第22話:Narita・panic
第22話:Narita・panic
ギリシャでの特別研修が終わり、帰国すると随分と成田国際空港が騒がしかった。
学校の先生方も困惑しており、私たちの護衛についてる隠れ魔砲少女達も拳銃を引き抜く準備に入ったのが見えた。
その時、パンッ!という軽い銃声と共に十数名覆面姿の武装した明らかなテロリスト集団と6名の魔法を検知した魔砲少女、恐らく非正規の荒くれ者達が空港内の占拠を宣言する。
私は制服のボタン型マイクで全隊発砲厳禁を宣言する。
下手に発砲すれば民間人の死者が出かねない。
すると先生が耳元で「戦わないんですか?」と問いかけてくる。
「敵も馬鹿じゃないです。この広い成田を占領しつつ数万人単位の人質を管理しながら、警察などの対処も任されてると考えればこの人数では足りません。敵の意図と数を知るのが優先です」
私は辺りを見回しながら、学生服姿の大隊隊員にアイコンタクトと服装の触る位置で敵の様子を確認する。例えば目線の先を見て、スカートのポケットを触れば敵の疑いあり、右肩を2回叩けばこの付近に敵はいないという感じだ。
「おい!そこの魔砲少女!分かるぞ。朝月弥生2等陸佐だな。下手な真似はしない方がいいぞ。いくらお前と言えどもスナイパーには勝てないからな」
「よくご存知ね。あなたの武器のリボルバー……錆びて動かないんじゃない?」
「なに?」
リボルバーを確認したのを見て、彼女達は計画は立てているが素人だと判断するには充分だった。
「全く錆びてないぞ。もしかして隠語か?」
「あなたの腕が錆びてると言いたかったわ」
「ふざけるな!」
リボルバーを向けてくるが、私は一言。
「なぜ撃たないのかしら?」
「弾薬の無駄だ」
なるほどね。敵の弾薬はそう多くはない。政府系が絡んでる可能性は低そうね。となると過激派集団か。
だが実質統率の取れてない民兵のようなものだ。交戦規定が明確に定められ、軍令通りに動く軍事系テロリストの方が扱いやすい。
もしここで魔砲少女の死者が出ればアサルトライフルの一般反社男性達が発砲する可能性がある。
私は軍用腕時計のバンドの裏側のボタンを何個か押して、大隊隊員に外側に回り、包囲戦滅するように指示する。
「リーダー、さっきまで怯えてた学生何名かが姿を消しました」
「なに?すぐに特定および必要に応じて射殺しろ」
「相手が魔砲少女かもよ?」
「うるさい!本気で撃つぞ!」
私は視線をチラッと横にすると既に柱や壁を盾にしている大隊隊員が全敵に照準を合わせてることを確認する。
「ねぇ、お嬢ちゃん。1つ取引しない?」
「お……聞くだけ聞いてやる」
「今あなた方は誰も傷つけてないはずよね?なら軽い罪済むはずよ。そこで私が交渉して、就職先を見つけてあげる。無論罪も消えるかもね。ここで降参しない?」
「ふざけるな!我々月下の狼は貴様らなんかに屈するものか!」
「残念っ」
私が左手でお嬢ちゃんのリボルバーを弾くと同時に、あちこちで9mm拳銃の発砲音が20発の短い演奏でお嬢ちゃん以外の敵を全員即死させる。
「え……ま、待って!!」
「あら?屈するの?」
「誰か!誰かあいつを撃て!」
その場は静まり返るのみだった。彼女の計画は立ててはいるがあまりにもずさんかつリスク管理がなってない。恐らく敵は全て排除しただろう。
ただ一番怖いのは……
「ねぇ、仲間がいるでしょ?しかもヤバいやつ。教えて欲しいなぁ?」
私はコルト・ターミネーターを引き抜き、お嬢ちゃんの脳天に突きつける。
「知ってる?この銃はね、あなたの頭蓋骨くらいなら簡単に粉々にできるわよ。でもあなたは魔法現実反作用で防ごうと思ってるけど、銃口と頭蓋骨まで1ミリ無いから防げないわね」
「管制塔にスナイパー!!」
と同時にドンッ!という音が聞こえた時には私は魔法装甲を軽く張っていたので簡単に弾く。
「12.7mmNATO弾か舐められたものね」
