第6話:night of pressure
第6話:night of pressure
事件鎮圧後の夜は報告書に追われていた。警視庁公安部外事課第5課というのは薬物犯罪に関しては特に神経を尖らせている。南米のカルテルの薬物犯罪の規模は数兆円規模とも言われる。特にフェンタニルの事件以来、深淵のサプライチェーンとも言える薬物の供給ルートの確立は女子高生ですら人間の道を踏み外してると思う。
「はぁ……もう午前1時か……」
「弥生さん……疲れますね……私の方は半分終わりました……」
コーヒーも冷めきって、飲みやすくなった時に、スマホのアラームが鳴り、酒月警部と表示されている。
「どうした?酒月警部」
「朝月!今自宅か!?暗号シグナルをオンにしてくれ!」
私はすぐにサイドボタンの軍用暗号化ボダンを押して、通話に応じる。
「完了した。何があった?」
「魔砲少女用の薬物開発をソウル・メイトは作っていた!しかもあの工場にはそのデータがあったという話だ!」
「なっ!?どこに保管されていたんだ?」
「操作室の金庫らしいが、こじ開けられていたらしい。鑑識によると7.62mmNATO弾が使用された」
待て待て……操作室に向かったのはカロライナだ。そしてカロライナの使うHK417は7.62mmNATO弾を使用する。だが操作室で発砲音はしなかった。何をどうしたら?
「カロライナが疑わしいのは事実だ。他の魔砲少女やテロリストが使用した可能性は?」
「確認できてない。だが向こうは東側の兵器しか見つかってないから、NATO弾を使う人間と言えば……」
「だが、カロライナがカルテルに協力するメリットはないはずだ」
「そうだ『カルテル』にはな」
どういう事だ?魔砲少女は確かに薬剤耐性は高い。それに国の最高戦力の魔砲少女が薬物依存なんてしようものなら軍事バランスが傾きかねない。だとしたら……なんだ?
「米軍が欲するだけのメリットがある薬を作っていたのか?」
「米軍のメリットかは分からないが、恐ろしい話だが心の弾丸の認識を誤魔化す薬品を作っていたらしい」
「……カロライナは違う……あいつは罪を犯す人間じゃない!」
「分かってる。間違いなく、逆らえない『天の声』だと私も考えてるよ。天を引きずり下ろして、法廷に立たせるのはこちらの役目だ。安心してくれ。報告書についてはこちらが対応する。ゆっくり休んでくれ」
私は静かにスマホの通話を切り、あの変態だが誰よりも仲間想いで、誰よりも平和を望んだ彼女が魔砲少女を殺戮兵器に変える薬物を意図的に奪ったとは考えてない。考えてないからこそ、不安なのだ。彼女が自らを兵器に変える手段を自らの手で、自らの意思で取ったとしたらと思うと……
その頃都内のホテルにて
「おい、CIAと国防総省聞いてるか?約束通り薬品データの提供協力はした。私の怒りが有頂天なのは聞かなくても分かるよな?」
「分かってるともミス、カロライナ。国防総省を代表して礼を言わせてもらう」
私は今猛烈に怒っている。魔砲少女を好き放題人殺しをさせるようにするこの作戦の第一段階に私は軍で生きるため、監禁されてる妹の為に皆を裏切った。
私が魔砲少女としての立場を維持できるのは人質にされてる妹の為。成人まで魔砲少女として軍に尽くせば解放されると。
「ライカの声を聞かせろ」
「今は寝ているようだが?それとも大切な妹さんを叩き起すかね?」
「チッ、吐きそうだ。私は軍人であることにプライドを持っている。同時に国家への忠誠も誓っている。お前達はどうだ?出世とプライドの為に一国民を利用するのか?」
「その通りだよ。知らなかったのか?」
「いつか全員法廷に引きずり下ろしてやる。覚悟しとけ」
