第23話:Who hold the hope
第23話:Who hold the hope
私はあの後自宅で、世界でも最強クラスセキュリティで固めたパソコンでどうしても気になる事件があった。
私の因縁にして、人生の転換。
「大国区薬物中毒者運転致死傷事件……と……」
Now Loadingのマークがしばらく表示され、「レベル5の為表示できません」と映る。
なるほど、ならば……
「公安部、レベル制限についてと……」
するとレベル1は公開情報、レベル2は1年以内に公開情報、レベル3は警視庁公安部内の情報、レベル4は警視庁公安部課長及び課長補佐クラスのみ、レベル5は国家情報局提供レベルと書かれていた。
つまり私の両親を殺した事件は国家情報局が欲しがる情報だと確信した。
となると……やはりあの事件は不可解な点が多いのも納得がいく。
何故、お父さんとお母さんの2人のタイミングでダイレクトに交通事故で亡くなったのか。そして運転手の死刑が僅か3週間で実行され、全て報道されなかった点。
私の想像以上に日本政府は私に誠実でないことが分かってしまった。
ベッドに大の字になり、深呼吸する。
自分の祖国をどこまで信用していいのか、悩む。だが少なくとも山岩陸将や国岩陸将補は信頼できる。そうであってくれないと困る。
そんな時スマホが鳴り、着信先を見るとカロライナからだった。
彼女は人に嫌われたくないため、仲間の魔砲少女のいる国の時間に合わせて連絡をくれる。こんな深夜に送るのは何が余程のことだろう。
「どうした?」
「弥生!今自宅か!?落ち着いて聞いて!」
「まずはあなたが落ち着いて。どうしたの?」
「JSOCから弥生のイノセント・ピース強奪命令が発令された!承諾のフリをして、今中部国際空港にいる!そして……」
「そして……?」
「任務失敗したら私は殺される……」
国に忠誠を誓い、祖国のために尽力した彼女が政府のワガママで戦略兵器の強奪を指示され、失敗したら射殺。
最悪と言っても過言では無い状況に私はスマホを落としそうになる。
ベッドから起き上がり、パソコン机の前に座り、山岩陸将にも文字入力で連絡を送る体制に入り、カロライナから情報を聞く。
「JSOCと言えどもカロライナは簡単には殺せないはずだ。どのの部隊が動く?」
「恐らく、人類最強の対魔砲少女特殊部隊「ラスト・トリガー」だと思う」
ラスト・トリガー……どんな環境でも確実に敵を撃ち抜くように訓練された殺戮専門の特殊部隊。慈悲もなく、射撃の技術で彼らに並ぶ者はないと言われている。
「任務失敗の条件は?」
「私が48時間以内にイノセントピースを獲得出来なかった場合のみになってる。かなりの自由裁量権からアメリカは本当に欲しがってるよ」
「厄介ね……自衛隊を頼るつもりは?」
「あえて言い方は選ばないけどさ……アメリカの同盟国が盟主国の指示を跳ね返すと思う?」
それもそうだ。日本はアメリカの飼い犬とすら言われることも考えると、胃が痛くなる。
じゃあ何故アメリカは直接日本政府にイノセントピースの譲渡を指示しないのか?
「私もあまり考えたくないけど……カロライナの自らの意思でイノセントピースを奪ったことにしたい……とか?」
「その通りだよ……仮に自衛隊を頼れば、うちのステイツの野郎共は私の意思で奪い取ったと言い張るだろうね。ハハッ……最悪すぎて笑えてくるよ」
それから数分間情報整理と今後の作戦を練っていると山岩陸将から連絡が来た。
「カロライナ、山岩陸将にも繋げてもいい?」
「構わないよ」
すると寝起きなのか少しいつもより枯れた声で、ゲフンゲフンと言いながら、いつもの威厳のある声が聞こえる。
「あーすまない。年寄りになると寝てる時は喉が渇くんだ。さてカロライナ君件について概ね理解しているつもりだ。身柄を隠してあげたいが防衛省と外務省が相当な嫌悪感を示すと考えられる」
やはり打つ手はないか……でもこのままカロライナと撃ち合うなんて嫌だ!
彼女に救われておいて、最期は殺すなど……これでは、私もアイツらと同じだ!!
「山岩陸将!なんとか手立てを!!」
私の心からの叫びに、うねり声をあげた山岩陸将は何か思いついたようで、席を立つ音が聞こえる。
「ラスト・トリガーを殲滅する。それしかあるまい。英雄は万軍相手にして尚も奮戦。カロライナ君。君の覚悟を聞かせてくれ」
「私は……誰も傷つけたくない……でも助けてくれた弥生達を、仲間である弥生達を殺すなんて私は……死んでもしたくない!」
「よく言った!ならば私も応えよう。朝月君、君の学友のララ君を頼りたまえ。彼女は表向きは留学生だが、正式な特別学生外交官だ。自宅内に武器庫や市ヶ谷駐屯地への地下通路もある。それに外交官に弾当てれば一瞬でアメリカは追いやられるだろう」
ララさんを頼る……か。彼女なら喜んで引き受けてくれるだろう。だけど政府のいざこざには巻き込みたくない。何か手立ては……
「山岩陸将。私も戦わせて……」
「許可できん。日本政府公式の魔砲少女が米軍最精鋭特殊部隊に発砲したとなれば、外交問題に発展しかねない。そうなったら魔砲少女ドクトリンどころの話ではなくなる。だからこそ学友のララを頼れ。彼女の父親と私はそこそこの付き合いがある。そして協力要請も受諾された」
根回しが早く、そして幅広い交友関係を持つ山岩陸将だから出来た事なのだろう。
私が戦えないのは非常に歯がゆい話だが、今は守りに徹し、カロライナとララさん信じる他ないか……
「ミスター山岩……ありがとう。今日本にはリリーナもいたはずだと思うんだけど彼女とも挨拶がしたい」
「無論、ロシア大使館に連絡済みだ。これはただ仲の問題ではなく、ロシア政府もこの件を『知ってしまった』という事が、今後のアメリカの首を締めるだろうな。さて、私も久しぶりに実戦に参加するとしよう」
え?山岩陸将は確か統合幕僚監部の出身……その前は確か……なんだっけ?
「山岩陸将。失礼ながら統合幕僚監部以前はどこへ?」
「あーそういえば話してなかったな。3等陸尉時代は中央即応連隊普通科部隊狙撃中隊長だよ。これでも深夜に大雨の中で1.3km狙撃も成功させれるが、今はどうかな」
山岩陸将が死亡したとなれば大変なことになる。だけどそれを分かってない人でもないはず。何か策があるはずだ。
山岩陸将の冷徹なまでの作戦頭脳が、ただ信頼できる戦力の魔砲少女の為に命と名誉を捧げるとは思えない。
「陸将、何か策を練ってると思われますが、何を?」
「まぁ、ちょっと『殴る』だけだ。殺しもしないし、傷もつかないだろうし、弾丸も砕ける。貴官ならこれがどういう意味かある程度は分かるだろう。すぐにララ君の家に迎え。時間が惜しい」
「……承知しました。カロライナ……後で居場所送るね」
「ありがとう。ミスター山岩。弥生……そろそろラストトリガーの部隊長も来るから切るね」
通信が切れると同時に私は荷物をまとめて、ララさんの家まで魔法現実反作用で空を飛びながら、彼女の大邸宅へと向かった。
夜空には雷鳴が鳴り響き、こんな所で感電死などしたくないと思いながら、ララさんは玄関ドアの前で私を待っていてくれた。