私は管制塔に狙いを定め、コルト・ターミネーターを魔砲化させて、スナイパーのライフルだけを撃ち抜く。
パンッ!という軽い銃声と共に蒼い雷撃が銃を粉砕したのが僅かに見えた。
「お嬢ちゃん残念だったね。お姉ちゃんは言うこと聞かない子は嫌いだから政府系魔砲少女の侵食浄化用の少女になってもらうわね」
「お……お願いします……それだけは……」
「あなたに唆された人達は皆頭蓋骨が壊れちゃったのよ?自分だけ逃げるつもり?」
「本当に!本当に!ごめんなさい!終身刑でも受けますから!」
私は彼女の胸ぐらを掴み、睨みつける。
「私見ちゃったんだよね。管制塔にいる人全員殺したでしょ。誰も無実の人を殺してなければ救いはあったかもしれないのにね。で?あなただけは生き延びようとしてるの?……そんな都合のいい話があるわけないだろ」
私はこの都合のいい社会の厳しさを知らない少女をターミナル内の防犯窓に叩きつけ、気絶したところを拘束する。
「弥生さん……怖かったです……」
「桜さん……ごめんね。私は民間人を殺したテロリストには容赦しないタイプなの」
「大隊各隊員へ、念の為周囲捜索。ウェポンズオールフリー」
「「「はっ!」」」
そして警察と機動隊が突入してきて、なんと奇遇なことかソウル・メイト時の公安刑事が出てきた。
「お久しぶりですね」
「またお前かよ……犯人は鎮圧したのか?」
「マル害(被害者のこと)は確認できる範囲では管制塔内での複数の死者あり。マル被(容疑者)はこのターミナル内ではそこに倒れて拘束されてる魔砲少女以外全員殺しました」
「はぁ……文句は言いてえけどそんな訳にもいかなさそうだな。多分コイツら薬物やってるから重傷でも銃を撃ってきた可能性がある。即死は正解だったかもな」
私は録音したボイスレコーダーと大隊隊員に送った指示を1寸の狂いもなく伝える。
この公安刑事も驚いていたが、私としても聞きたいことがいくつかある。
さぁ聞かせてもらうよ。公安の刑事さん。
「『アメリカの外』が動いてるって言うことは南米カルテル絡みですか?」
「さぁな」
「私達の便が到着するまでは普通に物事が進んでいた。そしてターミナル内で動きがおかしくなった。私達が到着する前の直近の便は南米とハワイとフィリピンでしたね。どちらも比較的銃が手に入れやすい。ですよね?」
公安刑事さんはイラつきを隠さずにタバコに火をつけて、誰も人がいない御手洗前まで手招きしてくる。
私も周囲を確認しながら、「消毒(尾行がいないこと)は済んでます」と伝えると、吸殻ケースにしまい、情報提供する気になったようだ。
「どこかのバカネットハッカーが魔術界との戦争の事案をリークした。そのせいで魔術界側に着こうとした連中が銃器を買い漁ってテロを起こしてる。これはニュースになってないテロも含まれてる」
「そしてそのネットハッカーはアメリカ政治中枢部にまで入れる実力の持ち主。あるいはサイバー戦が弱い日本政府中枢に潜り込んだか。後者の方が容易で、科捜研の人たちがスマホを念入りに探していたことから日本政府サーバーがやられた感じ?」
公安刑事さんはめちゃくちゃ重たいため息を吐き出して、名刺とUSBメモリーを渡してくれる。
これは信頼してもらったっぽいな。情報は多いに越したことはない。
「俺の所属と警視庁のHPの名刺の裏のコードを事件検索欄に入力して、そのUSBが挿さっていたらレベル4までアクセスできる。そして名刺を見てわかったと思うが……」
「酒月警部のお父さんですか?」
「そうだよ。俺は娘が信頼してる朝月弥生に賭けてる。2等陸佐でもなく、極東管区防衛大隊の魔砲少女小隊長でもなくな」
「承知しました。共有範囲はどこまてですか?」
「お前の心の中に全部しまえ。だが、お前が死んだら娘が悲しむ。優秀な魔砲少女と信じてケースバイケースで構わない」
「ありがとうございます。期待は裏切りません」
そして私は学校の皆と合流し、ギリシャからの旅と成田国際空港でのテロ事件に終止符を打つ。