私は通話を切ると、ミラがコンビニで買ってきてくれたコーラを一気飲みする。
「メリン……大丈夫?」
「大丈夫だよ。怒りで身を滅ぼしたくないからね。ミラ……抱きしめてもいい?」
「メリンが落ち着くならいいよ……」
私は静かに2歳年下の相棒を抱きしめる。温かく、優しい香りがする。
私が守るべき仲間なのは間違いない。
数分ほど抱きしめて、ミラにいつも助けてもらってる礼を述べる。
「いつもありがとう。ミラ、私は先に寝るよ」
「うん、おやすみ。メリン」
メリンが寝たのを確認して、私は部屋を出る。
予定調和と言うべきか、苦虫を潰した汁を、煮込み、それを煮え汁を飲み込んだような表情をしているウィルソン工作担当官だった。
「ウィルソンさん、CIAはどんな感じですか?」
「魔砲少女を使い潰すつもりらしい。クソッ……同じ組織の人間だと思うと吐き気が出てくる。国防総省も魔砲少女師団の軍備計画も考えてるそうだ。薬品のデータを改ざんすればよかったか……」
「向こうはプロです。改ざんの痕跡くらいすぐに見破るでしょう。悔しいですが、今は先手を打たれ続ける他はないかと……」
ウィルソン工作担当官は、ガムを1枚口に含み、噛みながら、スマホをいじっている。
「ミラ、すまん。メリンを見てやってくれ。私は知り合いに準備を要請する」
「わかったわ。ウィルソン工作担当官。また明日」
「あぁ。ゆっくり休んでくれ」
ミラが部屋に戻るのを見送った後に私は、知り合いの合衆国最高裁判判事の1人、ロバートに連絡を繋ぐ。
「よっ、元気にしてるか?」
「ウィルソンか、相変わらずCIAはコソコソやってるようだな」
「全くだよ嫌気が差してくるさ」
彼とは大学の同期で共に法律の専攻でいつも競いあっていた。彼は法を信奉し、法に殉ずる覚悟すら持ち合わす人物だ。この件を見て見ぬふりなどしないだろう。
少なくとも私はそう信じている。
「実は……」
カロライナの妹が国防総省に人質監禁されており、強制的に軍務のダーティワーク(汚れ仕事)をさせられたり、国際法アウトの任務に従事させられてる話をすると、彼は溜息を漏らす。
「その件か……司法省でも噂になってるよ。これは極秘事項だが、最高判事会議でこの件が議題に上がった。結果は私以外が賛成した。理由は魔砲少女は人ではないというのと、魔砲少女はあくまでも志願制という視点から、この汚物のような計画が通ってしまったということだ」
魔砲少女が志願制だと?家族を監禁され、従わなければ酷い目に合わせると脅して、軍属にさせる事が志願だと?こんなバカな話あってたまるか。
このままでは魔砲少女を恨む人間を増やすばかり。最悪魔砲妖精との関係破綻に繋がりかねない。そんな事になれば……
「なんとか国防総省が監禁してる家族だけでも解放させられないか?」
「法律上不可能に仕組んでるな。戸籍を抹消してる痕跡を確認した。ライカ・カロライナ。彼女は世界のどこにも存在しない」
「なら、解放後は……」
「間違いなく、メリン氏は国を頼らずにはいられない。同時に軍隊からも離れられないだろうな」
私は力が抜ける感覚と共に壁にもたれかかる。国に忠実に働いてる軍人をこんな風に使うなど、ステイツのプライドはどこに行ったんだ……今思えばプライドその物すら無いような気もする。
「また今度話そう……私は少し疲れた……」
「あぁ、ゆっくり休め。こっちも政治家共を叩き伏せる段取りが無いか調べ尽くす」
「ありがとう、仕事頑張れよ……」
私は帰国するべきなのか……もはや心の中に忠誠という言葉が疑問に変わっている。
だが、今国を裏切れば、守りたい人すら失いかねない。今は耐え忍ぶ時か……




