方々が砲撃できるのは精々4、5分。その後は速やかに陣地転換し、我々の支援に回る必要があるかと。同時にここである程度削れなければ作戦はご破綻です」
国岩一等陸佐はロジャー統合少佐と話し合い、しばらくの時間コーヒーを飲みながら待つ。表情を見なくても分かる、これは極めて難易度が高く、同時に連携に失敗すれば希望となる主戦力損失へと繋がる。
「朝月三等陸佐、貴官の意見は大いに賛成できる。ただ作戦効果をさらに上げたいのが我々の願望だ。欺瞞としての要素を見出したい」
なるほど、それは一理ある。万が一敵に気が付かれれば作戦の破綻に繋がりかねない。欺瞞標的が必要となる。
可能ならば敵が最も狩りたくなる欺瞞標的だが、そう都合のいいものは無いのが現状の手札。
作戦決行は月曜日午前6:00である以上それまでに用意できる即応性の高いものが要求されるとなる。
「魔砲妖精の探知能力にも限界があるはずです。魔砲妖精は過去の人間とのコミュニケーションで音と心に敏感な動きを示してます。なのでその音を最大限活用しましょう。偽装爆弾を詰んだ投下物を台地に投下、砲撃してるように見せかけ、敵の注意を引き、同時にこちらの輸送機の音をかき消す。いかがでしょう?」
「いいだろう。すぐに手配の準備をする。しかし用意できるのは頑張っても10発程度だ。作戦計画の単純化と効率化の観点から偽装爆弾投下後1分以内に最大速度の輸送機から高度9000mから空挺降下する。魔砲少女達は魔法現実反作用でパラシュート無しによる高速空挺降下を速やかに実施し、JTACは酸素補給可能なヘルメットによる高高度低高度開傘降下を行い、特殊作戦歩兵中隊は静音高速ボートによる機動浸透を実施。なお魔砲妖精の電波観測の不可が判別出来てないため、作戦開始後はランチャー及びキャノンクラス排除までは無線封鎖を実施する。その後は各中隊が敵の殲滅のために魔砲少女を支援する機動掃討戦ヘ移行、各中隊長による航空支援があり次第5分以内に該当地域の空爆を開始をするものとする。解散!」
会議が終わり、私はとりあえずの安堵のため息と共に緊張も吐き出し、椅子にもたれかかる。そんな時カロライナが私の隣に来て、一言言ってくれる。
「この前は利用してすまなかった……弥生、君は良いリーダーになれるよ」
「私は責任って言葉嫌いなのでカロライナに譲るよ」
「ありがとう、私は仲間の為に責任を負うのは最高にクールだと思ってるから、弥生の作戦成功のために力を尽くすよ」
私たちはグーで拳を優しくぶつけ合い、余った時間で装具点検と作戦再確認を始めた。
「こんばんは、もう慣れたと思います。司会の朝月三等陸佐です。今回は神長三等陸佐にお越しいただきました」
「神長三等陸佐です。朝月三等陸佐、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。お聞きしたいのですが今まで自衛隊における参謀は幕僚という呼び方になってましたが、魔法関連は別なのですか?」
「はい、理由としては魔法戦は国際問題あるいは国際的な戦争になりやすい点から各国と揃えて参謀という呼び名をいち早く導入した形になりますね。そのため旧軍扱いする幹部も少ないですが、各国との連携に共通化は必須です」
「とても参考になるお話ありがとうございます。この後のマジカルパシフィック編は21:00からになります。寝る前のミリタリーインスピレーションになれば幸いです。それではお疲れ様です」




