第26話:Carolina LAST MISSION Case2
第26話:Carolina LAST MISSION Case2
「隊長、本当にミス、カロライナと戦うんですか?」
「上からの命令、それだけだ。スイス政府の外交官に当てなければこちらの勝ちだ」
大型SUVの中からどこからともなく「学生で外交官なんて」と聞こえてくる。
私自身それには同意だ。学生という不確定な要素に加えて、魔砲少女なんていう理想論のキテレツを具現化した軍の主力など許してはならない。
そして今回の作戦に魔砲少女が参加しないのは我々が全滅するほどの人殺しをすればメリン・カロライナの心の弾丸は完全に侵食される。つまりどちらにしろ彼女の負けもといは死は確定してるようなものだ。
こちらは24名で作戦にあたる。6名1班として班レベルでの行動を徹底し、カロライナを見つけ次第弾幕を浴びせる。向こうも魔砲少女装備を展開していると推察され、米軍特殊作戦コマンドに新規導入された、新型対魔法装甲徹甲7.62mm弾を使用するM-Lokタイプのハンドガードに換装され、ナイトビジョンスコープと弾種自動判断システムを一体化させ、通常の7.62mm弾なのかそれとも魔法徹甲弾なのかなども計算に入れる優れものだ。
これだけの機能があれば余程のド素人か人を撃てない人間以外は嫌でも命中する。
だが、1つ不確定要素というか気になる事がある。日本政府がやけに乗り気だったという点だ。
何か策があるのか?それとも魔砲少女に代わる新型戦力か?憶測だけで任務内容に支障が出ないようにボックス呼吸法で落ち着く。
警視庁はガス漏れという事で民間人を退避させ、我々は遠慮なく銃器を扱える。さらには検問まで敷いてくれた。
頼もしく、ありがたい。だからこそ不自然なのだ。
ピピーとホイッスルの音で停められると運転席の隊員が共通コードを発する。
「ガス漏れの調査に来たアメリカの職員だ。合言葉は魔女狩り」
しばらく警察官が後ろの人間とやり取りをして、通行が許可される。
そう、これはアメリカという我が偉大な祖国に貢献できなかった哀れな魔女を死という救済を持ってして、天に返すのだ。
10分も掛からず大邸宅に到着し、雨の中堂々と要注意人物のララがいた。
我々はフル装備で下車し、部隊長である私が直接ララ氏と話す。
「入れてもらおうか?」
「あなた方その汚れたブーツでお嬢様の家に入るつもり?礼儀というのものを知らないのかしら?」
「それは関係ない。入れないのならスイス政府に直接……」
「私の家に外交特権はないわよ。突入したら?その薄汚れたプライドとブーツで」
他の隊員も冷静を装っているが、煽り口調で暴言を吐く『お嬢様』には嫌気が差す。
このまま一捻り二捻りしてやりたいが、スイス政府と敵対すれば間違いなく政府高官や大企業のプライベートバンクの口座が凍結される。そうなったら我々の立場が崩壊するのは火を見るより明らか。
「なら入らせてもらう」
「じゃあ許可無しだから不法侵入で警察呼ぶわね」
「この装備を見て、日本の警察ごときで止められるとでも?」
「自衛官ならどうかしら?」
「は?」
1kmは離れていた。しかも窓を叩くくらいのそこそこの雨量に加えて、微風の中、そして暗闇にも関わらず1発の銃弾が隊員の胸に当たった。
バキン!防弾プレートと推定6.8mm弾の殴りは耳が痛くなるほどで、すぐに部隊は散開し、遮蔽物に隠れる。
「おい!どういう事だ!ウイング3-2怪我は!?」
「だ……大丈夫です。ただ弾丸が完全に砕けたので……」
マズイ……旋条痕(ライフルマークとも呼ばれる。銃弾を真っ直ぐ飛ばすための溝の跡)が残らないとなると国際法的に不利になる。今我々は国際的には何かしらの高速飛翔体がプレートキャリアにぶつかっただけの事故のような現象として捜査されるだろう。
「ララ!お前何を考えている!?」
「発砲あり。対抗します」
ピピッ。という録音の後に彼女はこちらにP220を向けてきた。
あの眼……殺る気だ。
すると近接戦闘に慣れたストライク1-4が素早く銃を押さえつけ、スライドを後退させる。
その時1発の凶弾が放たれ、ストライク1-4の太ももに命中した。高耐久防弾作業服ではあるため、激痛程度で済むが、これで彼女が自己防衛の為に発砲した証拠が残ってしまった。
「録音機を探せ!このままだとマズイぞ!」
「ですが!」
その時再び6.8mm弾のダメージは弱いが下手をすれば痛い目にあう弾丸が飛んでくる。
夜の空を切り裂き、無毒な蜂の針が我々の精神と時間を削る。
「録音機破壊は後だ!先にカロライナを片付けるぞ!」
「「「了解!!」」」
私はHK417を狙撃方向に向けた時表情がはっきり見えるほどの倍率レンズを付けていた事に後悔した。
「山岩陸将……?」
そう呟いた時には再び超音速の弾丸が飛んできて、スコープが破損した。
これでは内蔵の録画機器もパーになってしまった……もし本当に山岩陸将なら……
「ストライク1-4!ララは!?」
「スタンガンで気絶させ、手足を拘束!自分の太ももは痛いくらいです!」
「よし!突入開始!ストライク小隊は前進!ウイング小隊、ハルバード小隊は各自事前の演習通りに左右展開、ワイバーン小隊は後方支援!進め!」
我々はこの後に待ち受ける過酷な死が約束された敵との戦いに、絶望を味わうなどまだ想定の外だった。
ビルの屋上にて
「はぁ……もう50後半のおじさんが久しぶりに狙撃など……だが、彼女達の為と言った以上やるしかないな」
私は久しぶりにタバコに火をつけて、無線機を起動させる。
「あぁ、朝月君。敵の妨害はしておいたぞ。スコープも破壊した。そしてララ君も見事に任務を全うした。全く隠匿作業は楽では無い。少し重たい取引だが魔法特殊作戦機動師団の為の『大役』をしてもらうからな。あー、それで結構。では」
通信を切り、長年電子タバコで我慢してきた欲求を発散する。悲しいかな、呼吸機能が落ちてきて電子タバコに切り替え、当時の上官から功績と指揮幕僚課程の満点合格という観点から、普通科狙撃部隊からオフィスでコーヒーを飲みながら作戦会議する統合幕僚監部の身分へ転進。
そして今更になって錆びついていた思った自分の狙撃の腕は衰え知らずだった。
「今度魔砲少女達と狙撃競技でも開きたいな……」
気持ちがリラックスし過ぎたせいか、余計な考えが生まれ、ひとりでニヤケながらその場を後にする。もちろん薬莢も回収済みだ。
私はララさんから貰ったエナジードリンクを飲みながら敵を待っていた。呼吸を整え、戦場をイメージする。
彼らも上からの命令で来ているはずだ、お互い国に愛国心と命を捧げると誓ったのに殺し合うなどバカげてる。
政治家共が強欲を少し抑えれば全くこんな結末にはならなかった。
ゴクゴクっと冷たいエナジードリンクが喉を通り過ぎる度に、これが最期か……などと弱気に思ってしまう。
私は妹のライカよりも弥生を優先してしまった。最悪の姉としての罰として受け止めるのもありかもしれない。
だけどもしライカも弥生にも無事に会えたら……私は願った。2人が生きてくれたら、自分はどうなっても構わないと。
すると私の相棒の魔砲妖精がクルンと出てくる。
アゼールが心配そうに私の瞳を覗いてくる。コアラ型の魔砲妖精とはいえ、いつ見ても可愛いものだ。
「なぁ、カロライナ。死ぬのか?」
「……多分ね」
「俺は……君が生きて欲しい。君の人生を全て見てきた。君は他人に全てを捧げる優しく、強い女性だ。死ぬべきじゃない」
「ありがとう。アゼール。でも私はやっぱり弥生を守りたいよ。そして汚れ仕事専門にはなりたくない。私ってワガママだね」
私の見せた苦笑に、アゼールは泣きそうな表情で抱きついてくる。ぬいぐるみサイズだが、意外と落ち着くものだ。これではエナジードリンクを飲んだ意味が無くなってしまう。
「アゼール、お疲れ様。今まで本当にありがとう。今度は優しいだけじゃなくて、しっかりとした魔砲少女と契約しな」
「……君に渡したウィンチェスターマグナムあるよね?」
「うん、胸ポケットにしまってあるよ」
「俺の命で弾無限にするからさ……最期は華々しく、そして火力のカロライナの名に恥じない最期を迎えてほしい。俺さ……お前のことが好きだからさ」
頬が熱くなるのを感じ、自分がまだ乙女だと実感する。
全くこの相棒は……
私はアゼールを抱っこして頬にキスする。
「私の初めてのキスだよ。アゼールが命を捧げてくれて、そして……私の異名を忘れてなかった事へのお礼。でも本当に私でいいの?」
「カロライナより素敵な魔砲少女なんていないよ。そうだ……最期に敵の防御装甲に魔力を感知。魔法装甲付きかな。ただ凄く弱いから普通の銃火器でも貫けると思うよ。さて、俺はブラック魔砲妖精労働から放たれて、恋人のために死ねる。最高だ」
そう言って、アゼールは光の束になり、胸ポケットにあるウィンチェスターマグナムに入り込む。
私は胸ポケットに手を当てて、「ありがとう、アゼール。すぐに向かうよ」とだけ言って、ララさんが用意してくれた最高級コーヒーのコピ・ルアクのトリプルエスプレッソを一カップ飲んで臨戦態勢に入る。
もうこれ以上大切な存在を失わせないために。




